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 騎士団の食堂厨房を出て、歩き始めたところで、コルステアくんが並びました。


「何処行くの? 部屋はあっちでしょ?」


 いや、そんな壊滅的な方向音痴じゃないですよ?


「ああえっと、部屋に帰る前に寄るとこがあるから、先戻ってて?」


 思い切ってそう言ってみると、コルステアくんとロザリーナさんが怪訝そうな顔になりました。


「それら、連れてくんでしょ? 厨房に籠るからって護衛目的の騎士帰した癖に、ハイドナーもいないし単独行動はダメでしょ?」


 横をちょこちょこ付いてくるコルちゃんとヒヨコちゃんに目を向けながら言うコルステアくんですが、それらって。


「えっと、騎士さん呼ばなきゃダメかな? ちょっとそこまでっていう距離なんだけど。」


「あんたね、それ魔獣ハザインバースの雛だって解ってる? いざとなったら魔法駆使すれば何とかなるって思ってるのかもしれないけど。不測の事態が起こって取り返しが付かない事になったら、あんただけじゃなくてここの騎士達やシルヴェイン王子殿下にも責任が問われるんだよ?」


 事の他真面目なお説教が来て、ぐうの音も出ません。


「はーい。ごめんなさいです。今日の護衛担当の騎士さん達呼びに行きまーす。」


「・・・ねえ、あんたさ。本当に第二騎士団ナイザリークに入るつもり?」


 兵舎側に戻ろうと足を踏み出したところで、コルステアくんからこれまた真面目な問いが来ました。


「え? うん、そのつもりだけど?」


「・・・、それってさ、シルヴェイン王子の側にいる為? それとも、騎士の中に誰か気になる人がいるの?」


「・・・へ?」


 目を瞬かせながら返事をしていると、ロザリーナさんが両手を前で握り締めて目を輝かせているのが目に入りましたが、ここは視界から外して、と。


「えー、シルヴェイン王子とは、いざという時の為に接点を持っておきたいのは確かかな。でも、お互いに今はそういう気持ちがあってじゃないよ? 王族の嫁とか、私に務まるとは思えないしね。」


「そう。じゃあさ、明日の夜会に行ってみたら?」


「はあ?」


 声を裏返しながら問い返すと、コルステアくん真面目な顔で見返して来ます。


「夜はハザインバースの雛は寝てるみたいだし、少し夜会に顔出す程度なら、置いて行けるでしょ?」


 確かに、夜はコルちゃんと部屋に残してお風呂に行ったりしても問題なさそうですが。


「僕はロザリーナのエスコートするからついて行くし、あんたのエスコートは殿下にお願いするのかイオラート兄上か父上に連れて行って貰うか相談しとくよ。」


「はい? 何でいきなり?」


 確かに、いずれはそういう場所に顔を出さなければいけないって話しは聞いていましたが。


「騎士団での勤務開始が迫ってるんでしょ? その前に、お姉さまがランバスティス伯爵家の長女になったって公表しておいた方が良いから。」


 まあ、色々あるんでしょうが、いきなり過ぎて心配になって来ますね。


「あんたさ、ちょっと自分の事に無頓着過ぎるけど。王家が確保したくて躍起になるくらいとんでも人材だからね。底なしの魔力が聖なる魔法と通常の魔法にも転化可能。取り敢えず、他所の国やら神殿やら組織なんかから手が伸びる前に絶対にこの国に縛り付けておきたいんだよ。」


 いや、それってこんなとこで話す話しでしょうか?


 あれ、その他の魔法も使い放題って最早隠し切れてないって事でしょうか。


 ケインズさんの治療をした件、やったこと自体には全く後悔はありませんが、もっと上手くバレないようにやっとくべきでしたね。


「だから、早いところこの国で伴侶探しますよってアピールだけはしっかりはっきりしておくべきなの。」


 成る程、結果がどうなるかどうするかはともかく、貴族社会ではアピールして身を守るって事は大事だということですね。


「それからその容姿! ちょっとは鏡見て自覚しなよ! ランバスティス伯爵家の令嬢って認知される前に女騎士で知れ渡ったら、危ないでしょ!」


 あれ? 数日前にもシルヴェイン王子に鏡見ろって言われましたが、美少女認識がないとか思われてるんでしょうか?


 いやいや、レイナードだった頃から規格外の美人さんだと思ってましたよ?


 ただ、中身残念案件だってシルヴェイン王子は気付いてくれましたが。


「コルステアくん、レイナードの顔くらい見慣れてるはずでしょ? 基本ベースは一緒だよ? でも、中身は私なの。容姿しか見てない人には引っかからないし、相手にしない。それでいい?」


 真っ直ぐ視線を返して言い切ってみせると、コルステアくんは溜息を吐きました。


「あのね。あんたにその気がなくても、向こうが強引に迫って来たらどうするの? 魔法を封じられたら?」


「強引に迫って来たところで、こっちにその気がなければ目的は未達にしかならないでしょ。それに、魔法封じには対策しようと思ってるから。簡単には思い通りにはならないよ?」


 コルステアくんはここでまた溜息です。


「その気がなくっても、容姿で誤解される事だってあるんだよ?」


「ん? 容姿で誤解って愛想笑いの話し? そう言えばシルヴェイン王子にもするなって言われたけど、意味がわからなかったけど。」


「・・・へぇ、するなって言われたんだ。ふうん、じゃあっちは満更でもないってことかな? それならそれで、はっきりさせれば良いのに。」


「残念だけど、シルヴェイン王子は結婚は仕事と務めの一環って考えてるみたい。だから、いざっていう時の隠し駒ってことで合意したの。」


 これにはコルステアくん肩を竦めました。


 どうにも納得してくれた風ではありませんね。


「もういいです。おねーさまは男って生き物と世間が全く分かってらっしゃらないようなので、過保護路線で行くように父上と兄上を焚き付けておきますね。」


 凪いだ目のコルステアくんの発言に、今度はこちらの顔が引きつります。


「あの、さ。これ以上過保護にされても、かなり迷惑? レイナードが成人してたって事は、私も大人なんだから、ある程度自由にさせて欲しいんですけど?」


「世間知らず過ぎて無理。」


 はっきり言い返してくれたコルステアくんにムッとした顔を向けると、不意にロザリーナさんが笑いを漏らしたようです。


「もう、お姉様ったら可愛い。でも、わたくしもこればっかりはコルステア様に賛成ですわ。今のレイカお姉様を一人歩きなんかさせたら、無事に戻って来るとは思えませんものね。」


 ロザリーナさんにまでそんなことを言われて、納得は出来ませんでしたが、この世界やこちらの社会常識が身に付いているとは言い難い身としては、折れるしかないと思う事にしました。

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