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夕方の魔法訓練の時間は、シルヴェイン王子付き添いの下、フォーラスさんから主に治療魔法について学びました。
前から聖なる魔法の魔法書を読んでみてもサクッと簡単にしか魔法の使い方が書いていないなとは思っていたんですが、どうやら本当に大雑把に使う魔法のようです。
普通の魔法のように細かい条件付けの為の決まった呪文がある訳でもなく、但し、効果アップの為に補助魔道具に込められた祈りを使いますよって文言を付け加えた呪文を唱えるようですね。
魔力過多なレイナードの身体に入ったお陰で、ある程度のことは自力で出来るようですけど、やっぱり他者の承認が付くと、かなり楽に聖なる魔法を使えるようです。
試しに使わせて貰った祈りを込めた水晶を頼ると、訓練で誤って粉砕された樹木の幹が完全に修復してしまいました。
それを見ていたシルヴェイン王子とフォーラスさんが凪いだ目になっていたのには、気付かなかったフリをしておきました。
というわけで、夕方の業務報告改め反省会は、訓練と言えども控えめに、絶対に第二騎士団の人間以外には見られないように、という内容の話しを言葉を変えて何度も繰り返されました。
その後、シルヴェイン王子の離宮での夕食にも誘われましたが、これはお断りして騎士団の食堂に向かいました。
食堂の配膳の列に並びますが、今日はケインズさんとオンサーさんは魔法訓練後街でハンターを探しがてら夕食も食べてくるそうで、食堂にはいません。
何となくポツンと感に苛まれながら、食事のトレイを受け取りました。
第二騎士団に正式入団するまではメイドさん達に部屋に食事を用意して貰っていましたが、それもやめて、食堂で他の騎士さん達に混ざって食べる事にしました。
料理長とはパンの小麦の件から何度か話しをして、簡単に要望を伝えてみたりしています。
自分の味覚がこちらの人達にとってはどうか自信がないので、食材のやっておくと良いよって言うあちらで言うと裏技的な下処理や保存方法について提案してみたり、意外と組み合わせると合いますっていう食材や調味料についての話しなど、何か拾って貰えれば良いくらいの気持ちで話してみています。
それを試してみたというお試しメニューが時折出るので、やはりなるべく食堂で食べたい気持ちになるんですよね。
因みに第二騎士団に食材を卸していた例の商会ですが、財務を通して少し強めに品質に対しての適正価格かどうかを質問して貰った結果、翌日から手の平を返したようにこれまでよりも質の良い食材が卸されるようになったそうです。
そのお陰か、食堂の料理も前より美味しくなったような気がします。
やはり何がなくても素材は大事だって事ですね。
「レイカさん!」
食事のトレイを持って何処か空いている席に向かおうとしたところで、後ろから呼び止められました。
振り返った先で、厨房の奥から走り出てくるエスティルさんの姿が見えます。
「エスティルさん、どうかしました?」
立ち止まって追いついて来たエスティルさんに問い掛けてみると、にこりと笑顔を返されました。
「今日のソテーなんですけど、レイカさんお勧めの漬け込み処理を私が担当したんです! そうしたら、お肉が柔らかいって皆さんに褒めて貰えて。」
嬉しそうに頰を染めて言うエスティルさんが可愛いです。
料理人のやり甲斐って、食べた人に美味しいって思って貰えることですよね?
だからこそこれまで、第二騎士団の料理人さん達も不本意な思いをしてた筈なんです。
好きで美味しくないと言われる料理を提供する筈がないんですから。
「良かったですね。」
諸々込めて笑顔でそう返すと、コクコクと頷き返してくれました。
「それでですね、料理長からこちらレイカさんに食べて貰うようにって試作預かってて。」
とエスティルさんが差し出して来たお皿の上には、何かぷるっとしたような四角い白っぽい塊が乗っています。
「これは、まさか・・・。」
ちょっとだけ鼻を近付けて匂いを嗅いでみると、独特の生臭い匂いがします。
ちょっと前に、良質タンパク確保の為に、大豆に代わる豆加工食品の話しをしていたのですが、それに料理長が色んな豆を取り寄せて試行錯誤してくれると話していたんでした。
その豆加工食品の中で、こちらで作れそうで食べられそうなとなると、味噌だの醤油だの納豆だの発酵食品の作り方は正確に伝えられる自信がないし、意図した菌が繁殖出来る環境かも分かりませんから難しい、となると豆腐とか豆乳とかソイミートっぽいものなら作れる?と提案してみました。
そして出来上がった豆腐擬きが皿に乗っているようです。
が、何故か赤っぽいベリー系ソースが掛かっているように見えるのは、気の所為でしょうか?
「えっと、これは・・・もしかしてデザート的な位置付け?」
そう問い掛けてみると、エスティルさんはにっこり笑顔で頷いてくれました。
「料理長が色々試作してくれたんですけど、まあこれが一番食べ易いかなって。」
ちょっと苦笑い気味なエスティルさんですが、まあそうですよね。
出来上がった豆腐の美味しい食べ方とか料理方法の話しはしていないですからね。
取り敢えず空いている席にエスティルさんと並んで座って、試食の時間になりました。
スプーンで掬って、ババロアとかパンナコッタのつもりで口に運ぶと、違和感に口の端が引き攣ってしまいました。
大豆よりも豆自体に少し甘みがあるんでしょうか?
そして、きっと大豆よりも生臭いような匂いが消えないようですね。
これは濃いめの味付けが合いそうな気がしますね。
舌触りが滑らかとはいかないので、やはりデザートとしてはイマイチ感があります。
「無しではないかもしれないですけど、敢えてこれじゃなくても良いですよね?」
そうつい同意を求めてしまうと、これまたエスティルさんにうんうんと頷かれてしまいました。
「うーん。濃いめの味付けで煮るとかたっぷりソースを絡めるとか、味のメリハリを利かせてみるのがお勧めかもしれませんね。」
異世界飯の異文化導入は、なかなかハードルが高いようですね。
地道に頑張ってみようと思います。




