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「おねー様?って呼ぶべき?」
コルステアくんの呼び掛けが苦めです。
やっぱりレイナードに対して、コンプレックスでもあったりするんでしょうか?
「ええはい。私は変わりなく、レイカですからね!」
しっかり主張しておくと、半眼で睨み返されました。
こっそり2人で宿舎の自室に戻って、イオラート兄とセイナーダさんを待っている状況です。
応接テーブルの長椅子にコルちゃんと共に座って背中を撫で撫で、過酷だった今日の癒しを満喫しています。
「呪術師は、何であんたにそんな嫌がらせじみた呪詛を掛けた訳? 重ね掛けした所為でそんな効果に止まったとか?」
そこは、会議室での話題に上りませんでしたが、やっぱり気になります。
「分からないんだよね? 結局本当は何をしたかったのか。中身がレイナードから私に変わったけど、魔王の雛は順調に育ってるって喜んでたし。」
その辺り、しっかり背後を調べて貰わないとこれから先も安心出来そうもないんですよね。
「ねぇ、おねー様にしか見えなかった魔人って、本当にその呪術師の契約魔人だったの?」
コルステアくんのそもそも論のお話しに、こちらもコクコクと頷き返します。
「そうそう、それなんだよね? 私以外の誰にも見えなかったし、エセ賢者も魔人のことは何も言わずに死んじゃったからね。事実は闇だよね。」
溜息混じりに零すと、コルステアくんも肩を竦めました。
「まあね、多分魔王信者みたいな連中が後ろにいるんじゃないかって父上は言ってたけどね。」
コルステアくんが明かしてくれたその言葉には何だか納得出来る気がします。
「因みに、魔王信者って何? どんなことしてる人達?」
言葉の印象や想像だけで判断するのは良くないのできちんと聞いておくことにします。
「狂信的な魔法至上主義者達の集まり、かな?」
「だから人工的に魔力の強い魔王になれそうな子供を作ろうとしてる?」
エセ賢者のしようとしていたことそのままですね。
「うーん。そういう活動もあるって言われてるね。本音は、魔法至上主義国家の建設を目論んでたりとか。まあ、頭の中がちょっと飛んじゃってる人達の集まりだね。」
そういうの、魔法のある世界なら有りがちな気がしてしまいますね。
「魔法好きが昂じるとそうなるみたいな? 実は魔法研究してる人達には大なり小なりそういう思考が根底に潜んでそうだよね?」
「そうそう、だから取り締まりしにくいし、何処までが犯罪か線引きが難しいんだよね。」
何だか色々納得です。
それにしても、こういう話しを遠慮なく出来るコルステアくんの存在は、素直に有難いですね。
「はあ。レイナードの人生の尻拭いは相変わらず大変だけど、コルステアくんが弟として居てくれて、ホント感謝だわ。これからも宜しくね!」
ここは、日頃の感謝を偶には述べておきたいと思います。
「・・・っ!」
無言で何か驚いた顔になっているコルステアくん、まあ、確かに今は貴方の嫌いなレイナードの外見ですけど、そこまで驚愕しなくても。
そして、目を逸らして照れた顔、相変わらず可愛いですね。
「あんたさ! さっさと殿下とでいいから婚約しなよ!」
ん? 何故返しがその台詞なのか謎です。
「へぇ、同性愛者にも理解があるとは、先進的な考えを持ってるんだね、コルステアくん。」
ちょっとだけ意地悪しちゃいましたが、ウチの弟はそのくらいじゃへこたれない子ですから。
舌打ちと共に睨み返されるのにも、慣れましたからね。
とそんな不毛なやり取りに突入したところで、扉が叩かれて、イオラート兄の声が聞こえて来ました。
それから部屋に入って来たイオラート兄とセイナーダさんがこちらを見て固まります。
「レイ・・・ナード?」
「違うわね。魔力がレイカちゃんだわ。」
はい、セイナーダお母さん流石です。
「・・・それは、大丈夫なのか?レイカちゃん。」
途端に眉下がりに駆け寄ってくるイオラート兄です。
「あら、本当に困った事になっているわね。」
セイナーダさんは流石に冷静です。
「レイナードの外見でその服はダメね。早急にレイナードに着せて似合う服をレイカちゃんのサイズで作らせるわね。」
良くお分かりで。
でも、困った事の中身がそれって、セイナーダさんも中々ですね。
「レイカ! お兄ちゃんがレイカに呪詛をかけたヤツを必ず見付け出して解呪させるからな!」
鼻息荒く言い切ってくれたイオラート兄ですが、方向性が残念です。
「うん。呪術師は命と引き換えに呪詛をかけたみたいなんだよね。その方法では解呪出来ないかな?」
「え?え? じゃあ神殿で一番偉い神官に解呪を頼んで来る!」
あれ? イオラート兄は父から事情を聞いてないんでしょうか?
「それも強過ぎる呪詛だから無理だって。それで、神殿に身を寄せて解除条件を探る事になったんだよね。」
きちんと説明しておくと、イオラート兄、更に悲痛な顔になりました。
「それじゃ、殿下とレイカちゃんの婚約は? まさか殿下はレイカちゃんを捨て置くつもりじゃ。」
その発言には目を瞬かせてしまいます。
「え? いや、どちらかと言うと責任取って頑張るみたいな話しだったから、こちらから待ったをかけましたけど?」
「へ? 何でだ? 捕まってた呪術師から呪いを受けたなら、そんな場所に連れて行った殿下の責任じゃないか!」
兄的にはそんな見方になるんですね。
でも、シルヴェイン王子もそんな下地の発言をしていたので、ここではそういう考え方が一般的なんでしょうか。
「えっと、ね。イオラートお兄様ちょっと想像してみて? レイナードのウェディングドレス姿とか、見たい?」
「・・・・・・」
ほらそこ、長くて重い沈黙止めてくださいね。
言ってるこちらも想像して気持ち悪くてなって来ましたからね。
「そうねぇ。凛々しめ女子の装いに寄せた女装と、お化粧で誤魔化せば、対外的には何とかなるかもしれないけれど。レイナード、殿下とは背丈がそんなに変わらないのよね? 殿下にはシークレットシューズ履いて貰おうかしら。」
そういう話しだったでしょうか?
「えーっと、巨人夫婦の出来上がりですねぇ。」
取り敢えず、引きつった顔で流しておく事にしました。
殿下、ランバスティス伯爵家とはさっさと手を切る事をお勧めします。
やりますよ、この人達。
チラッと覗ったコルステアくんが遠い目になっていました。




