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「ただいま〜。」
ヒヨコちゃんの餌やりが終わってから戻って来た部屋で、やはり眠り始めてしまったヒヨコちゃんをベッドにそっと下ろします。
「レイカお嬢様、夕食の準備をさせて頂きますね。」
モレナさんが声を掛けてくれながら、机の上を片付けてくれます。
その間に、コルちゃんの餌やりを済ませてしまう事にして、白い聖獣さんモードのコルちゃんの頭を撫でつつ餌入れトレイを用意します。
檻の側に餌を入れたトレイを下ろすと、コルちゃんが腕にスリっと身を寄せてから、餌の前に座り込みました。
聖獣さんになってから、コルちゃんの仕草は少し優雅に見えるようになった気がします。
身体が少し大きくなったので、座り込む時ピンと伸びた背中が目立つようになったからでしょうか。
それに、食べる時がっつかずゆっくりと味わっているように見えるからでしょうか。
これなら他所で餌やりをしても、魔物に餌をやってる感はなく、嫌悪を向けられる事もなくなるかもしれません。
巣立つと居なくなるヒヨコちゃんはともかく、コルちゃんとは長い付き合いになりそうなので、一緒に暮らしていくスタイルも構築していった方が良いのかもしれません。
そんな事を考えながら振り返ったところで、モレナさんが食事をテーブルに並べ終わったようです。
「モレナさん、そういえばちょっと忘れてたんだけど、ハイドナーって、最近見なくない?」
何なら事情説明してこれからも従者を続けますって話になった日以降、見掛けてない気がします。
「あーえっと、ハイドナーさんはですね。イオラート様からレイカお嬢様の従者になる為の再教育を受け直してるんだそうです。こちらの従者部屋で寝起きしてるんですけど、早朝からイオラート様の元へ行ったきりで、帰りは深夜だそうです。」
その説明には顔が引きつってしまいます。
どこのブラック企業にお勤めなんでしょうか、ハイドナーさん。
そんなとこ早く辞めた方が良いと思いますよ?
「再教育って、おにー様にこき使われてるだけなんじゃ? 取り敢えず、明日こっちに顔出すように書き置きか何かしといてくれる? こんなとこもう辞めなさいって勧めてみるから。」
つい本音を溢しながら言ってしまうと、モレナさんが何故か胸の前で両手を握り合わせてウルウルお目めになっています。
「まあ、レイカお嬢様、なんてお優しい。」
いやいやいや、あなた方感性おかしいからね?
もうここは話を逸らしに掛かりますよ?
「ええと。ご飯の後、悪いんですけどまたお風呂付き合って下さいね。」
モレナさん達の終業時間が遅くなって申し訳ないんですが、絶対に1人でお風呂に行くなって言われているので、毎晩女中寮のお風呂まで付き合って貰う事になってます。
「はい。勿論です。」
にっこり良い笑顔で返事してくれるモレナさんですが、彼女は女中寮に部屋を貰って暮らしています。
なので、帰りは無駄に送ってもらってる感じになって申し訳ない気持ちで一杯になります。
でも帰りに送って貰うのを断ると、もっと面倒な事態を引き起こすって、最近分かって来ました。
ご家族の皆さんが過保護過ぎて、鳥肌を通り越して戦慄してしまいそうになります。
その中でも実は割と常識的感性を持ってるコルステアくんにこっそりジャッジしてもらいつつ、コルステアくんが仕方ないんじゃない?っていう事項は飲み込むことにしています。
「あ、それと。朝食の事なんだけど、兵舎の食堂に食べに行くのはダメ? お昼と夜はマナー講習でも良いけど、朝食くらいはちょっと騎士さん達と話しながらでもいいかなって。」
そうでもしないと、ケインズさん達や料理長やエスティルさんとも一生話も出来ない気がしてきました。
やっぱり女騎士への夢が捨て切れないので、第二騎士団の皆さんとの接点はなるべく持っていたいんですよね。
「・・・そうですね。明日奥様にご相談して参りますね。ところで、レイカお嬢様は、騎士様の中に誰か気になる方でも?」
最後は少し慎重に切り出した様子のモレナさんに、目を瞬かせます。
「気になるって、恋愛的な意味で?」
呆れ混じりに返してみると、モレナさんはにっこり笑顔で頷き返してくれます。
が、その目がギラつくように真剣なことに気付きました。
「え? そんな訳ないじゃない。お友達付き合いです、あくまで。お世話になった方もいるし、同じ宿舎で暮らしてるのに、あんまり不義理は良くないじゃないですか。」
当たり障りのない理由を話してみますが、本当は第二騎士団の様子を聞きたいとか、女騎士になるとして売り込みどころはあるかとか情報が欲しいんです。
部屋にほぼ缶詰にされてると、色々と不安になってくるんですよ。
ケインズさんとオンサーさんなら、そんな悩みも聞いてくれそうかなと。
自分の未来が自分の手に乗ってない状況って、地味に不安なんですよね。
「そうですか。では、奥様にご許可を貰ってきますね?」
これはモレナさん達2人、お母さんからのレイカの監視員も兼ねてるみたいですね。
いつか独立を企むなら、余り信用し過ぎちゃいけない人達かもしれません。
心に留めつつ、夕食をいただくことにしました。




