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 ちょいちょいと袖を引かれてそちらに目を向けると、指人形が再び姿を見せていました。


『レイカ様。済みませんでした、油断していました。認識齟齬の呪詛だけが発動したようですが、呪詛が厄介に絡み合ってしまったみたいで。』


 そんなことを言い出した指人形には、引きつった顔を向けてしまいます。


「え? それってどういう?」


『魔人が放っていた呪詛をレイカ様が解呪していたので、その中途半端な呪詛が呪術師がレイカ様を狙ってかけた呪詛と混ざり合って発動してしまったようなのです。』


 そんなことってあるんでしょうか?


 怪訝そうに首を傾げながら先を促すと、指人形は苦笑いで続けました。


『男性化して見えるレイカ様の呪詛の解除条件に、厄介なものが付加されてしまったようなのです。』


「いや、その前に、解除条件が存在するの?」


 それは厄介だろうが何だろうが、あるに越したことはないですよね?


『ええ、呪詛にはどんなものにも必ず存在するものですよ? ただし、現実的に実現出来ないっていうものが多いみたいですけどね。だから、普通は解除条件を満たすより、力技で聖なる魔法をぶつけて相殺するんです。』


 成る程、そういう仕組みなんですね。


『ですが、術者が払った対価が大きければ大きい程、相殺する為の聖なる魔法の消費も大きくなる。つまり、術者が自らの命を払って施した呪詛などは、聖なる魔法で相殺する事は事実上出来ない、となる訳です。』


 あれ? またもや先の無い袋小路に突入してませんか?


 目を瞬いてから、引きつる口元を抑えつつ問題点を洗い出して行きますよ?


「えっと、それで? 面倒な事になってる解除条件は?」


 と、指人形がこちらをチラッと上目遣いに見上げて来ます。


 可愛子ぶっても無駄です、と冷たい視線を返してあげます。


『大抵、大きな呪詛の解除条件は、被呪者を愛する者の犠牲。つまり、レイカ様を心から愛する者がレイカ様にそれを明かす行為を行うことで条件が発動してお相手が犠牲を払うことになる。まあこれが今回のような呪詛自体の発動に大きな対価が支払われたものの場合、お相手の命は失われる。そういう仕組みですね。』


 簡単に言い切ってくれましたが、ちょっと待て! というお話しですね。


「はい? それを明かす行為って? てゆうか命が失われるって、ダメでしょそれ。」


 顰めっ面で言い募ると、指人形は胡散臭いような薄い笑みを浮かべました。


『レイカ様がそのお姿になってから愛を囁いてきた相手は色々いたでしょう? その中から1人くらい犠牲になって貰えば良いんですよ。』


 いやいやダメに決まってるでしょう?


「あのね、そのどうしようもなく病んでる思考回路、何とかしなさいよ。怖くて世に放てないからね? いつまで経っても契約する気になれないよ?」


『ふふっ、可愛い方ですね? 照れなくても大丈夫ですよ?』


 本当に、何故この魔人が専任なんでしょうか?


 神様的な存在は、実は世界を滅ぼしたいとか?


 謎です。


『そうでした。愛を簡単に明かす行為といえば? レイカ様なら何を思い浮かべますか?』


 言われて首を捻ってしまいますが、やっぱりあれでしょうか?


「真実の愛を込めたキス、とか?」


『では、それですね。キスが発動条件という訳ですね。』


 ん? 人によって捉え方が違うとか言わないですよね?


 それ、滅茶苦茶恥ずかしいじゃないですか!


「え? それって人によって違う?」


 そこでにっこり可愛い笑顔で黙るの止めて欲しいです。


『あ、それで。本来はそういう条件だったんですけど、魔人の中途半端な呪詛が混じってしまった作用で、解除条件が複雑になってしまったんですよ。』


「はあ、それは?」


 もう何か投げやりな気持ちで問い返してみます。


『レイカ様を愛していてレイカ様も憎からず思う相手ならば、キスですか?をしても、解呪されぬまま相手は命を落とします。ですが、レイカ様を愛していて、レイカ様が受け入れられない相手、心から憎んでいるとか鳥肌が立つ程嫌だと感じる相手からのキスならば、解除条件が発動して解呪されます。しかも、相手は命を落とさずに済む。』


 はい??


 指人形の言葉の中身を何度も反芻して理解に努めます。


 そして、徐々に顔を顰めることになりました。


「ちょっと、何その物凄く嫌がらせのパンチが効き過ぎた解除条件って。」


『まあ結果的に、解呪にお相手の犠牲がなく済む方法に変換された訳ですから、レイカ様にとっては宜しかったのでは? ただ、グレーゾーンにはくれぐれもお気を付けて。無闇に犠牲者を出したくなければ?』


 全然無関係だって分かっていますけど、何故でしょう無性に指人形をデコピンで世界の裏側まで飛ばしたくなるのは。


 額に手を当てて深い溜息付きでその場にしゃがみ込んでしまうと、コルちゃんが擦り寄って来て、顔を覗き込んで来ました。


「レイカ、誰と話している?」


 唐突に振って来たシルヴェイン王子の問いで、指人形が見えない他の皆様には突然誰もいない空間に話し掛けてしゃがみ込んだ挙動不審な人に見えた事に気付きました。


「えっと、例の私の専任の子です。解呪の条件が分かったんですけど、ちょっと厄介で。」


 そう言って言葉を切って見上げると、シルヴェイン王子が何とも言い難い顔をしていました。


「・・・そうか。後程、落ち着いてからじっくりと話しを聞こう。ランフォードに宿舎まで送らせるので、着替えを。私は陛下に事情を説明して一先ず本日の謁見を延ばして頂く。」


 そういえば、今日の主目的は謁見でしたね。


「騎士団の業務は、今後のことが決まるまでは中止で。部屋から出ずに待っていて欲しい。」


 確かに、またレイナードの姿でウロウロしていたらどんな騒ぎが起こるか分かったものじゃないですよね。


「ランフォードはレイカを部屋まで送ったら、ランバスティス伯爵に事情説明をして、騎士団まで来て貰うように手配を。」


「畏まりました。」


 言うまでもなく、ランフォードさんも忙しくさせてしまいそうですね。


 意地悪言って済みませんでした。


 トラブルメーカーなことは、もう仕方のないことと割り切るしかないとして、巻き込む皆さんには喧嘩を売るのはやめようと思います。

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