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 兵舎前広場に出て来たのは、シルヴェイン王子と神殿の聖なる魔法研究者フォーラスさんと王城魔法使いのカリアンさんです。


 後日改めてお話しましょうというのが、今日になったようですね。


「レイカ! ハザインバースの方は大丈夫そうだな?」


 ヒヨコちゃんとお父さんの去った上空を睨むように見ながら、シルヴェイン王子が確認してきます。


「・・・そうですね。今日のところは帰ってくれたみたいですけど。」


 苦笑い気味に返すと、カリアンさんが身を乗り出して来ました。


「へぇ、あれがハザインバースの親子ですか。思ったより大きいなぁ。」


 王城魔法使いの中でも多分偉い人だと思うカリアンさんですが、塔を訪問した時には見掛けなかった人です。


「マニメイラさんがよく見に来てましたよ?」


「うんうん、マニメイラくんからは聞いてたんだけどね。そして、聖獣化したサークマイトが君か。」


 言ってコルちゃんを覗き込むカリアンさん、目付きが研究者が研究材料を見る時の目ですね。


 コルちゃんがさり気なくカリアンさんから距離を取って、こちらにくっ付いて来ます。


「カリアンさん、コルちゃんはもうウチの子ですから塔には返しませんよ?」


 つい釘を刺してしまいたくなりました。


「ははは。そんなことは考えてませんよ。神獣だって神殿が煩いですからね。」


 言いながらチラッとフォーラスさんに視線を投げたカリアンさん、中々の喧嘩腰ですね。


 冗談だったら笑えないですよ?


「魔物が神獣化するなんて、初めて見る現象ですからね。神殿としても、勝手なことはせずに見守って頂きたい対象ですね。」


 案の定、冷たい口調で淡々と答えたフォーラスさんが、中々の迫力です。


 そのまま静かに火花を散らす両者ですが、こう聞くとやっぱり魔法使いと神殿は仲良く出来ないもののようですね。


 と、そんなやり取りの不毛さに気付いたのか、シルヴェイン王子が咳払いをしました。


「さて、会議室に移動して先日の件の話しを終わらせようか。」


 それを受けて、2人は臨戦態勢を崩して表情を改めたようです。


 ホッとしながら向かった会議室では、クイズナー隊長とマニメイラさんとよく一緒に来る王城魔法使いのジオラスさんが待っていて、淹れたてのお茶が会議テーブルに配られていました。


 これは、話しが長くなりそうだからという配慮でしょうか?


 それとも、フォーラスさんとカリアンさんのヒートアップを鎮静化する為の小道具でしょうか。


 顔が引きつりそうになりました。


 シルヴェイン王子の隣に着席を促されて、何とも言えない空気感から目を逸らす為に目の前のカップに手を伸ばします。


 香ばしい香りを放つお茶を一口含んで、思わず吹き出しそうになりました。


「に、にがっ!」


 頑張って飲み下してから声を上げると、クイズナー隊長が目を瞬かせています。


「クイズナー隊長が淹れたんですか?」


 呆れ混じりに問い掛けてみると、にこりと微笑み返されました。


 これ、もしかしてわざとなんでしょうか?


