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基礎体力が、驚く程衰えてました。
レイカになってから初の朝訓練への参加でしたが、走れない動けない動かないの三拍子に滅入ってしまいますね。
「レイカちゃん頑張れ後一周だ!」
とか。
「付き合って一緒に走ってやるからな! 頑張れ!」
とか声を掛けつつついて来てくれる同僚の皆さんに本当に申し訳なくて情けない限りです。
それでもカルシファー隊長には走り込みは皆さんの半分の周回数で良いって言われてるんですから、情けなさ過ぎです。
ガクガクの膝で走り込みを終えて、その後は使い物にならない身体を引きずるようにして食堂に向かい、喉を通らない朝食を流し込み、戻った訓練場で剣をポロポロ落とし。
女騎士になりますって偉そうに宣言したの誰だって、我ながら突っ込んでやりたくなりました。
そんな訳で無限に落ち込んで行きそうになっていたところで、特別任務に駆り出されていたオンサーさんとケインズさんが終わり掛けに戻って来て訓練に合流しました。
「レイカちゃん大丈夫か?」
開口一番問い掛けてくれたオンサーさんの言葉が痛いです。
「う、オンサーさん。ヘタレレイナードより酷い基礎体力と身体能力って、悔し過ぎます!」
泣きに入りつつ垂れ流してみると、苦笑いのオンサーさんに頭をヨシヨシと撫でられます。
「まあなぁ。俺達でも数日訓練出来ないだけで身体重くなったりするからな。毎日地道に訓練積むしかないよなぁ。」
そんな半笑いな取りなしに、むうと唇を尖らせてしまいますが、こればっかりはチート補正なしの地道な努力が要りそうです。
「それでも、騎士でいたいんだろう?」
覗き込むようにして訊いて来るケインズさんは少し気遣わしげな顔をしています。
「うん、そうですね。」
コクコクと頷きかえしていると、ケインズさんがふっと微笑み返してくれました。
「なら、付き合うから少しずつ頑張ろうな?」
何でしょう、ケインズさんにそう言われると素直に頷き返してしまえるのは、親愛度の違いでしょうか?
「はい。」
笑顔で返したところで、カルシファー隊長が向かって来ます。
「待たせたな、剣はもう良いぞ。護身術やるからな。」
と、そんな言葉を貰いましたが、カルシファー隊長苦笑いですね。
「レイカさんに騎士団の剣は重過ぎるんじゃないでしょうか?」
ケインズさんがカルシファー隊長にそう声を掛けていて、それに頷き返されています。
「ああ、そうみたいだな。女の子の力ってのは分からないからな。殿下にその辺りも相談してみるつもりだ。元々この時間は護身術を教えるって事になってたんだけどな。俺もずっと身体が空いてる訳じゃないからな。手が空かない間は剣でも振らせとくしかないだろ?」
「なるほど。それなら、第一騎士団の女騎士の武器装備を参考にしてみるのはどうです?」
オンサーさんも話しに加わって、女騎士として第二騎士団でやっていけるように真剣に考えてくれていて、本当に有難いと思います。
良い人達です。
それに報いられるように頑張りたいと思います。
そんな訳で、気合が入り直した護身術訓練では、素手で身を守るにはどうするか、を丁寧に問答付きで教えてくれます。
これまで知りませんでしたが、カルシファー隊長は剣術も凄いですが、体術やその他武術にも造詣が深いようです。
逆に魔法はそれ程得意ではないそうで、この間やってみた瞬間的身体強化に近いような魔法や、敵の攻撃の軌道を逸らす盾を出すような魔法などを使っているそうです。
魔力が多くない人でも戦闘補助に使えるので、そういった魔法をカルシファー隊長から習う騎士さん達も一定数いるみたいです。
ただ、訓練が終わってからケインズさん達に聞いたところ、魔力量が多い人間が使おうとすると、意外とコントロールが難しいそうで、夕方魔法訓練をしているような人達には向かないのだと教えて貰いました。
ちょっと残念です。
昼食の為に兵舎に向かっていると、騎士さん達が騒つく声が聞こえて来ました。
兵舎前庭辺りということで、少し嫌な予感がして来ましたよ?
