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「あら、ここは相変わらずね。婚約者が出来たのなら少しくらい華やかな応接室にしても良いんじゃないの?」


 そんな懐疑的な視線を向けつつシルヴェイン王子の宮の応接室のダメ出しをして下さるのは、隣国エダンミールのクリステル王女殿下です。


 シルヴェイン王子の宮に仕方なく皆んなで向かう途中、聞いた話しによると、来週隣国エダンミールから王子殿下のサヴィスティン様と王女殿下のクリステル様が訪問する事になっていたそうです。


 それが、シルヴェイン王子の秘書官ランフォードさんが漏らしていた来週の、っていう発言に繋がるようですね。


 事情説明を王太子殿下と隣国の殿下方に求められたシルヴェイン王子は、それはしぶしぶ殿下達を宮の応接室に招く事にしたようです。


 当然のように同行することになったので、もれなくコルステアくんも巻き込んでおく事にしました。


「レイカ、サークマイトには水で良いか?」


 これまた気遣いの出来るシルヴェイン王子からのクリステル王女の発言を無視した問いが来ましたが、ここは曖昧な微笑んでおきます。


「えっと、侍従さんが聞いてくれたんですか?」


「ああ、これから少しずつレイカが過ごしやすいように宮を整えて行こうと思っている。つまり、レイカの側にいるサークマイトの住環境も整えなければな。」


 ちょっと待って下さいよっていう発言を踏まえて、無言を貫いてみました。


「・・・あのシルヴェイン王子がね。随分と甲斐甲斐しいじゃない。ていうか、いつまでフード被ってるつもりかしら? どう見ても男の子に見えたけれどね。」


「遂にそっちに目覚めたって事じゃないか? これは私のお陰と言って間違いないだろう。おめでとう、新境地に。」


 勝手な発言を挟んで来る殿下達は完全無視のシルヴェイン王子ですが、額に静かに青筋浮かんでますね。


 と、そこでアーティフォート王太子殿下が咳払いしました。


「シルヴェイン、取り敢えず少し2人で話しを。」


 言いながらこちらを向いた王太子ですが、隣のマユリさんの手をしっかり握りつつ、遠慮なく懐疑的な目を向けてくれますね。


「いえ兄上。お二人の前にレイカを1人残して離れるつもりはありません。」


 これにははっきりとお断りの言葉を述べるシルヴェイン王子は、隣国の殿下方に変わらず冷たい凍るような視線を向け続けています。


 外交上大丈夫かと思うような態度ですが、公式な場ではないから問題ないのでしょうか?


「しかし、何故。」


 王太子とマユリさんが気になってる外見について、ここは話してしまうしかないでしょう。


 どう考えても見られてますから誤魔化しは効かないでしょうし。


「呪術師に、外見と多分声音が男性に感じるような認識齟齬の呪詛をかけられたみたいなんですよ。」


 昨日の今日なので、まだ王太子にははっきりと話しが行っていなかったのでしょう。


 驚いたような疑わしいような微妙な表情になった王太子です。


「それじゃ、レイカさんは自分には変化がないように感じているってことですか?」


 マユリさんの確かめるような言葉に頷き返しておきます。


 と、クリステル王女が近付いて来ます。


「あら、本当。呪いの気配がするわね。」


 そう意外そうに口にする王女様は聖なる魔法の使い手なんでしょうか?


「へぇ、じゃ本当に女の子なんだ。ねぇ、フード取ってみてよ?」


 あちらも近付いていた様子のサヴィスティン王子が王女の後ろから覗き込みつつ声を掛けて来ます。


「失礼を承知で申し上げますが、遠慮させていただきます。」


 はっきりとお断りしてみると、サヴィスティン王子は軽く目を見張りました。


 断られるとは思ってもみなかったのでしょうね。


「えっと、随分はっきり拒否してくれたけど、君何者?」


 人から下にも置かない扱いしか受けて来なかった王子様としては、本当に驚いたのでしょう。


「王侯貴族の身分問題とか酷い男女格差には、全く実感が湧かないような文化の違う異世界から中身だけ転移して来た者です。因みに、フードを取りたくない理由は、人の印象は視覚によるところが大きいので、完全に男性に見える上にかなり目立つ容姿の私をお見せすると、私の印象はそれで固定されてしまうでしょう? でも、実際は女性のままなので、要らぬ誤解は受けたくありませんから。」


 並べ立ててみると、サヴィスティン王子ばかりか室内にいた皆がハッとしたような目をこちらに向けているのに気付きました。


「・・・2人目の異世界人か。カダルシウスばかり。」


 少しだけ苦味の滲んだ呟きがサヴィスティン王子の口から漏れ聞こえて来ました。


 それからチラリとサヴィスティン王子がマユリさんに向けた口惜しそうな視線に、マユリさんが王太子の婚約者に収まる前に、もしかしたらエダンミールとの間にも色々とあったのかもしれないと勘繰ってしまいました。


