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「おい、手を抜くな。」
後ろ頭をいきなりパシリ、苦い顔の隊長さんにはバレてたみたいです。
でもですね、いきなりオールで真面目にやると、死にますよ?
午後から再起不能で良ければ頑張りますけど、皆さん午後からは見回りだって言ってましたよ?
何でも、第二騎士団は第二王子殿下直属の騎士団なので遊撃部隊の色が強く、各地で何かあれば遠征して転戦したりが主なお仕事内容だそうです。
ただし、何事もない時期は王都で王城警護や城下の治安部隊の手伝いをするそうで、実はそうしている期間の方が長いのだと隊長さんが教えてくれました。
仕方ないので、3回に1回は真面目に振るコースに変更です。
いつか華麗な剣術身に付くでしょうか。
「レイナード! ちょっとこっち来い!」
素振りが終わったところで隊長さんに呼ばれました。
他の人達はそれぞれ相手を見付けて訓練用の剣で打ち合いみたいです。
「記憶が無くても、ちょっとは身体が覚えてるかもしれないだろ? 構えろ。」
いきなり言われて持ってた剣を前で構えてみますが、身体が覚えてるって本当ですか?
ダメ男くん、剣術出来たと思えないんですが。
しかも、こちらも剣道とか習ったは愚か、掠ったこともないですよ?
時代劇のチャンバラとか殺陣とか、カッコいいって見てた事はありますけどね。
そんなこと考えてる内に、隊長さん寄ってきて上から剣を振り下ろして来ます。
えっと下から打ち上げる?
剣と剣がぶつかった途端にガンッと音がした上に、手が痺れる様な衝撃が来ました。
ええ? これ、洒落になりませんよ?
痛いです、手が痺れてますけど!
とか思ってる間にもう一回上から打ち込まれてます。
これも何とか下から受け止めます。
が、今度は力で押し込んで来るので足で踏ん張りますが、ズリズリ後ろに滑っていきます。
胸の前で合わさった剣がどんどんこちらに押されて来ます。
つうか、手加減してほしいです。
だから貴方、相手はダメレイナードですよ?
華麗に剣術なんか出来ないって分かってますよね?
殺す気ですかこの!
という訳で、涙目で渾身の力を込めて押し返してやりました。
と、奇跡かちょびっとだけ胸前から剣が押し戻せたので、その隙に後ろに下がって逃げに入ります。
合わさってた剣と剣が離れて、隊長も自分の剣を引き戻したようでした。
必死で目をやった隊長さん、何故か口元でにやっと笑ってます。
超怖いです!
今度あんな風に迫られたらマジで殺されます!
という訳で、攻撃は最大の防御です。
今度は、流儀とか振り方とか知りませんけど、攻守交代です!
剣を持ち上げて踏み込んで隊長さんの剣目掛けて振り下ろします。
剣同士がぶつかった途端にまた衝撃は来ますが、こっちから振りかぶった方が衝撃が薄いことに気付きました。
さっきみたいな力押しは絶対不利なので、ぶつかったらさっと力を抜いて、続け様に上から2回振り下ろして、上に上に押し上げられるので、次は横から振り上げる感じで当てていきます。
やっぱり、受けるより攻める方が断然楽です。
その上、迫り来る剣を待つ恐怖がないので、気持ち的に大分違います。
が、油断したところで、横に弾き上げられた剣を引き戻すよりも先に、隊長さんの剣先が喉元に来ました。
身の危険を感じて、その場で静止です。
死にましたね。
調子こいてましたが、隊長さんのお顔はにやりから変わることなく、余裕のままです。
剣術、やっぱり無理な気がしてきました。
何で、ダメ男さん騎士団なんかに放り込まれたんでしょうか。
せめて激闘の調理場とか、書類の山溜めてる事務係とか、激務で鍛え直すにしてもその辺で手を打って貰えなかったんでしょうか。
遠い目になったところで、満足顔の隊長さんが剣を喉元から下ろしてくれました。
「お前、やれば出来るじゃないか。何か、初めてお前を何とかしてやれるんじゃないかっていう気がしてきたぞ。」
いやいや、何ともしてくれなくて結構です!
という脳内の悲痛な叫びは、隊長さんに伝わらなかったようです。




