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夕食時、ふらっと部屋に現れたコルステアくんは、向かいの椅子で、華麗に完璧なカトラリー捌きでディナーを食べています。
「コルステアくん、なんでそんな綺麗に骨が外せる?」
「は? フォークで押さえて削ぎ落としてるだけだけど?」
事もなげに言ってくれましたよ?この実はハイスペな弟くん。
可愛げのかけらも無いお返事ですが、コルステアくんですから、これで標準でしたね。
「あのですね。私だって、お箸捌きなら中々なんですからね?」
最近、イタリアンだってお箸で食べて良いお店増えてるんですよ?
「は? ハシ?」
「私の国で使われてる特殊なカトラリーですよ。スプーンとフォーク使う国の人からは、器用だって言われてるんだよ?」
つい悔しくてそう言い募ってしまうと、コルステアくんにはふーん、と気のない返事をされました。
「でも、ここでのマナー身に付けたいんだよね?おねー様。だったら努力するしかないんじゃないの?」
冷たい一言貰いましたが、分かってるんですよ?
あっちのお料理は一流レストランでも、もう少し食べやすい形状でお料理出してくれますからね?
すっとナイフが入る程柔らかい訳でもないお肉の骨をフォークとナイフで音もなく削ぎ落とすとか、そんなスキルはよっぽどじゃなきゃ要求されませんからね?
「あーあ、お料理でも始めればもうちょっとフォークとナイフの使い方にも慣れるかな?」
「はあ? 何でそこで料理? 普通の貴族の女性は料理なんかしないけど? あんた出来るわけ?」
あれ? これは聞き捨てならない事を言われましたね。
「それこそ、はあ?でしょ。料理くらいちょっとなら出来ましたけど? 一人暮らしで自炊してたし。友達呼んでツマミ作って家飲みとかもしてたし。ちょっとくらいなら、振舞い料理も作れるし。」
振舞い料理はちょっと盛り過ぎかもしれませんけど、家飲みのツマミ作りは本当にしてましたからね。
「ふうん? じゃ、今度ロザリーナがあんたお茶会に連れてく計画立ててるから、手作りで菓子でも持ってったら? 意外に家庭的って話題さらうかも。ついでにそんなあんたにころっと転がって来る男捕まえたら?」
「はい? お菓子はともかく、転がって来られても迷惑。はあ、ランバスティス伯爵さん家の子供達って、何でこんな顔の良い子ばっかりなの? 若干中身残念な人ばっかだし。」
つい本音垂れ流しタイムになったところで、コルステアくんに深々と溜息を吐かれました。
「あんたさ、男だめ魔法研究だめって、貴族社会って女性が独身のままいつまでもいられる場所じゃないよ? それを払拭する能力とか本人の持つ地位があるなら別だけど。あんたの長所って顔と魔力だけだろ?」
随分な言い方ですが、確かに今誰もが認めてくれる長所ってそこしかないですね。
「それで、魔法は使い渋るつもりなんだろ? どうやって生きてくんだよ?」
悔しいですが、コルステアくんの言うことはやっぱり冷たいのにマトモですね。
「はあ。結婚願望ね、全くなかった訳じゃないんだよ? でもね、世の中何が起こるか分からないなって。その時自分に何も無いのは怖いなって思った訳で。」
「面倒くさ。そりゃ、何事も当たり障りなく無難に逃げて隠して生きてれば、何も無い奴になるんじゃない?」
心底呆れたように吐き出して下さったコルステアくんですが、何度も言いますが、言い方酷いですけどこの子の言うこと不思議と正論なんですよね。
「分かってますよ〜。魔法についてはもうちょっと頑張ってみるつもりだし。婚活はもうちょっと保留するとしても、引き篭もるつもりはないから。人脈作って自分に出来る事見付けるつもりだし、もう少し優しく見守って欲しいんですけど。」
精一杯の訴えに、コルステアくんはふうと溜息を吐いて口を噤んでくれたようです。
「ところで、今日は何でいきなりご飯食べに来たの?」
そういえば、コルステアくんの突然の訪問理由を聞いていませんでした。
「父上に、あんたが寂しがってるから晩御飯くらい時間が許すなら一緒に食べてやって欲しいって言われた。」
昼間の引き篭もり限界の訴えがここに飛び火してたようです。
「そっか、何だかごめんね?」
「・・・仕方ないだろ。確かに夕食時なら僕が一番暇だから。」
ぶっきら棒に言ってくれましたが、コルステアくん、基本的に良い子ですよね?
「ありがと。持つべきものはハイスペで気遣いの出来る弟だね。あ、そこ照れなくて宜しい。お姉ちゃんはすっごく感謝してるからね。」
「な、照れてないし。あんたに感謝とか気持ち悪いし。」
半眼で素っ気なく返して来るコルステアくんに、にこっと笑うと、ついでに言いたいこと言っておくことにしようと思います。
「まあまあ、そう言わずに。感謝ついでにお願いが一つあるんだけど。知り合いに、聖なる魔法の研究してる振り切れてない神殿関係者さんいない? 紹介して欲しいんだけど。」
これには、コルステアくんしばらく黙ってしまいましたよ?
「・・・未分化な魔力、聖なる魔法に総振りするの?」
「うーんと、色々慎重に考えてるかな? だから、聖なる魔法の可能性の底って何処まであるのか知りたいなって。」
正直に答えてみると、コルステアくんが今までにないような真剣な顔になりました。
「それって、シルヴェイン王子にも相談済み?」
「いーえ。どうするか決めるのは自分でしょ? 判断材料は自分の手元に置いておきたいから。」
ここも正直に答えると、コルステアくんが考え込むような顔になりました。
「・・・あんた、本当良い度胸してるよね? そこだけは、感心する。」
褒められてない感満載ですが、否定の言葉ではないので、そこはよしとする事にしようと思います。
「神殿の聖なる魔法研究者なら、心当たりなくもないよ。振り切れてる切れてないは知らないけど、自分で会って判断して? 今度連れて来るから。」
そう返してくれたコルステアくん、中々頼りになりますよ?
持つべきものは、ツンデレでもベースは良い子のハイスペ弟ですね。




