1
「そういう訳でレイナード様、これを限りに貴方の従者は辞めさせて頂きます。」
目の前でそう言葉を発したのは、ファンタジーの世界に出て来そうな従者のお仕着せを身に纏った若い男だった。
「これまで、たいへんお世話になりました。それでは失礼させて頂きます。」
にこやかに、だが額に青筋を浮かべてみせながら告げる従者の技術は中々だ。
感心しながらそんな事を思っている内に、深々と頭を下げた従者が踵を返して立ち去って行った。
途端に、少し離れた辺りからボソボソと声が聞こえて来る。
「遂に、最後の従者にも見捨てられたな。」
「まあ、ざまぁねぇな。あれでも、良く耐えてたと思うぞ?」
「うんうん、良く頑張った従者くん。次は良い勤め先見付かると良いな。」
と陰口が複数上がる辺り、あの従者に捨てられた主人も中々のダメっぷりだったのだろう。
良く知らないが、従者くんの再就職に幸あれという言葉には同意しておこう。
「おいこら! 朝っぱらから何してる!」
その玄関フロア的な空間に、唐突に怒声が響き渡った。
途端に、その辺りでポロポロと陰口を零していた兵士風な服装の若者達が散っていく。
それを感心したように見送っていると、ズンズンと足音が近付いて来る。
そして、バシッと肩に衝撃と共に重みが来る。
「お前もレイナード、あいつに出て行かれてショックなのは分かるが、シャキッとしろ。もう誰もいないんだからな。身支度くらい自分で出来るだろ? さっさと着替えて訓練場に集合だ。いいな?」
明らかにこちらを覗き込んで言われたセリフに、首をこてんと傾げてみせた。
「身支度? 訓練場?」
口から漏れた声は、少し掠れた低めの声で、当然聞き覚えの無いものだ。
「え?」
誰? どゆこと?
自分ツッコミを入れてみるが、当然答えなどなく。
見下ろした手は少しだけ節くれだって大きい。
当然、これまで認識してきた自分の手ではない。
「え?」
慌てて幅広くなった両肩に目を走らせて、厚みはあれど膨らみのなくなった胸を目にして、頭にじわじわと衝撃が広がる。
ど、どうしよ…
「おい? レイナード? お前、ホントに大丈夫か?」
チラッと目を向けた先には、陰口を叩いていた若者達より明らか立派な服装と空気感の中年男がいて、呆れ気味なそれでいて少しだけ心配そうな顔をこちらに向けている。
「え? どう? どうしよ。」
挙動不審な発言を繰り返してしまうが、男は深々と呆れたような溜息を返して来た。
「おい、まさかお前には着替えから教えなきゃならないのか? 勘弁してくれよ。」
後半は遠い目になっている男に、こちらは涙目だ。
勘弁して欲しいのは、間違いなくこちらだ。
誰でも良いから、今の状況を説明して欲しい。
…何で、ダメ男になった?