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「仕方ないんじゃないですか? バレたものは。」


 クイズナー隊長にそう取り成してみると、じっとりした目を向けられました。


「結局、元凶は君でしょう?」


「でも、不幸中の幸いじゃないですか? ライアットさん、ハザインバースの生態に詳しいんでしょう?」


 道中、現物を見てバッチリと対策を立てる手助けをして貰えるんじゃないでしょうか?


「いや、待ちなさい。君は不用意な発言は禁止、というか終わるまでやっぱり黙ってなさい。」


 そうやって隠すから、後々面倒なことになるんだと思うんですが、保護者役としては折れられないポイントなんでしょうか。


「分かりました〜。話しが終わるまで待ってます。その代わり終わったら確認したいことが二つあるので。」


「はい?」


 反射で問い返した後、深々と溜息を吐いたクイズナー隊長。


「君、実は問題行動を起こす愉快犯とかじゃない?」


「愉快犯じゃないですけど、良いことも悪いことも、引きが強過ぎるみたいですね。絶対、身体由来の体質です。」


 にこりと笑って返しておくと、肩を竦められました。


 それから大きく息を吐いてから、クイズナー隊長はリックさん達に向き直りました。


「雇い主は、ランバスティス伯爵だ。2人は若君レイナード殿の同僚で友人として付き添ってくれることになっている。第二騎士団ナイザリークの団長シルヴェイン王子のご好意だ。因みに、隠してもバレそうだから言っておくが私も同僚で彼らの先輩だ。」


 なるほど、嘘は言ってないですね。


 スポンサー(お金のでどころ)だけはちょっと曖昧ですが、どちらが出しても不思議じゃないので黙っておこうと思います。


「何か誤魔化された感はあるが、護衛内容に説明外の要素がなくて、報酬の支払いが滞らないなら問題ないということにしておこう。」


 リックさんがそう言って、荷物から紙を取り出してました。


 その紙、薄らと光に包まれているので、魔法契約書とかでしょうか?


 テーブルに広げた紙に、すらすらと契約内容を書き記していくリックさん。


 クイズナー隊長はそれをじっと見つめているようですが、口は出さないようです。


「あの、護衛内容に突発的に追加項目が出た時は別途報酬について都度相談って項目入れとくべきでは?」


 小心者のこちらとしては逃げ道が欲しいです。


 と、リックさん達に胡乱な目で見られ、クイズナー隊長には不出来な子に向ける視線を貰いました。


「ねぇ、若様ってもしかして魔力感知に敏感? それが魔法契約書だって分かってるんじゃない?」


 ジリアさんからのポツンと発言に、室内の皆がギョッとした顔になっていました。


 途端に顔を顰めたクイズナー隊長は、リックさんに厳しい目を向けています。


「そういうのは、双方の合意を得てから作成するものじゃないかな?」


 穏やかを装って糾弾していますが、目が笑っていませんね。


「これは、明らかに隠し事が多過ぎる依頼に思える。いくら親父さんの甥っ子くんが絡む依頼でも、こちらも自分達の身を守る保証が欲しいからな。」


 悪びれずに言い切ったリックさんに、ふっと笑みが浮かびました。


「あのね。そっちの魔法使いさん達2人にも、ハザインバースの生態に詳しいお兄さんにも、色々事情があってそれ絡みで不測の事態が起こらないとは限らないでしょう? こちらも同じなんですよ。どうにも私自身がそういうの呼び易い体質みたいだから、正直何が起こるか分かりません。魔物出没時期にも当たりますし、シンプルに護衛の頭数が欲しいっていうのがこちらの希望です。お互いどんな事情を抱えていようが、無事に皆で帰ってこれたら改めて報酬のお話しましょう。それじゃダメですか?」


 顔色を無くした魔法使い2人と厳しい顔になったライアットさん、それを受けて絶句したリックさん達でしたが、しばらくしたら咳払いしました。


「正直、魔石の指輪を見抜いたことと言い、あんた何者だって追求したくなったが、やったらヤバいんだろうなってことだけは分かるよ。言われた通り、契約書には別途項目を追記する。そして、署名はあんたがしてくれ。」


 こちらを真っ直ぐ見てそう言ってくれるリックさんですが、これはお勧め出来ませんね。


「うーん。それは、止めた方が良いかな? 私が大神殿に行く理由にも関わるんだけど、今どんな署名をすれば正解になるか分からないんだよね。」


 頭をこそっと掻きつつ漏らした言葉に、リックさん達の顔が引きつりました。


「そうだな。まあ、署名は僕で我慢して貰おうかな。」


 口を挟んだクイズナー隊長の言葉が少々冷たかったですが、気付かなかったふりをしておこうと思います。


 頑張って下さい、護衛の皆さん。


 旅立ち前から何故か波乱が見えるような気もしますが、平穏平和とは今のところ縁遠い人生を歩まされているようです。


 不運にも関わることになってしまった皆様には、申し訳ないところですが、諦めて付き合って貰うことにしましょう。


 と、隣で大人しく前足を揃えて座っていたコルちゃんが唐突にお尻を浮かせてキョロキョロし始めました。


「コルちゃん?」


「キュウ。」


 何処か不安そうに鳴いたコルちゃんはまだキョロキョロしています。


「「マーダワルスが出たぞ!」」


 そんな叫び声が店内入り口の方から聞こえて来ました。


「マーダワルス?? 街中に?」


 オンサーさんの怪訝そうな声が聞こえて来ます。


「マーダワルスって? 魔物ですか?」


 振り返って聞き返してみると、オンサーさんが眉を寄せて頷き返してくれます。


「双頭蛇の魔物だが、林の水辺なんかに生息してる。毒持ちでちょっと厄介な魔物だ。」


 言いながら、クイズナー隊長やオンサーさんケインズさんが立ち上がり、リックさん達も武器を手に部屋を出ようとしています。


「第三騎士団到着までに住民の避難くらいは手伝うべきだな。」


 クイズナー隊長がそう言って振り返りました。


「君はここでこのまま待機。オンサー、ケインズ、行くぞ!」


 その掛け声に、向かいの席の2人が頷き返して垂れ布の方に向かいます。


 着いて行きたいところでしたが、コルちゃんが一緒なのと、まあ足手纏いにしかならないでしょうから、自粛しようと思い直しました。


 入り口でヒーリックさんに後を頼んで出て行く3人を見送って、ふとあちらも置いて行かれて室内に残っているシーラック少年と目が合いました。


 途端に動揺したように俯かれてしまいましたが、その肩が震えていることに気付いて、声を掛けてみることにしました。


「大丈夫だよ? 今のところ、大人しくしてるみたいだし。」


 その言葉に、シーラックくんは驚いたように目を見開きました。


 何か言い掛けて、やはり何も言えずに口を噤んだシーラックくんに、精一杯優しく微笑み掛けておきました。

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