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全力でご見学の皆さんの方へ逃げようとしますが、何とここ、結界の中みたいです。
皆さんとこちらの間に目に見えない壁があるみたいで途中から先に進めません。
くるりと恨めしい表情で振り返ると、当たり前のように踏ん反り返った王子様が冷たい目を向けて来ます。
「逃すと思ったか? 2ヶ月も逃げ続けたんだからな! 良い加減に腹を括れ。」
それが絶対零度の原因ですか。
でも、一言言わせて貰いますけど。
知るか! です。
記憶喪失だって言ってますよね?
まあ貴方には言ってませんけど。
思ってる間に、次のが来ます。
光った掌から雹、来ました!
顔を庇いつつ走ります。
こうなったら結界の内側を走って避けまくるしかない。
追って来る火の玉を蛇行で避けて、石礫は範囲が広いんですよね。
また同じ方へ逃げると見せかけて、逆ですよ!
反対周りに走り出すと、小さく鼻を鳴らす音が聞こえて来ました。
王子、ガラが悪いですよ?
でもですね。
レイナード体力ないんですよ。
もう息切れして来ました。
足が動かなくなるのも時間の問題です。
つまり、このドSパワハラ王子の魔法の餌食になる未来が見えて来たってことですよ。
仕方ないので、立ち止まって膝に手を置いて息を整えます。
「逃げられないと言った筈だ。諦めて本気を出せ。」
この王子様、ちょっと殴ってやりたくなってきました。
「次はちょっと威力を上げる。きちんと向き合って弾け。じゃないとただでは済まないぞ。」
大真面目に言ってくる王子様に、目眩がしそうになりました。
このまま気絶でいいでしょうか?
レイナードくん、実は不憫な人だったかもしれません。
公園を更地にして、親にポイ捨てされて、従者に逃げられて、放り込まれた騎士団では皆んなに嫌われてて、サボり魔で嫌な性格だったかもしれませんが、本当のレイナードはどんな人だったんでしょうか。
少しの間でしたが、貴方になって、愛想笑いでへいこらばっかりしてしまいましたが、色んな理不尽に囲まれてた貴方は、もうちょっと周りを見返してやっても良かったんじゃないでしょうか。
例えば、あの王子様の魔法を打ち消して逆に吹っ飛ばすような魔法を撃ち返すとか。
凪いだ心になった途端、身体の奥底が波立つような妙な感覚が湧き上がって来て、意志に反して手が上がると、真っ直ぐ王子様に向かって手が突き出される。
途端に身体の中を渦巻く何かが通り抜けて行くような感覚が走り抜けた。
カッと熱を持った掌から光りの奔流が飛び出していく。
王子が驚いた顔で腕を顔の前に出したのを見た途端、ずんと身体が重くなって膝が崩れた。
そのまま身体が傾いでいくのを支えられないまま、視界が真っ暗になった。