「あ! 来たぞレイカちゃんだ!」
見上げた上空に影が差して、羽ばたきの音と共に、ピヨピヨ、ヒュルルルっと、聞こえて来ますね、ヒヨコちゃんとお父さんの声が。
仕方なく慌てて向かった兵舎前広場に、2匹?2羽?が降りて来ました。
「ピヨピヨピ!」
鳴きながら飛び付いてこようとするヒヨコちゃんですが、昨日と比べて驚く程身体のサイズが大きくなっていて、お父さんとほぼ変わらないくらいではないでしょうか?
1日で?と驚きですが、魔獣ですからね、そんなこともあるのかもしれません。
と、悠長に考えている場合じゃないですね。
「ちょっと待った! 飛び付いて来ても支え切れないからね! 落ち着いて、ちょっと止まって!」
と、ヒヨコちゃんには静止が通じたようです。
後一歩のところで止まってくれたヒヨコちゃんにホッとしていると、横合いからバサッと広げた羽に包まれます。
「ヒュルルルル〜」
少し気弱げな鳴き声と共にお父さんがこちらを覗き込んで来ます。
「いや待って! 行かないからね! 勝手に背中に乗せないでよ!」
言いながら羽の包囲から抜け出そうと後ろに下がると、お父さんはしゅんと頭を下げて羽を引っ込めてくれました。
チラッチラッとこちらに目を向けて来るお父さんですが、しばらくすると諦めたようにヒヨコちゃんを促して、飛び立って行きました。
その背中に哀愁を感じるような気がしましたが、それに絆される訳にもいきません。
「・・・あれ、毎日通って来るつもりか?」
ケインズさんのポツリと一言が、胸にズッシリと来ました。
「だから、ハザインバースの専門家! 早く紹介してもらわなきゃ!」
力を込めて言い切ってみると、オンサーさんとケインズさんが何か考え込むような顔になりました。
「いっそ、市井の魔物狩り《ハンター》で生態に詳しい人間でも探してみるのはどうだろう。」
ケインズさんの呟きに、ぐいっと食い気味にそちらに顔を向けてしまいました。
「魔物狩りの専門家みたいな人がいるんですか?」
「うーん。仕事として間引きを引き受けたり、魔物から素材を取る為に依頼を貰って狩に行ったりするのを職業にしてる連中がいるんだ。」
オンサーさんの説明が若干苦い口調なのは、第二騎士団と何かあるんでしょうか?
「偶に、俺達の討伐任務とぶつかったりしてな。奴ら統制が取れてなくて動きが身勝手だから、ちょっと困る事がある。」
まあ、正規の軍と依頼さえ熟せばOKなハンターじゃ、そういう事もあるんでしょうね。
「あ、でも。その狩人さん達の方が、魔物と接する機会は多いってことですよね?」
「まあそういう事だ。俺達は上からの討伐命令が下らない限り動かないからな。」
ほろ苦い顔のオンサーさんは、そう説明してくれてから、優しい笑顔になりました。
「それじゃ、夕方勤務明けにでも、ケインズと一緒に街でハンターを探してみるな。」
頷き合いながら引き受けてくれたお二人には感謝です。
「私も一緒に行きますって言いたいとこですけど、やっぱ許可取らなきゃですよね?」
チラリとウチの偉い方とか父の顔が浮かびました。
「ははは。まあ、まずはそんな奴がいないか探してみるからな。見付かったら、連れて来るなり聞きに行くなり、相談したら良いだろう?」
引きつり気味に笑うオンサーさんですが、それでもその優しさが身に沁みます。
「済みませんがお願いします。」
お二人に頭を下げたところで、兵舎の中から走り出て来たシルヴェイン王子が駆け寄って来ました。




