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「レ、レイナード様!?」
ジャガイモらしきものを厨房に運び込んだ途端、料理人らしき人達に絶句されてしまいました。
相変わらず青い顔の女の子が肩を落としてトボトボと後ろを付いてきていて、作業台の上に芋の入った袋を下ろした途端に、女の子は料理人達に引っ張って行かれました。
これから事情聴取的なものが始まるのでしょうか。
可哀想だから、余り問い詰めないであげて下さいね。
「はあ、行くぞレイナード。」
深い溜息混じりのケインズさんの呼び掛けに従って厨房を後にしました。
宿舎の方に戻って行くケインズさんを追い掛けて歩いて行くと、玄関を入ったところで、ケインズさんが溜息混じりに振り返りました。
「訓練着に着替えたら、降りて来いよ。」
物凄く嫌そうな顔でそう言われて首を傾げてしまうと、ケインズさんは顰めっ面になりました。
「待っててやるから、サボるなよ!」
更に嫌そうな顔になってそう言われますが、そんな簡単にサボれる程心臓強くないですよ?
あ、ダメ男くんはサボり魔だったんでしたね。
思い直したところで、頭を下げて自室に戻ることにしました。
騎士団の制服を脱いで掛けると、午前中も着ていた訓練着に着替えます。
ちょっと汗臭くてベタベタしますが、ここは我慢でしょうか。
洗濯機がない世界できっとお洗濯も大変な筈ですよね。
自分で気軽に洗濯出来るようになるまでは、ちょっと我慢することにしようと思います。
せめて、除菌の出来るスプレー欲しいです。
脇の汗臭さを消してくれるヒンヤリスプレーも是非欲しいところです。
せめて明日からは、風通しの良いところで吊るし干し出来るように工夫しようと心に誓いました。
着替えを済ませて階段を降りて行くと、玄関フロアでケインズさんが壁にもたれて待ってます。
「お待たせしました!」
ここは、殊勝に声を掛けてみると、やはり不機嫌そうな顔でひと睨みされました。
ケインズさん、やっぱりダメ男くんは相当嫌いなんですね。
「ああ。」
とは言え、きちんと返事を返してくれる辺り、冷たくなり切れない良い人なんでしょう。
こんな人をイラつかせるダメ男くんって、ホントどんなダメっぷりだったんでしょうか。
知りたくないですけど、気になります。
という訳で、ケインズさんの後ろを付いていきますが、今度は朝の剣を振った訓練場の奥にある、石の柱が等間隔に囲んだ円形の広場に入って行きます。
柱に囲まれた広場に屋根は無く、柱の間を通る時に、ぽわんとした空気の壁を抜けて来るような妙な感覚に包まれました。
もしかして、魔法ですか?
結界とかそんな類でしょうかとちょっとワクワクしてしまいます。
が、広場には他にも訓練着の騎士さん達が居て、こちらを見た途端、険しい顔になってお隣の人とひそひそが始まります。
ケインズさんには声を掛けますが、こちらは無視です。
何なら、ケインズさんを大袈裟に労う人まで居て、居た堪れない気分になりますが、まあ要は、ダメ男くん魔法関連の訓練サボってたってことですかね。
本当、困ったお坊ちゃんですよね、全く。
他人事のように言っちゃいましたが、そう言えば他人事じゃないかもしれません。
誰かに、大袈裟な事態にならずに済む方向で、別人だって気付いて貰えるまでは、大人しく記憶喪失のダメ男くんで居なきゃいけないですからね。
違和感は誤魔化しつつ、剣と魔法のファンタジー世界で、しかも鍛えがいのあるイケメンキャラを楽しもうと思います。