「そう言った諸々の事情がある彼女の事は、まだお二人に紹介する段階ではないと思っていたのですが。」


 すかさず引き取ったシルヴェイン王子にエダンミールのお二人の視線が移ります。


「・・・では、婚約の正式発表もまだということなのではないか?」


 サヴィスティン王子が何処か慎重な口調で返して来ます。


「ええ。私の心は決まっているのですが、こんな状況になってレイカの方も遠慮しているようですし。しばらくは、私達のことはそっとしておいて頂けないでしょうか?」


 当たり障りなくこの場を収めようとしているシルヴェイン王子の意図に気付いて、大人しく黙っていることにします。


「しかしまた、随分と気の強そうな女性だな。シルヴェインとは性格が合わないのではないか?」


 が、そこで収まり切らなかった様子のサヴィスティン王子が続けて来ますが、またもやシルヴェイン王子の額に青筋が浮かんだようです。


「何処かの国の正真正銘同性の癖に迫って来て、妹王女殿下の結婚相手として国に連れ帰ろうと画策している王子殿下とは比べるべくもないほど、気も合いますが? 嘘偽りなく愛せると思ったから求婚も致しましたし。」


 目を剣呑に細めて告げるシルヴェイン王子の当て擦り発言で、全ての事情がはっきりしました。


 成る程、シルヴェイン王子の態度の意味も分かるってものですね。


 同情しますけど、それより嘘偽りなく愛せるって、息を吐くように口説いてくるシルヴェイン王子に、正直戸惑ってしまいます。


 嘘がなさそうに聞こえるだけに、余計尻込みしてしまうというか、割り切れないというか。


「あーえっと、それは一先ず置いておくとして、その真っ白なサークマイト、近くで見せて貰っても良いかしら?」


 クリステル王女が気まずい空気を払うように話しを逸らしに掛かったようです。


「はいどうぞ。ただ、触るのは嫌がるかもしれないので、気を付けて下さいね。」


 そう告げてコルちゃんに目を移すと、少しだけいつもより目付きが鋭くて、警戒しているようです。


「わあ。真っ白でふわふわ! サークマイトのこんな変化形態って初めて見るわ。しかも、聖なる魔法特化なんでしょう?」


 その辺りは、事前に説明があったようです。


 確かに、王城内でサークマイトが放し飼いと聞いては訪問する他国の王族は警戒するでしょう。


「これは狡いよな、明らかに。」


 サヴィスティン王子がやはり後ろから覗き込んでボソリと呟いています。


 コルちゃんはそんな2人の視線に不穏な気配を察したのか、くっ付いてスリっと身体を擦り寄せて来ます。


「ランバスティス伯爵家のレイナードさんって、前から物凄い美形だって噂は聞いてたけど、実物は段違いね。まつ毛長! 目の色綺麗! パーツバランスも最高ね!」


 と、油断していたところで、クリステル王女にはしっかりフードの中を覗き見られていたようです。


 ほらお母さん! チラッと見せの美学とか、やっぱり失敗だったじゃないですか!


 という訳で慌ててフードの先を引っ張り下ろしていると、隣のシルヴェイン王子と、反対隣からコルステアくんが前に出て来ました。


「失礼ですが、おねー様はこの姿を誰にも見られたくないと申しておりますので、覗き見るのはご遠慮頂けないでしょうか?」


 コルステアくんが少々ムッとした口調で抗議してくれましたが、棒読みのおねー様が定着し過ぎて聞きなれない人には違和感満載でしょうね。


「あら? 貴方は弟君なの?」


「はい。ランバスティス伯爵家のコルステア・セリダインと申します、王女殿下。」


 隙なく答えたコルステアくんに、クリステル王女の関心は移ったようです。


「へぇ、弟君も少し幼いけれど、綺麗な顔立ちね。」


 矛先を変えて絡み付くような視線を向けているクリステル王女に、不快な思いをしていないかと窺ってみましたが、コルステアくんはいつもと全く変わらず少しだけ不機嫌そうに見える無表情のままです。


「も、という褒められ方は余り好きではありません。我が家で一番美形と有名だった二番目の兄とは散々比べられて不快な思いをして参りましたので。」


 が、言う事はかなり辛辣ですね。


 やっぱりしっかりがっつり、レイナードコンプレックスがあったようですね。


「では、事情説明も済んだ事ですし。姉も予想外の魔法の乱入への対処の所為で、余計な魔力を消耗する事にもなりましたし、疲れているでしょうから、失礼して休ませて頂きたいと思います。」


 コルステアくんは言動の自由そうな王女の動きを封じたところで、さっさと撤退を宣言してくれました。


「そうだな。レイカを連れて帰って、くれぐれもゆっくり休ませてあげて欲しい。」


 シルヴェイン王子もそれに乗っかって、コルステアくんに背中を押されるままその場を去る事になりました。


 隣国の王族相手に、コルステアくん共々やらかした感はありましたが、あのお二人怖いので、早期撤退推奨です。


 殊更にぴたりとくっ付いて移動しだしたコルちゃんも、背中の毛が少しだけ逆立っていました。

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