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「問題は、ハザインバースの親子ですな。」


 にがり切った空気の漂う室内で、トイトニー隊長のそれはうんざりしたような声が上がりました。


「・・・そうだな。親子がレイカの移動に合わせてそちらに顔を出すなら、まあ道中色々と問題にはなるだろうが、ここで暴れ出されるという最悪の事態は防げる。」


 答えたシルヴェイン王子の言葉も苦々しいものです。


 何なら神殿から帰って来てから数日、シルヴェイン王子の機嫌は転落の一途を辿っています。


「ファデラート大神殿のある神聖都市マドーラまで、馬で片道10日として、滞在期間を含めて最低でも一月はかかるとなれば、流石に殿下の同行は不可能ですね。」


 その結論は、シルヴェイン王子の中でも出ていたようですが、ご本人様としては非常に不本意なようでした。


 一月を待たずして、魔物達が活発に活動する時期がやってきて、第二騎士団ナイザリークの繁忙期が始まるからというのが理由だそうです。


「だからその代わり、第二騎士団ナイザリークから護衛の為の騎士を出すことを陛下よりご許可頂いた。」


 ソライドさんから聞いた話しによると、ファデラート大神殿のマルキス大神官という人が、解呪の権威と言われている人物だそうです。


 その人に見て貰って解呪出来ないなら、その呪いと共に生きるしか道はないと言われている程だということでした。


 思い切るにしても諦めるにしても、彼に会いに行ってみてはどうかと勧められました。


 その話しを持ち帰ったシルヴェイン王子は、即行で国王陛下に相談してくれたそうです。


 そして、レイカのファデラート大神殿行きの許可が出た事を受けての今日のこの第二騎士団ナイザリーク隊長会議でした。


 実際のファデラート大神殿行きには、フォーラスさんが嬉々として同行を申し出てくれたので、道案内の心配はなくなったのですが、魔物が人間の活動圏に出て来やすい時期に入ることもあり、道中の安全確保の為に必ず護衛を付けると言われていました。


「どの規模で護衛を?」


 トイトニー隊長の問いに、シルヴェイン王子は少しだけ迷うような顔を見せました。


第二騎士団ナイザリークはこれから繁忙期に入る。騎士団から余り多くの人を抜いて護衛隊を用意することは出来ない。だが、レイカの側に少数でも信用出来る護衛を付けたい。」


 これまた不本意そうな声音でしたが、これはもう仕方の無いことでしょう。


「他の騎士団から護衛を出して貰う話しにはならなかったのですか?」


 カルシファー隊長が首を傾げるように問い掛けています。


「元々は第一騎士団から護衛をという話しがあったのだが、先日のリンド元団長の件から間がないこともあって取り調べも終わっていないからな。第一騎士団から護衛を出すことには、陛下も慎重なご判断をされたようだ。他の騎士団も第二騎士団ナイザリークと同じく人は裂けない時期に突入するというわけだ。」


 これにも苦い口調のシルヴェイン王子です。


「うーん。とは言っても、ウチから少数の護衛を出すだけでは心許ないのではありませんか? レイカ君の存在自体が希少ですからね。他国が嗅ぎつけて確保に乗り出す可能性もあるのでは?」


 これはクイズナー隊長からのご意見ですね。


「そうなのだ。だからいっそ、市井で商隊などの護衛を生業とする者達を雇って、レイカの身の上は伏せた上で貴族の若者を装い旅に出る為の護衛という名目で他国の目を欺く方がかえって良いのではないかと思ってな。」


 成る程、この短い期間で色々と考えてくれてたんですね。


「そういう事なら、レイカも気心の知れたケインズとオンサーを付けてやるのが一番でしょうな。」


 カルシファー隊長から嬉しい推挙が来ます。


「確かに。ですが、いざ魔物と遭遇したとなった場合、あの2人だけではまだ少々不安では?」


 クイズナー隊長の意見も一理ありそうです。


「その通りだ。そこで、クイズナー、私の代わりに行ってくれないか?」


 これには、クイズナー隊長本人を含め会議に参加した皆が驚きの顔になりました。


「しかし、クイズナー隊長の隊は?」


 トイトニー隊長の戸惑い気味の問いに、シルヴェイン王子は真っ直ぐ目を向けました。


「クイズナーが戻るまでは私の直下部隊とする。」


 これにはしばらく隊長達に難しい沈黙が落ちます。


「・・・確かに、クイズナー隊長の隊には魔法持ちが多く、しかも遠距離からの攻撃や支援を得意とする者が多い。だから、いつも後方部隊に配属される事が殆どだ。・・・まあ試しに、団長直下の部隊として使ってみるのもこの際良い機会なのかもしれませんな。」


 考えた末にトイトニー隊長がそう口にして、他の隊長達も同意するように頷いています。


「分かりました。では、私はレイカくんに付いてファデラート大神殿に行って参ります。」


 胸に手を当てて騎士の礼を取ったクイズナー隊長でした。


「クイズナーは丁度良い機会だから、道中馬を降りて手の空いた時にでもレイカや他2人に魔法の訓練をしてやって欲しい。若君の魔法の先生という役どころでいいだろう。」


「承知致しました。」


 クイズナー隊長がそう良い笑顔で答えたところで、恐る恐る手を挙げてみました。


「あのぉ。」


「ん? どうした?」


 会議開始前より少しだけ雰囲気の和らいだシルヴェイン王子の問いに、思い切って切り出す事にしました。


「馬、移動なんですよね?」


「そうだな。馬車だと倍以上移動に時間が掛かるからな。」


 やはりと顔が引きつりました。


「・・・私、馬乗った事ないんですけど。」


 これまた瞬き付きの沈黙を頂きまして、居た堪れない気持ちになりますね。


「・・・そうか。レイカは女性だから馬車しか乗った事がなかったんだな?」


 そう少し困ったように言われましたが、こちらも困った笑みを返してしまいます。


「うーん。馬車も乗った事ないですけどね。はは、あちらでは一般道を馬は走りませんからね。」


「・・・は? それじゃ長距離移動はどうするんだ?」


 このツッコミはカルシファー隊長から入りました。


「うーん。動力を乗せた鉄の車を運転したり、長距離に渡って敷いたレールの上をこれまた動力で走る長い箱型の乗り物を走らせてたりとか? ・・・まあ、色々文化が違いまして、多分ご理解頂けないと思います。」


 これには、何言ってるんだコイツ的な冷たい沈黙が流れました。


「馬が苦手とかではないんだよね?」


 気を取り直したようにクイズナー隊長が問い掛けて来て、これにも曖昧に笑ってみました。


「動物としては嫌いじゃないですよ? ただ、乗れるくらい近くには近寄った事はないんですけど。」


 動物園や牧場の柵越しのご対面が精々でしたからね。


「うん。では、出発前に私と特訓しよう。二人乗りは馬が疲れるしな。誰かと一緒に乗るという事態はなるべく避けるように。」


 何か非常に慎重に言及してきたシルヴェイン王子に首を傾げつつ。


 誰かに、同行者の皆さんにご迷惑を掛けるのも何なので、しっかり特訓しようと思います。

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