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柱の囲む円形広場には、最終的に30人くらいが集まって来ましたが、朝の訓練をした同じ隊の人ではない人達の方が多いくらいです。
どうやら、魔法の訓練は第二騎士団でその素質がある人間だけが集められて合同で行うとか、そういうものみたいです。
ダメ男くん、魔法使えたんですね。
これは、ちょっと役得感があるかもしれません。
ですが、明らかに訓練が始まっても、誰もこちらに近付いて来て何かを教えようとしてくれる人がいません。
今回ばかりは、ケインズさんも他の先輩らしき人から指導を受けてる立場のようで、離れた場所で目を瞑って精神統一みたいなことをしています。
手持ち無沙汰になって、広場の邪魔にならない隅に下がって皆さんがやっていることの見学をさせて貰う事にしました。
えーと、今なら訓練やる気満々なんですが、誰か是非魔法の使い方レクチャーお願いします!
心の中と視線でアピールしてみますが、皆さんそれぞれご自分の訓練にお忙しいようです。
空気と化しかけていたところで、広場に新たに人が入ってきました。
騎士団の訓練着ではない人が2人ですが、1人はカルシファー隊長と似た格好なので、他所の隊の隊長かもしれません。
もう1人は、若いのに出来る偉いイケメンの3大オーラ全開のちょっと近寄り難いような人です。
年はレイナードと同じくらいか少し上で、髪は光沢のある青銀色で、短髪ですが前髪は真ん中で分けて横と長さを揃えてある感じです。
瞳の色は赤みの強い透き通った紫色で、かなり珍しい色ではないでしょうか。
少なくとも、あちらの世界では髪も目もそんな色をした人は見た事がありません。
流石剣と魔法のファンタジーの世界です。
何でも有りっぽいですね。
ただ、現実味のない画面の向こうの人物のように見えてしまうのは難点でしょうか。
「あ、本当に居ましたね。」
と、現実に戻してくれた一言は、他所の隊長さんがこちらを向いて放った一言で、言い方がもう、小馬鹿にしまくりですね。
それを受けた非現実を感じさせるイケメンさんは、お綺麗で高貴な顔を勿体無くも顰めて、睨むようにこちらを見ました。
ダメ男くん、ダメ男くんの癖に、有名人過ぎですよね?
本当、この人ある意味何者なんでしょうか。
「お前が見てやれ。」
イケメンさんは嫌そうに目を逸らして、他所の隊長さんにそう言ってます。
顔も見たくない程だとは、失礼しましたねー。
ちょっと軽い反発心を覚えながら、こちらに向かって来る他所の隊長さんに目を向けます。
この人、ウチのカルシファー隊長よりちょっとだけ若いでしょうか。
ただ、他の人達と違って、こちらに嫌悪めいた目を向けて来ないです。
あ、でも、カルシファー隊長もそうだったので、多くの部下を預かる隊長さんクラスの人は、そういう人間が出来た人達が多いのかもしれません。
何はともあれ、ここではケインズさんが構ってくれないので、他に面倒見てくれる人が居るのは助かります。
「ふうん、全ての記憶を無くしたって本当なんだな。無垢な子供みたいな顔してやがるなぁ。」
開口一番、これはちょっと失礼じゃないでしょうか。
まあ確かに、今日一日、親鳥を追い掛ける雛鳥みたいにケインズさんの後ろを付いてまわりましたけど。
「俺の名前も覚えてないか?」
問われて素直に頷き返すと、隊長さんは目を瞬かせます。
「うーん。まあ、トイトニーだ。こっちの訓練はしばらく俺が面倒見てやるから、真面目にやれよ〜。」
軽めの口調で流すように言ったトイトニーさんに、こちらもきちんと頭を下げてご挨拶です。
「宜しくお願いします。」
TPOを弁えたご挨拶、社会人の常識です。
が、途端に驚いた顔になったトイトニー隊長の様子には、苦笑いしておくしかないですね。




