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「第二王子殿下、並びにランバスティス伯爵令嬢ご入場。」


 読み上げに従って入場した会場は、色とりどりの衣装を纏った人達で溢れる広間でした。


 シルヴェイン王子にエスコートされながら階段を下りつつ見渡したところ、会場奥に料理や飲み物が用意された立食式のパーティーのようです。


 会場真ん中では、楽団が演奏しつつ、ダンスも踊れるようになっているようですね。


 ちょっと遅れて入った状況になっていて、会場の人達は思い思いに夜会を楽しんでいたようですが、入った途端にざっと集まる視線が全身に刺さるようです。


 その視線からすら気遣うようにゆっくりとエスコートしてくれるシルヴェイン王子ですが、表情だけは打ち合わせ通り熱量のない普通を装っています。


 部屋を出てからこれといった会話もなかったので心配していたのですが、怖いくらい普通に主催者の事や、覚えておいた方が良い主要人物等を教えてくれます。


 因みに王宮の広間の一つを使って行われている今夜の夜会の主催者は、父ランバスティス伯爵の上司でもある財務大臣を務める王弟殿下だそうです。


 無派閥中立派と言われる王弟殿下主催の夜会がレイカの社交界デビューになったのは、同じく中立派のランバスティス伯爵家のお家事情といったところのようです。


 この夜会には、そんな訳で王太子と婚約者のマユリさんも招待されていて、まだ入場していないのだそうです。


 そんな話しを聞きながら階段を下り切って広間に降り立った途端に、すすっと人波が寄ってきました。


「第二王子殿下にご挨拶申し上げます。」


 次々と挨拶を口にする人達が次に一斉にこちらに目を移すのは、中々見応えのある光景です。


「ところで、そちらの何とも可愛らしいご令嬢は、どなたであらせられますか?」


 勿論、答えなど始めから分かっているのに、それでもシルヴェイン王子自身からの紹介を待つ人々に、ちょっと悪戯心が疼きます。


 チラッとシルヴェイン王子に目を向けたところで、ほんの少しじっとり目の頷きを返されたので、にっこり笑顔を浮かべます。


「ふふっ。お初にお目に掛かりますと自己紹介すべきでしょうか? わたくしの記憶にはございませんけれど、この目に皆様を映したのは初めてではないと思っておりましたけれど。わたくしが貰い受ける事になった身体の主殿は、社交の場では大層有名な方だったと聞き及んでおりましたから。」


 にこやかにそう口にしてみせると、面白いくらいお揃いの驚愕の表情が見られましたね。


 セイナーダお母さんと持って回った喋り方の練習しておいて良かったです。


 第一印象大事ですから、こういう場で舐められたら最後って言いますしね。


 始めのショック状態が抜けると、ざわざわと囲む皆さんが顔を見合わせて話し始めました。


 にこりとシルヴェイン王子に笑い掛けてみせると、難しい顔を作ったシルヴェイン王子が咳払いを一つしました。


「うん。確かにレイナードはある意味社交界では目立つ存在だったな。レイカ嬢はまた違った路線で目立つ事になりそうだが。」


 言いながら見つめ返してくる瞳に熱量はありませんでしたが、気遣うような視線を上手に混ぜてくれています。


 そこは流石社交が仕事の一つにもなる王族ですね。


 自在に調整出来るって、かなりのスキルだと思います。


 だからこそ、あの熱量多めの口説き文句も頭から信じちゃいけないってことですね。


 と、気を取り直したところで、人垣の外から声が掛かります。


「これは失礼。我が家の可愛いレイカを是非皆様に紹介させて頂きたいのですが?」


 ルイフィルお父さんがそう言いながらセイナーダさんと一緒に囲みを抜けて来ます。


「シルヴェイン王子殿下、今宵はレイカのエスコートをお引き受け下さり有難うございます。」


「いや、我が第二騎士団ナイザリークの救世主として入団してくれたレイカルディナ嬢を今宵はしっかり守るつもりでお連れしたが、伯爵の溺愛されるご令嬢は中々どうして、しっかりしておられる。」


「それはそうです。当家の自慢の娘ですので。」


 そんなやり取りをわざわざこの場で繰り広げる二人を呆気に取られて見つめる人達にセイナーダさんがにこりと笑顔で向き直りました。


「さあ、レイカちゃん。皆様にご挨拶しましょうか?」


「はい。」


 ここは継母に当たるセイナーダさんとも関係良好をアピールしておきましょう。


 さて、セイナーダさんと重点練習を重ねて来たカテーシーを披露する時間ですね。


 シルヴェイン王子から一歩離れて、ゆっくりと優雅に足を引いて一礼ですよ。


 レイナードとして一月足腰鍛えた効果があったのか、元からこの身体の運動神経の良さの成せる技か、バッチリとカテーシーも決まりました。


「皆様初めまして、レイカルディナ・セリダインと申します。レイナードさんを数奇な運命から救う為に私達は入れ替わる事になり、その事情から、わたくしは神々の祝福を受け、聖なる御力を使う事が出来る身となりました。」


 ここまでは、ランバスティス伯爵家の皆さんとシルヴェイン王子と口裏を合わせたお話しです。


 そして、ここからは保身の為の仕込みですよ。


「勿論、王家とこの国の為に神々から寵愛と祝福を受けて遣わされたマユリさんの御力には及ぶものではございませんが。レイナードさんから受け継いだこの身を大切に、ランバスティス伯爵家の者として暮らして行く事になりました。そして、レイナードさんも所属していた第二騎士団ナイザリークにこの力をもって少しでも貢献出来ればと、女騎士として所属する事になりました。どうぞ温かく行く末をお見守り頂けますと幸いでございます。」


 長い演説を終えて、もう一度丁寧に頭を下げると、ランバスティス伯爵ご夫妻とシルヴェイン王子がほんの一瞬だけ呆れ顔になりましたが、直ぐに何でもない笑顔を取り繕いましたよ。


 慣れてますねお三方、流石です。


 と、周りからは概ね好意的な拍手と歓声のような声が聞こえて来ました。


 まあ、初手としては悪くない滑り出しではないでしょうか。


「さて、レイカ嬢。そろそろ主催の叔父上にご挨拶に向かおうか。」


 シルヴェイン王子が見計らったようにそう口にして、解散の空気になりました。


 すっと掴まり易いように腕を差し出してくれたシルヴェイン王子の腕を取ると、滑らかな動作でエスコートが始まって、するりと人垣を抜けられました。


 父伯爵とセイナーダさんも付いてきますが、主催の王弟殿下の元に辿り着く前に、やはり合流してきたコルステアくんはじっとりと冷たい視線で、ロザリーナさんはそんなコルステアくんにキョトンとしたまま引っ張られています。


「あんたほんと、良くやるよね?」


 ボソッと苦い顔で告げられた一言は、決して褒め言葉ではないようですね。


 その後シルヴェイン王子に目を移したコルステアくんですが、慎重に探るような視線を向けています。


 シルヴェイン王子の出掛けて来る前とはガラリと変わった熱のない態度に訝っている様子です。


 その結果というように溜息を漏らしてまた囁き掛けて来ました。


「あんたね、何やったの? 怒らせちゃいけない人を怒らせて、後でどうなっても知らないよ?」


 そんな不穏な言葉を溢される心当たりはないのですが、意外に鋭い観察眼を持つコルステアくんの発言だけに、思わず顔が引きつりそうになりました。

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