104
昼食とヒヨコちゃんの餌やりが済んだお昼過ぎ、カルシファー隊長号令の緊急会議が開かれました。
集まったのは、シルヴェイン王子と父ルイフィルさん、トイトニー隊長とカルシファー隊長です。
コルちゃんとヒヨコちゃんを連れて入った会議室では、シルヴェイン王子と父がかなり深刻な顔をしていて、悪いとは思ったのですが、思ったより今の状況が辛かったようです。
朝の訓練の見学で、カルシファー隊長に不満を吐き出すつもりはなかったのですが、我ながら実はかなり精神的に来ていたようですね。
「レイカ殿、座ってくれ。」
シルヴェイン王子の呼び掛けで、会議机の空いている椅子に座りに行きます。
シルヴェイン王子と父の間になるんですが、コルちゃんとヒヨコちゃんをそれぞれ左右の椅子に乗せたので、一個離れてお隣のイメージではありませんでした。
「貴女の処遇について、実は今現在国の上層部で色々と話し合われているところなのだ。はっきりしない状況の所為で、何日もそのままにしてしまって申し訳なかった。」
真摯に謝ってくれたシルヴェイン王子には、逆に申し訳ないような気持ちになりました。
「そう、ですよね? こちらこそ、急かすような事を言ってしまって、済みませんでした。」
少し沈んだ声になって返してしまうと、途端にシルヴェイン王子と父が慌てた顔になりました。
「そうではないのだ、レイカ。」
言葉を挟んだのは父ルイフィルさんです。
「私の配慮が足らなかった。セイナーダや息子達が張り切っているので、任せ切りにしてしまったが、例の調査の事や、私でなければ訊きにくいこともあっただろうに。本当に済まなかった。」
確かに、エセ賢者の事や、今後の具体的な方向性など、ルイフィルさんやシルヴェイン王子と他の人がいない場所でしか出来ない話しもあって、モヤモヤしていたのは事実でした。
「それじゃ、今後はその辺りの状況説明の時間を定期的にとって貰えますか?」
まずこれは大事な事なんじゃないでしょうか。
「「分かった」」
シルヴェイン王子と父が同意してくれました。
「それと、図書館通いと座学の勉強はこちらの常識知らずの私には大事な事だって分かってますけど、そろそろ缶詰はキツいです。コルちゃんとヒヨコちゃんの事があるのは分かってるんですけど、何かさせて貰えませんか?」
この発言には、シルヴェイン王子と父が困惑するように顔を見合わせます。
「何か、とは? 具体的にやりたい事があるのか?」
困惑する2人の間からトイトニー隊長が口を挟んできました。
「そう言われると困るんですけど、何をするのがご迷惑じゃないのか分からないので。でも、何か社会活動的な事をしていないと、ちょっと不安で。前の世界では普通に成人して社会で働いていたので、良い大人が引き篭もってるだけなのは、何というか罪悪感が強くてですね。」
社会構造が違うので、分かって貰い辛いかもしれないのですが、何もせずにぐうたら過ごすのは人間腐ってしまいそうで。
「良い大人が、なぁ。あのレイナードと交代したにしては、本当に真逆な性格だな。」
トイトニー隊長の呆れ混じりの言葉が返って来ます。
「・・・どうしますか?団長?」
トイトニー隊長の問いに、シルヴェイン王子は父と視線を交わします。
「レイカがしたいという事で危険がないなら、何かさせて貰えませんか?」
その父の言葉を受けて、シルヴェイン王子がこちらに目を向けて来ます。
「レイカ殿、第二騎士団でということなら、少々貴族令嬢らしくないような雑用をお願いすることになるかもしれないが、それでも構わないのだろうか?」
それには即行で頷き返します。
「体力面とか腕力とかで無理でなければ、デスクワークのお手伝いでも掃除とか備品整理とか、何なら食堂改革委員でもお引き受けしますよ!」
ちょっと調子に乗って言ってしまうと、途端にシルヴェイン王子の口元に苦笑が浮かびました。
「食堂の食事には、どうしても我慢出来ないのだな。最近では料理長も張り切って頑張っていると聞いているが。」
「あ、いえ。不満があるとかじゃないんですけど、良い筋肉と体力を付ける為に研究し尽くしたメニューとかを考案する事も出来るかもとか。あちらのにわか知識でも馬鹿にならない事が色々とあるんじゃないかと思うんですよ。それを持ち込むことが本当にいい事かって言うと自信はないんですけど。ちょっとした豆知識で今より少し良く出来るかもしれない可能性って、ちょっとワクワクしませんか?」
少し身を乗り出して主張してしまうと、シルヴェイン王子に小さく笑われました。
「成る程、レイカ殿は柔軟な考え方をするのだな。だから、自由な発想で周りを振り回す事になるわけか。」
何か微妙な分析をされてしまったようですが、否定的な口調でも表情でもないので、黙っている事にします。
「ランバスティス伯爵、宮廷でレイカ殿の立場と扱いにはっきりと結論が出るまで、第二騎士団で隊長達の雑務補佐をして貰っても良いだろうか?」
父にお伺いを立てるシルヴェイン王子に、何か察したのかカルシファー隊長の顔が引きつっていますね。
「そうですな。その辺りが妥当でしょう。今後レイカがどう暮らしていくことになるとしても、能力値を把握する事にも繋がるでしょうから。」
「そうだな。これ程働く事に前向きな女性というのも珍しい。何か芽が出れば、どう転ぶとしてもレイカ殿の生き幅を広げられるかもしれない。」
そんな2人のやり取りを聞いていると、どうもこれから先、余り自由な生活が出来そうな気配はありませんね。
「分かりました。では、その日内勤の隊長に日替わりで付けて、手伝いをお願いするという事で宜しいでしょうか?」
トイトニー隊長が悟り澄ましたようにそうシルヴェイン王子に返しています。
「ああ。レイカ殿、それで構わないか? 余りキツいとか合わないとか、辞めたくなったら遠慮なく言ってくれれば良い。」
「はい。有難うございます! 頑張ります!」
やる気満々返したところで、トイトニー隊長が遠い目をしたように見えました。
「ですが団長、このレイナード改めレイカ殿は、問題を起こす天才だという事をお忘れなく。」
最後にそこを言及したトイトニー隊長には、こちらが遠い目をしておく事にしました。
それでも、これは大きな前進だと信じていますからね!




