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 営所内の来賓視察時の宿泊室に泊めてもらうことになりましたが、寝室は二部屋しかなかったので、シルヴェイン王子が一室、コルステアくんと2人で一室ということに落ち着きました。


 今回の初めての外泊でヒヨコちゃん親子の朝の来訪がどうなるのか確かめた上で、大神殿に出発するのは3日後という事になっています。


 但し、その前に遠征の話しが出たら、即出発になります。


 と言う訳で、ケインズさんとオンサーさん、クイズナー隊長は、今日から休暇に入って出発準備を整えてくれているそうです。


 フォーラスさんと護衛さん達にも、この外泊が済んだら直ぐに出られるように準備しておいて欲しいと、事前に話しがついています。


 遂に旅立ちの空気感漂う状況で、シルヴェイン王子の過保護的言動に戸惑う日々にもなっていました。


 部屋に荷物を置いてから、コルちゃんを降ろしてあげると、直ぐに聖獣様バージョンに切り替えてから足を伸ばしてノビをしています。


 やはり、抱っこ紐収納中は窮屈なのでしょう。


「ねぇ、ハイドナーからノリでお弁当と水貰ってたけど、何処でいつ食べるつもり?」


 そう突っ込んできたコルステアくんの台詞に、一瞬固まってしまいました。


 確かに、昼食後の出発でしたから、次は晩御飯で、当然シルヴェイン王子もいることですし、営所で食事が用意されていそうな気がします。


「えっと、おやつ、かな?」


 しかもハイドナー、きっちり一人前しか渡して来なかったので、本当にどうにもならない分量です。


「頼むよおねー様。先が思い遣られる。」


 コルステアくんの冷たい一言はいつものことですが、これは地味に痛いかもしれません。


「う。後で半分ずつ一緒に食べよ?」


「そーいうの、殿下とやりなよ。きっと喜ぶんじゃない? 良い雰囲気だったじゃない?」


 厩舎でのやり取りを見られていたんでしょうか?


 人が悪い弟ですね。


「だから、呪詛問題が片付かないと次には発展しようがないんだから、今そういうこと言っても意味がないでしょ?」


「まあ、今おねー様がそれを言い訳に逃げるのは勝手だけどね。いつまでも逃げられる訳じゃないからね。良い加減腹括って真面目に結論出しなね。少なくともこの旅が終わる頃には。」


 そこが期限だということは、言われなくても分かっています。


 気持ちが思いっきり傾きかけていることにも。


 ただ、だからこそ約束出来ない未来を夢見るのは怖いじゃないですか。


「あ、そういえば。防壁の上の見学とか、させて貰えないかな?」


 そうわざとらしく話しを逸らしてみると、コルステアくんにはこれ見よがしに溜息を吐かれたようです。


 コルちゃんを従えてコルステアくんと部屋を出て行くと、廊下の向こうでシルヴェイン王子と第三騎士団の偉い人が話しているのが見えました。


「今月に入ってもう10件目です。そろそろ時期とはいえ幾ら何でもこんな事は有り得ない。何かが起こっているのは間違いないかと。」


 何の話か分かりませんでしたが、深刻な様子です。


「一つの事件としては、直ぐに解決しているから大事として報告が上がって来なかったのか。確かに、妙な話しだな。」


 答えるシルヴェイン王子も何か考え込んでいるような様子ですね。


 ただ、近付くこちらに気付くとシルヴェイン王子はその深刻な表情を崩したようです。


「何かあったんですか?」


 教えて貰えるかどうかはともかく、気になったので訊いてみました。


「いや、街中で魔物の出現が頻発してるそうだ。一件一件は直ぐにかたがついていて大事になっていないようだが、頻度がな。」


 思いがけず普通に教えてもらえた事には拍子抜けしてしまいましたが、ハッとして顔を上げました。


「あ、私も街に降りた時、双頭蛇の魔物が出たって騒いでるの聞きましたよ?」


「ん? ああ、護衛を探しに行った時か?」


 頷き返すこちらに、シルヴェイン王子は難しい顔になりました。


「普通は街中に出るような魔物じゃないはずなのにって言ってました。」


「ああ、そのようだな。何か起ころうとしている前兆じゃないかと民が不安になっているそうだ。」


 その何処か気持ちの悪い感覚に、シルヴェイン王子の顔をじっと見つめ返してしまいます。


「あの、殿下? やっぱり残る殿下の方が気を付けて下さいね。上手く言えないんですけど、次々起こってる割に色々スッキリしてないんですよ。」


 第三騎士団の人が居るので、根拠もなく具体的な事は言い難いのですが、強いて言うなら虫の知らせで嫌な予感がするみたいなものでしょうか?


 元の自分はそんなキャラじゃなかったのですが、こちらに来てからの嫌な予感は的中する事になってますから。


「・・・そうか。気を付けておこう。」


 シルヴェイン王子の方もそう簡潔に答えてその話しを終わらせました。


 が、そのシルヴェイン王子との様子を見ていた第三騎士団の人が驚いた顔になっています。


 良く考えると事情を知らなければ、フード付きとはいえレイナードに見えるこちらとシルヴェイン王子の会話に違和感を覚えたのでしょう。


 これもそれも、場も憚らずシルヴェイン王子の言動に熱が籠っているからなのですが、本人はもしかして無自覚なんでしょうか?


 色々気まずくてこちらが困ります。


「あの、殿下。恥ずかしいですから、その無意識に持ち上げた手で撫でようとするの止めてください。」


「ん? ああ。」


 イマイチ分かっているのかどうか分かりませんが、手を下ろしたシルヴェイン王子にホッと息を吐きました。


 フードの上から撫でようとしてたんでしょうが、時々落ち掛けるので、それも止めて欲しいところです。


 と、やはり第三騎士団の人が驚きに目を見張っています。


 これ、あらぬ噂を呼ぶことになるのでは?


「殿下、防壁見学に行きたいみたいなんですけど。」


 ここでコルステアくんが口を挟んで話題を変えに掛かってくれました。


 第三騎士団の人に改めて目を向けたシルヴェイン王子は、漸く妙な空気に気付いたようでした。


「ケミルズ隊長? こいつのことは、王家の秘匿事項に当たる。色々と疑問に思うこともあると思うが、追求するな。」


 中々上から強引に押さえる方針で口止めをしたようですが、そこはお任せでいこうと思います。


「はい。承知致しました。」


 何とか答えた様子のケミルズ隊長ですが、ちょっと悪い事をしてしまいました。


 呪いが解けたら改めて自己紹介出来ると良いんですが。


「防壁見学でしたね? これからご案内しましょうか?」


 少し上擦った声になっているケミルズ隊長ですが、偉い人に案内して貰うのも悪い気がします。


「殿下はまだケミルズ隊長とお話しがあるならどうぞ。私とコルステアくんで見学して来ますから、お手隙の隊員さん誰か紹介して下さい。ついでに明日の朝ヒヨコちゃん親子を迎える場所の確認もしたいので。」


 ケミルズ隊長がシルヴェイン王子の顔色を窺うように見ています。


「そうか。防壁は誰かに案内して貰えば良いが、ハザインバースが降りて来る場所は私も見ておきたい。」


 そう答えたシルヴェイン王子に、ケミルズ隊長はしばらく巡らせてから、パッと廊下の向こうを振り返って誰か人を呼んでくれたようです。


 それに従ってこちらに走って来る騎士さんの姿が見えました。

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