106
「レイカさんって、性格クールビューティーって感じですよね? それなのに外身が儚げで超美少女な女性版レイナード様だから、ギャップ萌えで凄いモテそう!」
王太子さんと会議室のテーブルに着いたマユリさんが、興奮気味に言ってくれますが、他の方々は苦笑いです。
「いや、あのね。中身はただの人生に疲れてやさぐれた大人女子で、ギャップに萌えて欲しくないし、外見でモテるとか、ただの苦痛。」
本音を垂れ流してみたところ、お父さんが涙ぐみそうな顔になってます。
「レイカさん、実は詐欺に遭って人間不信気味とかですか? でもそれなら大丈夫! こっちの人達みんな良い人達だから、その内レイカさんの心の傷を癒してくれるイケメンがきっと見付かるから!」
冗談のつもりか軽く言ってくれるマユリさんに、乾いた笑いが浮かびます。
「あーそう? イケメン?要らない要らない。今の私に媚ってくるのっていったら、便利な魔法持ちの異世界人確保しときたい腹黒イケメンだけだから。無理無理絶対信用出来ないから。」
更に垂れ流した本音に、何故かシルヴェイン王子が胸の辺りを押さえ始めました。
何でしょ、肺か心臓疾患持ちでしょうか?
激しい運動(魔物討伐)するお仕事の筈なのに大丈夫なんでしょうか?
「レイカ! お父さんに任せておきなさい! 身分、資産、外見、性格を兼ね備えた、君を誰よりも大事にする若者を探し出してみせるから!」
と、お父さんの突然の宣言が来て、思いっきり首を傾げてしまいました。
「いや、無理でしょ。そんなハイスペックでキトクな方、何処にも落ちてないと思うよ? 仮に万が一落ちてたとしても、それ薄幸フラグ背負った人だよ。幸せの絶頂期に谷底に突き落とすみたいに病死とか事故死とかしちゃって未亡人になるパターンだね。」
言い切ってみたところで、それはそれは残念そうな目を幾つも向けられた気がしましたが、まあ気にするのはやめましょう。
「という訳で、やはり自立して生きていく為には、リスクマネジメントですよ!」
宣言してみましたが、マユリさんを始め、皆さん目を瞬かせたところをみると、やはり意味が通らなかったようです。
「ええと。マユリさん、全てのルートにおけるレイナードの魔王化のプロセスと要因について教えて欲しいです。関わった人とか利益不利益を被った人とか、回避出来たルートがあるなら、その時の状況も知りたいです。」
言い直してみると、漸く納得の空気が広がりました、が、その中でお一人だけ動揺してらっしゃる方がいらっしゃいます。
「魔王化?? レイナードが?」
そう言えば、王太子様だけ、レイナードが魔王化の危機にあったこと、知りませんでしたね。
「私の予想によるとですね。マユリさん誘拐事件もレイナードを魔王化させたい誰かの仕込みだったんじゃないかと思ってるんですよ。」
「ええ?? そうなんですか?」
と、当の本人様も驚いているようですが。
「レイナード様の魔王化阻止の為には、唯一レイナードルートに入る必要があって。そうすると、レイナード様ヤンデレ化するんですよ。あれはちょっとゲームならともかく実際には嫌かなぁって。」
「あー、記憶の断片覗き見た時、そんな雰囲気だったね、確かに。」
相槌を打ったところで、自動翻訳されなかった多分ヤンデレに他の皆さんが首を傾げてらっしゃいましたが、これは言わない方が良いワードでしょう。
「だから、気付いたらレイナード様のお部屋に監禁されていた時も、強制ルート突入かって焦ったんですよねぇ。」
呑気にそんな事を言うマユリさんですが、王太子様の顔付きがかなり真剣で怖くなってます。
「でも、マユリさんが気付いた後は、即行で王宮まで送り返してくれたんですよね?」
「そうなの。だから、実は良く分からなくて。」
そこで良く分からなくなったマユリさんは、今レイナードルートにいるのか王太子ルートにいるのか自信がなかったから、ヒヨコちゃんの事件の時に、あんな事を言い出したんでしょう。
「あ、因みに。この世界での魔王って、所謂魔物の王とかじゃないみたい。人の括りに入るんだけど、魔法を極め過ぎて国とか世界とかを破壊し兼ねない魔力を持つようになった存在を魔王って呼ぶみたい。で、怖がられて人里離れた僻地でお一人様人生歩んでる内に、偏屈で人間嫌いになるんだって。」
その説明に、マユリさんが驚いている間に、他の人達はそれは苦い顔付きになっていました。
「あれ? それじゃ実は魔王って悪の親玉じゃないの?」
首を振ってみせると、マユリさん何か困った顔になりましたね。
「それなら、別に魔王になっても問題ないんじゃないの? レイナード様は、魔王化が嫌でレイカさんと中身入れ替わったんだよね?」
「うん。まあ、お一人様人生嫌だったんだろうね。」
遠い目になって言っておきます。
深く追求すると、自爆しそうな気がするので。
「え、それって、怖がって追い出さなければ、別に共存出来るんじゃないの?」
ボソリと不本意そうに言い出したマユリさんに、良い笑顔向けときますよ?
「マユリさん、中世ヨーロッパとかで魔女狩りとか魔法使いの迫害とかが起こったのって何故か知ってます? まあ、それと似たような理由なんですよ、きっと。」
「えっと? 良く分からないんだけど?」
これまた笑顔で誤魔化しますよ?
「権力者怖いって話しですよ〜。まあ色々と彼等からしたら理由とか正当性もあったんだと思うんですよ? だからね、悪いとは言わないけど、ホント怖いですよね〜。うん、権力者には逆らわない逆らわない。」
さあ、この話し終わりって事で目を逸らした先で、王太子様とシルヴェイン王子にジト目を向けられているのに気付きました。
「良く言うな。何が逆らわない、だ。」
王太子様、そこでブツブツ言うのやめましょう!
まあ、全力で聞こえてないふりしますけどね。
そんな風に始まったゲームシナリオの確認ですが、残念な事に、黒幕の決定的な情報は得られませんでした。
幾つか疑惑が浮かんで、それを父とシルヴェイン王子が調べてみる事で話しが付きました。
王太子様とマユリさんも、危険がない範囲で協力してくれる事になったので、ちょっと進歩と言えるでしょうか。
それと、コルちゃんとヒヨコちゃんですが、やはりマユリさんの事は嫌がらないので、魔物や魔獣に懐かれる件については、神々の寵児と言われる異世界人だからということで間違いなさそうです。
最後にマユリさんにこっそり聞いてみた魔人の事ですが、マユリさんの側には現れていないそうです。
これは、レイナードとその身体を譲り受けたレイカに特有の現象ということになりそうです。
「それじゃ、また今度遊びに来ますね!」
すっかり懐いてくれたマユリさんと約束しつつ、会議室での会合はお開きとなりました。




