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 夕食を運んできたモレナさんが入って来ようと扉を開けたところで、ハイドナーとオンサーさんとケインズさんの声が聞こえて来ました。


「呪詛をかけられたって聞いたが、大丈夫なのか?」


「一目でもお見舞いも出来ない状況なのか?」


「申し訳ございません。どなたもお取次してはならないと言われております。」


 そんなやり取りが、実は他にもあったようです。


 呪詛を掛けられたらしいという中身のない噂話だけを聞いた騎士さん達が色々と心配してくれているようで、何やら申し訳ないですね。


 とはいえ、相手がオンサーさんとケインズさんとなれば話しは別です。


 お二人とはレイナードの姿だった時も親しくして頂きましたし、呪いでレイナードの姿に戻ったとしても変に突っ掛かったりはされないでしょう。


 それに、ハザインバースのことでハンターと会う約束などもどうするか話し合う必要があります。


 食事のワゴンを押して入って来たモレナさんが扉を閉めてこちらに歩いて来たところで、声を掛けます。


「モレナさん、オンサーさんとケインズさんだけ、こっそり招き入れられるかハイドナーに聞いてみてくれますか?」


「え? あ、はい。ハイドナーさんに確認致しますね。」


 ちょっと上擦った声のモレナさん、態度を変えないように気を付けてくれていますが、やはりレイナードの外見に変わったことは衝撃が大きかったようです。


 無駄にイケメンですからね、この方の外見。


 モレナさんはそのまま扉に戻って行きました。


 再び開いた扉の向こうで、ハイドナーに耳打ちするモレナさんの姿がチラリと見えました。


 扉の外からはオンサーさんとケインズさんの会話の声がまだ聞こえています。


 と、今度は扉にモレナさんを残してハイドナーがこちらに戻って来ました。


「レイカ様、真にお通しして宜しいんでしょうか?」


 ランバスティス伯爵家の皆さんにも、隊長達にも誰も入れないようにと言い渡されていたハイドナーとしては、躊躇いがあるんでしょう。


「うん。お二人なら大丈夫。本当のことを知っても、広めるような事もしないだろうし。」


「・・・そうですが、ケインズ様は複雑な思いをされるのではないかと。」


 何か歯切れ悪く言い出したハイドナーの言葉に首を傾げてしまいます。


 どうして、ケインズさんだけの話しなんでしょうか?


 確かに、本物のレイナードとはケインズさんは相当折り合いが悪かったようですが。


「あの、レイカ様? ケインズ様がもしも仮に、王子殿下と同じご提案を申し出られたら如何なさいますか?」


 躊躇いがちにそんな事を言い出したハイドナーには目を瞬かせてしまいます。


「ん? どのご提案?」


 シルヴェイン王子とは色んな話しをしているので、そのどれがそれに当たるのか分かりませんが、ケインズさんに置き換えられそうな話しってありましたっけ?


「あ、いえ。何でもございません。驚かれるかもしれませんので、中にお入れしてから、私の方から少しご説明をさせて頂いても宜しいでしょうか? ですので、しばらく背を見せて座っていて頂けると宜しいかと存じます。」


