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「イヴァン、こちらのお二人を防壁の見学にご案内して差し上げてくれ。」


「はい。イヴァンです、どうぞ宜しく?」


 イヴァンさんはこちらを向いて笑顔で挨拶してくれかけたところで、目を瞬かせました。


「あれ? 孵化したハザインバースの雛に懐かれてた人?」


 言われてこちらもマジマジと見つめ返してしまいましたが、そういえばあの場に居合わせた第三騎士団の人にこんな人が居たような気がします。


「あー、あの時ご一緒だった人ですか? ヒヨコちゃんのお父さんを前にして固まってた人?」


 つい余計な一言を付け足してしまうと、カチンと一瞬固まってしまいました。


「あ、済みません。お手伝い出来なくて。あの時ホント俺の人生終わったと思ってました。」


 本当に近くにいた人みたいですね。


「それなのに、貴方は冷静に対処してらっしゃって、凄い人だって思いました。」


 そこは全然冷静とかではなかったのですが、シルヴェイン王子の視線が怖いので、冷静だった事にしようと思います。


「あはは、そんなことなかったですけどねぇ。ま、何とか乗り切った的な。」


 色々濁しつつサラッと流したいこちらの意図に気付いたのかどうか、イヴァンさんはにっこり笑顔になりました。


「あの雛が王宮で育って巣立ったんですよね? 本当凄いです! あの、お名前伺っても?」


 ずいっと前に出て来たイヴァンさんにケミルズ隊長がギョッとした顔をしています。


 と、くいっと服の背を引かれて一歩下がったところで、両サイドからシルヴェイン王子とコルステアくんが寄って来ます。


「「馴れ馴れしい。」」


 二重奏でボソッと呟くの止めましょう、そこのシルヴェイン王子とコルステアくん。


「ちょ、名前くらい。」


 2人を両手で横に押し開いて、下がった一歩分前に出ます。


「レイ・・・です。」


 何て名乗るか決めてませんでしたね。


 旅立ってからは、レイナードで通せば良いと思いますが、明らかに挙動不審なシルヴェイン王子に決定的に変な噂が立たないようにするなら、特定出来る名前はマズイですよね。


「イヴァン、失礼のないように適切な距離感で、レイ殿をご案内申し上げるように!」


 ケミルズ隊長が最早投げやり感満載な表情で命令を下していました。


「あ、はい!」


 イヴァンさんも流れで敬礼を返してから、やはり腑に落ちなかったのか小首を傾げています。


「じゃ、行って来ますね〜。」


 ここはさっさとシルヴェイン王子の元を去る事にして、コルステアくんと共に移動し始めました。


「レイさん、そのふわふわの真っ白な狐? ペットですか? サークマイトに似てますよね?」


 無邪気に問い掛けて来るイヴァンさんに、思わず笑顔が引きつりそうになりました。


「あ、えっと。聖獣化したサークマイト、かな?」


 そう控えめに答えてみると、イヴァンさんは大きく目を見張りました。


「ええ? 本当にサークマイトだったんですか? 凶悪な感じもないし、生まれた時から聖獣だったみたいな佇まいじゃないですか?」


 これには、隣を歩くコルステアくんがコルちゃんを睨み付けていて、乾いた笑いが浮かびます。


「出会い頭以降は、サークマイトだった頃も凶悪な感じはしなかったけどなぁ。私は。」


 今度はこちらにもコルステアくんの睨みが来たので、私はを追加しておきました。


「へぇ。個体差だったんですかね? 不思議な事もあるものですね。」


 絶対に間違った解釈をしているような気もしましたが、面倒なのでそのままにしておこうと思います。


「こちらから防壁に上がります。お二人は第二騎士団の方々ですか?」


 イヴァンさんの問いに、チラッとコルステアくんと視線を交わしてしまいました。


「私は一応そう。ただ、今後はどうなるかまだ未定で。こっちの弟は騎士じゃなくて魔法使い。」


「ああ、弟さんなんですね? まだお若そうですもんね。」


 コルステアくんの年齢ははっきりと聞いたことはないんですが、多分10代半ばじゃないかと思ってます。


「この階段、ちょっと急勾配だから弟さんは気を付けてゆっくり上がって来て下さい。」


 まだ若い魔法使いなコルステアくんを気遣ってくれたようです。


 ただ、体力値だけで言うなら、レイカも変わらないかもしれません。


 が、そこは見た目成人男性のレイナードなので、ひ弱そうに見えても騎士と言われればこのくらいって思われるのでしょうね。


 コルステアくんに合わせてるふりでゆっくり階段を上っていきますよ?


 こういう時は空気読んでくれるコルステアくんで助かりました。


 上り切って扉を開けて出た先は、人が横向きにしっかり3人は並んで立てる幅のある防壁の上でした。


 両端に転落防止の壁と、外側には外敵の侵入防止にか忍び返しのようなものが付いています。


 ちょっと息切れしてるのを誤魔化しつつ、防壁の上からの景色を楽しみます。


 防壁の外は、一定距離まで赤茶けた大地が広がり、その外側は一面の草原といったところでしょうか。


 その草原を突っ切るように舗装された石畳の道が何本か伸びて行き、その外側にその倍程の幅の赤茶けた道が広がっているように見えます。


 防壁の真下を覗くと、布張りのテント群がぐるっと街を囲んでいるようです。


「うーん、街の外は思ったより不毛の大地?」


 ポツリと漏らしてみると、隣に並んだコルステアくんから溜息を貰いました。


「街の外は、街道以外はいつ魔物やら魔獣と遭遇するか分からない危険地帯だからね。」


 ブスッと脅すような言葉をくれるコルステアくんに、引きつった笑みを浮かべてしまいました。


「まさかぁ。弟くんはちょっと怖がりだなぁ。ここから見える範囲? チラッと見えるあの林の辺りまでは晩秋になる頃までは魔物も見ないよ? ね?レイさん。」


 同意を求められて困ってしまいますが、ここは祖国人お得意の曖昧に笑うスキルで流すことにしました。


「弟くんは王都から出たことないのかな? レイさんは討伐任務とかにもガッツリ出てらっしゃるでしょうからご存知と思いますけど、王都や領都、大きな街がある場所は魔物が近寄り難い自然力に満ちていたり、魔物避けの大規模魔法が施されていたりして、魔物は近寄りたくない場所になっているんだ。」


 コルステアくんにと親切心で説明してくれた様子のイヴァンさんでしたが、コルステアくんは苛立ちを飲み込んだようなブスッとした顔をしていました。


 が、こちらとしては有難い前情報だったので、可愛い弟を微笑ましく見守りつつ撫でるの構図で、コルステアくんを宥めておきました。


 イヴァンさんが防壁の向こうに視線を投げた途端に、射殺されそうな目で睨まれたましたが、気付かなかったことにしようと思います。

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