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 朝食時、第二騎士団ナイザリークの皆様が早朝訓練を終えて移動してくる頃を見計らって食堂に入って行くと、やはり物珍しげな顔で振り返られました。


 食堂へ足を運ばなくなってしばらく経つので、そんな扱いになるのも無理のないことですね。


「レイカちゃん!」


「どうした? 何かあったのか?」


 不思議そうに声を掛けてくれたのは、オンサーさんとケインズさんです。


 お二人に会いに来たんですよ、とは流石に言えないので、笑顔を返しておきます。


「今日から、朝はこちらでご飯食べることにしたんですよ。」


「そ、そっかぁ。」


 ちょっと上擦った声で返されましたが、お二人始め他の騎士さん達も笑顔で頷いてくれているので、問題はなさそうですね。


「レイカさん、隊長達の手伝いを始めるんだって?」


 ケインズさんが、隣に並んでくれながら、少し心配そうに問い掛けてくれます。


「はい。えっと、こんなこと言うと失礼かもしれないんですけど、実は物凄く退屈で。こちらからお願いしてしまいました。」


 正直に答えておくと、後ろに並んだオンサーさんが吹き出し笑いをしています。


「あー、レイカちゃんらしいな。何か困った事があったら、いつでも言ってくれ。」


 安定の良い兄貴ぶりのオンサーさんですね。


「そうか。レイカさん、ご家族とは大丈夫なのか? 伯爵家の人達がよく出入りしてるみたいだけど。弟はもう突っかかって来なくなった?」


 ケインズさんも相変わらずの細かな気遣い屋さんですね。


「ええ、まあ上手くいってるんじゃないかと思いますよ? コルステアくんは意外と良い子で、最近では色々手伝ってくれたり相談に乗ってくれたり。とにかく前みたいに猜疑心の固まりみたいに睨まれることもなくなったし。」


「そうか。伯爵一家で居場所が出来たなら、それはそれで良かったけど。それじゃ、ヒヨコちゃん問題が片付いたら、伯爵の屋敷に移ることになるのか?」


 そう問い掛けるケインズさんは、何故か少しだけ微妙に苦い顔をしていて、こちらも少し首を傾げてしまいました。


「えーと、それは。私の希望としては、このまま第二騎士団ナイザリークに残れないかなと思ってるんですけどね。」


 まさにその事を客観的視点で相談に乗って貰おうと思ってたんですよね。


「伯爵やご家族は何て言ってるんだ?」


 後ろからオンサーさんも話しに入って来てくれました。


「殿下交えたところで、伯爵には残りたいって伝えてあるんですけど。宮廷で私の扱いについて論議されてるみたいで、それが決まらないとはっきり結論が出せないって言われてて。」


「成る程なぁ。上の方々のご判断待ちじゃ、何とも分からないよな。それは、レイカちゃんも不安になるな。」


 うんうん頷きながらオンサーさんが言ってくれて、少しホッとする気持ちになります。


「それなら確かに隊長の手伝いしながら第二騎士団ナイザリークに関わってるのも悪くないと思うけど。それでもやっぱり遠征前までだよな。」


 ケインズさんの懸念が滲む言葉には、こちらも困った気持ちになります。


「そうだよな。早けりゃそろそろ単発の要請がポロポロ来始めるからな。」


 魔物の活動が活発化して討伐要請が出るのは、秋口がピークとのことでしたが、初夏に突入している今日この頃、そろそろ単発討伐依頼が来始める時期なんですね。


 そう言われると、身辺を早いところはっきりさせておきたい気持ちになりますね。


 食事のトレイを受け取って席に向かいますが、まだ確保されていたヒヨコ様レイナード様指定席に向かいます。


 ヒヨコちゃんとコルちゃんは、しっかり椅子の上で待機中です。


 何も言わずともコルちゃんが誘導してくれているのですが、これ、ヒヨコちゃんが巣立ってお母さんと行ってしまったら、コルちゃん気落ちしてしまうんじゃないでしょうか?


 その時はしっかり構ってあげようと思います。


 席に着いて朝食を食べ始めると、ケインズさんがこちらを見ながら声を掛けてきました。


「レイカさんは、聖なる魔法の訓練を始めたんだろう? 順調なのか?」


 シルヴェイン王子とマンツーマンの魔法訓練は、まだ第一回をこなしただけですが、聖なる魔法は見た目は地味なので、他の人には何をしているのか分からなかったかもしれません。


「うーん。凄く軽い怪我を治す魔法を二通り試してみて成功はしたんですけど、聖なる魔法って色々考えて使わなきゃいけないみたいで。もう少し詳しい人に、原理とか使い方の基本とかを学んだ方が良いかもしれないなって思ってて。」


「そうかぁ。聖なる魔法って、普通の魔法とは別物だからな。そうなると、神殿関係者か?」


 オンサーさんの言葉に頷き返します。


 コルステアくんお勧めの研究者さん、早く会ってみたいですね。


「神殿の治療師は中々大変な仕事だって聞く。大規模な遠征の時に、神殿から治療師が派遣されてくる事があるんだが。彼らが時折溢しているよ。人を助ける尊い仕事だと言い聞かせていないと、時々心が折れそうになるって。」


 ケインズさんが複雑そうな口調でそう言って、こちらをじっと見つめ返して来ます。


「その人も言ってたよ。聖なる魔法は万能じゃないって。助けられない命を見送る機会が他の誰よりも多いんじゃないかって滅入る時があるって。」


 それは、あちらの世界でいう病院のようなイメージでしょうか。


 助けられる命もあれば、失われる命も沢山診ることになる。


 そこまでの精神的な強さを持てるのか、ちょっとこれも要検討項目ですね。


「うーん。自分の能力を活かして真面目に生きていくって、意外と難しいことですよね。」


 出来る事としたい事が一緒ではないですし。


 こういう考え方は卑怯かもしれませんけど、我が身も守っていたいですし。


 そういう下地があってこその、誰かの為に頑張れる、なのかなとも思いますし。


「まあ、一先ずレイカちゃんは、ご飯しっかり食べて今の環境に慣れること。後は隊長達を手伝いつつ、第二騎士団ナイザリークで出来る事を探せば良い。」


 オンサーさんの纏めが来て、皆でふっと肩の力を抜く事にしました。


 という訳で、気を取り直してちぎって食べたパンの味が、前より物凄く美味しく感じます。


「パン! 美味しくなりましたね!」


「だろ? これもレイカちゃんのお手柄なんだからな。料理も前より心無し美味しくなった気がするしな。気持ちが入ると、いろんな事が変わっていくのかもしれないな。」


 そんなオンサーさんの温かい言葉に、胸がほっこりした朝でした。

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