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一先ず話しが纏まったところで、垂れ布の向こうからヒーリックさんが入って来ました。
「リック、ピード、外で待ってるぞ? 盗み聞きは失敗だろうからな。」
にやりと笑っていうヒーリックさんの発言に、クイズナー隊長の眉が一瞬だけピクリと動きました。
そして、リックさんが右手の中指に嵌めた琥珀色の石が付いた指輪を慌てて覗き込んでいるようです。
「こっちの盗聴防止の魔石の勝ちだね。純粋に魔石のサイズと、刻まれてる魔法の質の差かな。」
ポツリと呟くように口にすると、ギョッとしたようにリックさんとピードさんの視線が来ました。
「そうですね。この魔石、塔の魔法使いが刻んだ高品質な品ですからね。」
クイズナー隊長のこれもポツリと発言に、リックさんとピードさんに合わせてヒーリックさんにまで胡乱な目を向けられました。
「外の人達、入って貰えば良いんじゃないかな? 盗み聞きじゃなくて、ちゃんと聞けば良いことだし。」
そうリックさんとピードさんに告げると、2人はまた顔を見交わして、ピードさんが部屋から出て行きます。
「若君は、引き続き黙ってて下さいね。」
と、隣のクイズナー隊長からは圧の込もった一言が来ました。
ひとっ言も喋っちゃダメなんでしょうか?
少しむっとしつつ物凄く大人しいオンサーさんとケインズさんに目を向けると、何か困ったように目を彷徨わせているようです。
この2人も発言禁止令でも出されてるんでしょうか?
そんなことをしている内に、垂れ布を割ってゾロゾロと人が入って来ました。
途端に手狭になった室内で、自己紹介済みのリックさんとピードさんが目を見交わして椅子に近付いて来ます。
「悪いが、狭いから取り敢えず話しが済むまで隣に座らせてもらっても良いか?」
クイズナー隊長に許可を取るリックさん、ふとクイズナー隊長の座る椅子に目をやってから、コルちゃんに気付いたようです、そのまま動きを止めてしまいました。
「サ、サークマイト??」
聞き慣れてきた疑問符付きの問い掛けに、クイズナー隊長がにこりと笑います。
「深く追求しないで下さい。若君のペットです。」
コルちゃんの方がクイズナー隊長を挟んだ向こうに座ろうとしていたリックさんに警戒の目を向けていたので、そっとその頭を撫でてあげました。
「・・・サークマイトは、ペットにならないだろ。」
「変異種とか? 色もほら真っ白でサイズもちょっとデカいし。突っ込むなってことなんでしょ?」
ピードさんのほうがクイズナー隊長の無言の圧力に気付いたようです。
「はいはい。」
諦め半分な適当な相槌が返って来て2人がそれぞれクイズナー隊長とオンサーさんの隣に座ったところで、立ったままの他メンバーの姿に皆の視線が移りました。
リックさんと同年代に見える男性が1人と、レイナードより少し年下に見える女性が1人と、10代半ば程に見える少年が1人でした。
「・・・全員、護衛として何らかの役に立つんだよね?」
そうクイズナー隊長が確かめてしまったのも仕方ないことかもしれません。
女性と少年は、未成年じゃないかと思うんですよね。
そして、ちょっと気になることもあって。
今ここで発言すべきか迷いますね。
「ああ、俺とライアットは剣を使う。」
立っていた成人男性が頭を下げます。
因みに、リックさんはこの国では良く見る濃いめ金髪に青い目の厳つい系お兄さん、ピードさんは茶色に寄った金髪で明るいオレンジ色に近い茶色の目付きが鋭い人ですね。
ライアットさんは黒髪に藍色の瞳の人を寄せ付けない空気感の美男さんです。
「ピードは普段は細かい男だが、戦闘時はデカい斧を振り回して戦うウチの主戦力だ。そして、ジリアは弓矢を主体に飛び道具全般で戦闘補助を行ってくれる上に、短時間だが武器に火魔法の効果付与をしてくれる魔法使いでもある。」
ジリアさんは、アッシュグレーの肩丈の髪に大きめの青い瞳の女性ですが、魔法使いさんでもあるんですね。
「そしてシーラック、彼も魔法使いだがちょっと特殊な魔法を使う。軽量剣も学び始めてて筋も悪くない。口で説明は難しいが、戦闘時も最近ではなくてはならない程役立ってくれてる。」
ブカブカのフードから覗く髪はクセのある金髪で、恐らく翠色の瞳は何かを恐れるように揺れ動いています。
「特殊なというのは、戦闘補助? それとも攻撃的な魔法を使うのかな?」
暈した説明につい突っ込んでしまいたくなるのは、第二騎士団一の魔法の使い手と言われる隊長だからでしょうね。
「それは、実際事が起こってから見てもらった方が早い。」
苦い口調で言い切ったリックさんに、クイズナー隊長は溜息混じりに肩を竦めたようです。
「まあ、後出しがあるのはこちらも一緒でしたね。では、そこは双方その時にということで。」
言いながらこちらに視線を投げて来るクイズナー隊長。
確かに、ヒヨコちゃん親子のこととか、実は呪いで性別逆転してることとか、中身が異世界人だとか、明かすかバレるかはともかく、どっちと言ってこちらの方が秘密は多いでしょうね。
「では、契約成立に当たって、雇い主の確認を。」
こればかりは厳しい口調になったリックさんに、クイズナー隊長が視線を合わせたようです。
「待ってくれ。」
そこで耳覚えのない声が割って入って、目を上げると、黒髪のライアットさんが何故かオンサーさんとケインズさんに鋭い視線を向けています。
「騎士が2人付いてて更に護衛を雇う理由は? リックは詳しく聞いてるのか?」
ギョッとした顔のリックさんとピードさん、クイズナー隊長はオンサーさんとケインズさんに困った子を見るような残念そうな目を向けています。
「知り合いか?」
クイズナー隊長の問いに、ケインズさんが溜息を吐きました。
「ハンターでハザインバースの生態に詳しい人を探してみていて、会ったのが偶々彼だったんですよ。」
ぼやくような告白に、2人がさっきから大人しく黙って小さくなっていた理由が分かりました。
「親父さんの甥っ子の第二騎士団の騎士と同僚だって聞いた。」
しっかり正体をバラされたオンサーさんとケインズさんはしょぼんとして下を向いていました。