 最近のハイドナーは、前のピントのズレた残念な従者から、イオラート兄の教育の賜物か、かなり真面目で固め有能さを身に付けた従者にジョブチェンジしたような感じです。


「あーうん。それでも良いけど。そのワンクッション、要る?」


「あった方が宜しいかと。」


「ふうん、じゃあお願いします?」


 何ともスッキリしない腑に落ちない感が拭えませんが、パワーアップした従者ハイドナーに任せてみようと思います。


 そんな訳で扉に戻って行ったハイドナーの提案通りそちらに背中を見せる椅子に座り直して、ハイドナーがオンサーさんとケインズさんを招き入れる会話を背中で聞きました。


 コルちゃんが長椅子から降りてこちらに寄って来て、コテンと頭をお膝に乗せて来ます。


 その仕草が可愛くて、頭を撫で撫で、パールのような輝きを放つ角の溝をそっとなぞっていると、突然室内でオンサーさんとケインズさんの驚いた声が聞こえて来ました。


「「え!?」」


 そんな驚くような話し・・・でしたね、はい。


「え? 中身はレイカちゃんのまま?」


「レイカさん、ショックだっただろうな、元に戻れるかも分からないんじゃ。」


「まだショック状態なんだったら、今日無理に会わなくても、出直そうか?」


 気遣うような2人の言葉が聞こえて来て、何だか逆に申し訳なくなります。


「あの、大丈夫ですよ? もう、何が来ても割と大丈夫ですから。」


 振り返ってそう話しに割り込むと、お二人が目を見開いてこちらを見ていました。


「レイナード、だな。」


 オンサーさんの複雑そうな声が掛かります。


「でも、レイカさんのまま見た目だけそう見えるように呪詛が掛かってるということで合ってるか?」


 ケインズさんが話しを纏めるように確認して来ました。


「正解です。お二人ともこっち来て話しましょうか。」


 促してみると、2人は躊躇いがちにこちらに歩いて来ました。


 それから、マジマジと見つめられるのは、やっぱり少し居心地が悪いですね。


「悪い。分かってるんだけど、ちょっと信じられなくてな。なんて呪詛だ、胸くそ悪いな、かけたヤツ。」


「酷い、な。誰にも会いたくなかっただろうに、無理に訪ねてきて申し訳なかった。」


 呪術師に憤ってくれるオンサーさんも気遣ってくれるケインズさんも優しいですよね。


「いえ、何だかお二人とも有難うございます。ちょっとホッとしました。お二人のことだから、レイナードに戻ったように見える外見になっても、酷い事言われないだろうと思ってたんですけど。」


 本音を漏らしてみると、2人とも眉下がりの心配顔になりました。


「当たり前だろ。ここ数ヶ月ここで過ごして来たレイカちゃんだって分かってるのに、可哀想以外に何があるんだよ。」


「そうだ。いつもレイカさんは被害者でしかないのに、何か言う者がいたら俺達が何とかするから遠慮なく言って欲しい。」


 いつもながら温かい気遣いに胸が熱くなります。


「有難うございます。解除条件を探って何とか解呪する為に、許可が出たら神殿に身を寄せることになってるんですけど、それまでは噂が広がらないように部屋に篭ってるように言われてて。」


「そうか、だから面会謝絶状態なんだな。」


 ケインズさんが複雑そうな表情で溢しました。


「じゃ、俺達が入れて貰ったことも黙ってた方がいいな。」


 オンサーさんの言葉に頷き返します。


「そういうことでお願いします。」


 と、そこでオンサーさんとケインズさんが顔を見合わせました。


「それじゃ、城下の叔父さんの居酒屋に話しを聞きに行くのも難しそうだよな。」


 ケインズさんが考えるように口にして、眉を寄せました。


「うーん、どうでしょう? いっそ城下の神殿に移ってからの方が身動きが取りやすくなるかもしれないですよね? こっそり抜け出すにしても、男性のレイナードの見た目の方が都合が良いかもしれないし。」


 これには、2人共微妙な難しい顔になりました。


「それはどうだろうな。一先ず俺達が例のハンターに会って話しを聞いてくる。その結果をレイカちゃんに伝えて、どうしても直接聞く必要性が出て来てから、どう動くか考えよう。」


 オンサーさんの理性的な言葉に、小さく身体を竦めました。


「レイカさんにどんな危険の可能性があるか、把握出来てる訳でもない俺達が迂闊な自己判断でレイカさんを危険に晒す訳にはいかないから。」


 説明してくれるケインズさんも、冷静にリスクを考えてくれているようで、適当に突っ走ろうとしていたこちらが恥ずかしいですね。


「はい。それでお願いします。」


 頭を下げてそうお願いすると、2人の密やかな溜息が聞こえて来ました。


「あのな。本当はか弱い女の子のレイカちゃんを、俺達はどんな危険にも晒したくないんだ。特に今は、普通の状態じゃないだろ? 頼りないかもしれないけど、ここは少しだけ任せて欲しい。」


 違う方向に気遣わせてしまったようで、ますます居た堪れない気持ちになります。


「それに、もし無事に呪詛が解けたら、それからゆっくり街を案内したり、叔父さんの店にも良かったら連れて行きたい。」


 そう続けてくれたケインズさんが、話し終えた途端、不意に耳を真っ赤にして横を向きました。


 何か照れているような様子には、ちょっと驚きますが、このレイナードの外見の所為で、誘ってみたものの照れ臭くなったんでしょうか?


 ケインズさんとレイナードの組み合わせはやっぱり接し方が難しいですね。


「あはは。やっぱりちゃんとレイカに見える外見に戻ってからが良いですよね? 解呪頑張りますね!」


 笑顔でそう付け加えておくと、ケインズさんがギョッとし顔になりました。


「いや違、そうじゃなくて。いやその、ごめん。今、上手く言えないんだけど、ちょっと伝えたいことがあって。落ち着いたら、ちょっと2人で話しをする機会が欲しい、です。」


 しどろもどろに言うケインズさんは、何か随分と慌てている様子ですね。


「ああ、はい。私の方はいつでも大丈夫なので、ケインズさんのタイミングが整ったら声掛けて下さいね?」


 そう圧倒され気味に答えておくと、何故か肩を落とした様子のケインズさんの肩をオンサーさんが温度のある手でポンと叩いていました。

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