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隊長さんとの激闘(そう思ってるのはこちらだけですけどね)の後は、年上そうな騎士さん達から小突き回された感満載な打ち合いをしました。
もう最後の方は、真っ直ぐ立ってられない程息切れして、手からポロポロ剣落としてましたけどね。
汗だくで井戸まで水を求めて歩いて行きましたが、水の汲み合いしてる若手の皆さん、近付いた途端に一斉にさっと離れて行きました。
これでもかっていうくらい嫌われてるみたいです。
プルプルする腕でレバーに手を掛けたところで、深い溜息と共にケインズさんが寄ってきてくれました。
無言で汲み上げを代わってくれたケインズさんは、男前だと思います。
ですがやっぱり不味い井戸水を仕方なく飲んで、昼食に向かいました。
食堂で、コップとレモンと塩と砂糖、手に入らないでしょうか。
ちょっと切実に考えてしまいました。
昼食の後は、お仕事です。
城内巡回に割り振られたので、最早諦め顔のケインズさんと組になって、決められた区画の通路を歩いて巡回です。
因みにお昼の後に第二騎士団の制服に着替えて、厚地の布で出来た帽子らしき物も被りました。
制服は臙脂に近い霞んだ赤がベースの上下で、上から階級とか地位が分かるような貫頭衣みたいなベストを重ねる方式のようです。
ダメ男くんは勿論一番下っ端の臙脂に埋没するような茶色のベストです。
が、部屋の衣装棚に掛かっていたものには、さり気なく濃い色の石が付いたボタンのような物が縫い付けてあって、光に当たるとキラリと光る細工がしてあったようなので、こそっと引きちぎっておきました。
ふう恥ずかしい恥ずかしい。
割り当ての通路は余り人通りの多くない場所のようで、ゆっくり数時間巡回中に行き合った人は両手で数えられる程でした。
その間、ケインズさんとは特に会話はありませんでしたが、時折こちらを気味悪そうに見る視線を感じました。
無理もないのかもしれませんが、いい加減諦めて慣れて欲しいです。
記憶が飛んで、人が変わったんですよ。
受け入れましょう、いえ受け入れて下さい。
だって、ダメ男くんに成り代わった当人が、諦めてこうして無難に生き繋ぐ道を模索してるんですから。
世の中色々気にしちゃ負けです。
文化の差が何ですか、職業の差が何ですか、性別の差が何ですか、きっといつか慣れますよ、きっと。
経緯とか、神様の声聞いてないとか、チートがないとか、きっと些末事なんですよ。
こうなったら、顔だけ自慢のダメ男くんに代わって、ちょっとカッコイイ騎士様とかになれちゃうかもしれないじゃないですか。
体力と筋力と剣技を磨いて、唯一持ち込めた常識人としての感性で、自立した大人を目指します。
そんな事を考えて時折拳を握っていたかもしれないこちらを、ケインズさんが引き気味にチラチラ見ていたのは、気の所為でしょう。
気を取り直して、その後は、定点警戒任務の人達と交代だそうです。
歩いて交代に行った先で、今度は微動だにせず首から上だけ動かす警戒行動です。
巡回するよりもこっちの方がキツイかもしれないと始めは思ってましたが、ここ、人が通るんですよ。
そういう訳で、人が通る度に通行人観察の時間に代わりました。
いえ、そこはちゃんと周りも警戒してますよ?
通行人男女の服装や髪型、装飾品を見る限り、この世界、やっぱり王様と貴族が国を支配してる社会構成みたいです。
細かい政治形態とかは分かりませんが。
そう言えば、オネエな軍医さんが言ってましたが、ダメ男さんのお父さん何たら伯爵さんでしたっけ。
という事は、どうやらダメ男さんも貴族階級ってことになりますね。
後は、ファンタジー世界にお約束の魔法ですね。
これまで取り敢えずお目に掛かってませんが、その辺どうなんでしょうか。
それから、遊撃部隊のこの騎士団の敵は、人間オンリー? それとも魔獣とか魔物とか魔族とかいるような世界ですかね。
その辺が出没するなら、魔法は必須の世界のような気がします。
何にせよ、王様のお膝元は国一番の安全地帯の筈です。
早い内にそこら辺の事情も聞き出しておきたいところですね。
「おい。見過ぎ!」
途中でこそっと通路の反対側に立つケインズさんに叱られました。
「女性ばっか目で追うな。」
冷たいお言葉が付け足されて来ますが、それは仕方ないような気がします。
ダメ男さんになっちゃった以上、いくらイケメンを見掛けても、ときめいてる訳にもいきませんし。
と言って女性にときめく訳じゃないんですけど、服装とか装飾品とか髪型とか、見てて楽しいのは女性じゃないですか。
あのドレス可愛いとか、装飾品の形とか石が綺麗とか、クルクル巻き毛が可愛いとか、女性の感性は残ってますからね。
そんな訳で、本当にこそっとチラッと観察に切り替えたんですけど、お仕事終わりに交代が来る頃には、通路の向こうから溜息が聞こえてきてました。
ケインズさん、苦労性タイプですね。
お疲れ様です。