 苦いお茶でも含んで落ち着けとかいう。


「うーん。込み入った話しになりそうだから、お茶を頼んでおいたんですが、事務方も忙しそうだったので準備だけして貰って自分で淹れてみたんですけどね?」


 てへっと擬音が付きそうな笑顔で返ってきた言葉に、思わず席を立ってしまいました。


「淹れ直して、良いですよね?」


 にっこり笑顔付きで問い掛けると、クイズナー隊長は笑顔を歪ませました。


「うん、でも他に淹れて貰えそうな人もいないでしょ?」


「ん? 私が淹れ直しますけど?」


 チラッと見た会議室の隅に用意されているワゴンの上にお湯の入ったポットらしきものと茶葉の入った小箱と予備のカップとティーポットがあります。


 持ち上げてみたお湯の量も十分そうですね。


 ぱかりと開けたティーポットにはぎっしりと開いた茶葉が詰まっています。


「クイズナー隊長、これ明らか茶葉の入れ過ぎですよ?」


「そうかなぁ。用意してきてくれた事務の子に適当に茶葉を入れてお湯を注いで、色が出てきたらカップに注ぐだけで良いって言われたんだけどなぁ。」


 その事務の人、相手はクイズナー隊長だって色々気付いて欲しかったです。


「茶葉は適当ではなく、適切な量を入れるんですよ? お茶の種類によって抽出されて美味しい色は違うので、そこは確かめとかないと失敗しますよ?」


 と、偉そうな事を言ってみましたが、こちらでは食堂かメイドさん達に淹れて貰ったのを飲んでただけなので、自分で給茶は初ですね。


 ティーポットにこれでもかと詰まっていた茶葉を取り除いて、向こうで飲んでいた一般的な紅茶葉の量で淹れ直してみることにします。


 会議テーブルの方ではポツポツと何かの会話が続いているようですが、時折こちらにチラチラっと視線が来るのを感じますね。


 進行を滞らせている自覚はありますが、あのお茶じゃ、後で物理的に胃が痛くなりそうです。


 ただでさえ面白い展開にはなりそうにないんですから、癒しが必要です。


 香りをみる限り元はきっと良いお茶の筈なので、美味しく頂きましょう!


 予備のカップに淹れ直して元のお茶を回収しながら代わりに置いて行くと、カリアンさんが味見のつもりか早速手を付けてくれました。


「ああ、飲めるお茶になりましたね。」


 その発言にクイズナー隊長が苦笑いです。


 お茶淹れに関してはメイドさん達に今度レクチャーして貰おうと思います。


「さて、それでは気を取り直して始めようか。」


 シルヴェイン王子が宣言して、会議の始まりです。


「先日の王弟殿下主催の夜会において、王太子殿下に対して呪詛が掛けられ、魔人が潜入していた件については、改めての説明は必要ないな?」


 あの場に居なかったクイズナー隊長とジオラスさんにその目が向けられ、2人は頷き返しています。


「では、神官フォーラス殿と王城魔法使いカリアンからレイカに対して確認したい事があるとのことだったが、それぞれ話しを聞こう。」


 促したシルヴェイン王子に、フォーラスさんがまず手を挙げます。


「時系列順にご質問を宜しいでしょうか?」


 そう前置きしたフォーラスさんにシルヴェイン王子が頷き返しました。


「まず、王太子殿下に向けられた呪詛について、レイカルディナ嬢はどうやって気が付かれたのでしょうか?」


 集まってきた視線に少し緊張しますが、フォーラスさんに真っ直ぐ視線を返します。


 指人形からの情報提供だとは、まだ語るべきではないでしょう。


「王太子殿下とマユリさんのダンスを眺めていたら、そちらに向かって行く黒い靄が見えたんです。その日の昼に、ハザインバースの雛鶏のヒヨコちゃんに向けて掛けられた呪詛と同じように見えたので、取り敢えず聖なる魔法の“還元”で完全解呪を試みました。」


 ここまで語ったところで、フォーラスさんが難しい顔になっています。


 が、ここは気にしないことにして話しを進めていきます。


「が、昼間より規模の大きい呪詛だったことと、神獣になったコルちゃんの手伝いがない状態ではかなり手こずったので、この方法での解呪は難しいと判断して、呪詛の継ぎ目を部分還元して崩していく解呪に切り替えました。」


 と、ここでフォーラスさんから手が上がります。


「少し確認させて下さい。そもそも呪詛の解呪に聖なる魔法が有効なのは確かですが、それは性質が真逆であることから魔力をぶつけて相殺させるからだと言われています。」


 そんなフォーラスさんの発言に、ちょっと顔色が変わってしまった気がします。


「・・・知らなかったようですね?」


 その確信をもったような追求には誤魔化す術はないですね。


 まさかそんなふわっとした解呪をしているとは思いませんでした。


「ん? ということは、普通の呪詛の解呪ってかなり力技な部分が多いってことですか?」


「ええ、少なくとも掛けられた呪詛に使われた力と同等以上の魔力をぶつけなければ、完全解呪は出来ません。いえ、出来ないと思われてきたと言っておきましょう。」


 最早冷や汗しか出て来ませんね。

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― 新着の感想 ―
ん?いつコルちゃんは聖獣から神獣になったの?
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