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「そうか。その時お前は、気持ちを抑えることが出来なかったのだな。」
「お前のその力は、凶器になり得る。制御出来なければ、危険なものでしかない。」
「この子にはまず何よりも、感情と力の制御を覚えさせなければならない。」
「二度とあんなことを引き起こさないように。」
同じ男の声が幾度も繰り返し頭の中に流れ込んで来る。
その度に息苦しさに呼吸が荒くなる。
『ならば、奥底に封じて、なかったことにすれば良い。』
何処か聞き覚えのある掠れた声がボソリと呟く。
「駄目よ。そんなの勿体無いわ。貴方なら出来る! 自信を持って! 私が見守ってるから!」
優しく明るい声を掛けられて、胸が震えるように熱くなる。
だが、それは直ぐに火を消したように沈み込んだ。
『でも、君は僕を選んでくれなかった。』
また掠れた声が呟いて、先程とは違う激しい燃え盛るような熱に苛まれる。
「駄目よ。こんな風に私を閉じ込めても、私は貴方の思い通りにはならないのよ。ただ、貴方が苦しむだけだわ。」
そうして温もりはすり抜けて行って、凍て付く心だけが残る。
凍て付く心は、縋るように熱を求める。
『ならば、僕だけの人を連れて来ればいい。誰にも奪われないように、誰にも見せずに僕の中に閉じ込めて。』
途端にグツグツと煮え立つような熱が生まれて、他の事は考えられなくなる。
「それはならない、禁呪の一種だ。」
諭すような老人の声が聞こえてくる。
「純度の高い君の魔力ならば、あるいは成功するかもしれない。だが、理を越えたその術を行った対価として、君達の運命は歪められる事になるだろう。」
『構わない。僕が消えても、僕の中に僕だけの彼女が残るのならば。』
縋るような声は、老人の声に否定される。
「そうはならないだろう。望んだのは君で、呼び寄せた彼女は君ではないからだ。二つは一つにはなれず、一つは理の外に出される。内と外を入れ替えることは出来るが、二つを同じ場所に置く事は出来ない。それを強行すると、互いに酷い負荷が掛かる。」
『その負荷とは?』
「互いの存在と運命の中途半端な融合。もしくは交換。」
それを最後に話し声は薄れて聞こえなくなってしまった。
静かで虚なその場所で、すうっと息を吸い込む音が聞こえた。
『・・・ごめんね。僕だけの愛しい人。』
耳元で囁くその声に、ぞわりと鳥肌が立つような気がした。




