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第九話

大学への入学が決まると同時に入居するアパートを決めた。街の中心部にあって駅も近く何一つ不便の無い、むしろ不便なところを論う方が難しいというような完璧過ぎる良物件だった。

荷物を搬入する前に下見を兼ねて近隣を散策しようということになり当時つきあっていた彼女と出向いたわけだが、どうにも重すぎる諸事情に接する事となりやむを得ず入居を諦めた。


「いいね。ここ。」

彼女はすぐに気に入って部屋の扉の前ではしゃいでいた。

前衛的なアーティスティックな外観で部屋毎に扉の色が違う。壁は薄いグレーで扉は鮮やかな黄色だった。右隣は赤で左隣は青、といったとにかく写真映えするような格好よさがあり僕は来る大学生生活と彼女との甘やかな日々を思い中々に浮き足立っていた。

ドアノブに手を掛けいざ、というその時


「ふざけんじゃねぇぞ。てめぇ、誰の金でここでのうのうと暮らせてると思ってんだよ。夜勤明けでこんなくそ不味い飯食わされる為にこちとら死ぬ気で働いてるわけじゃねぇぞっ。」


赤い扉の奥で怒鳴り声が響いた。

続いて皿のようなものが叩きつけられる音がしたかと思うと続き様に幼い子供が激しく泣き出し咽ぶ声が聞こえ始めた。

ごめんなさいごめんなさいと女性の声が続く。

何かが宙を舞い次々と破壊される音に僕達は固まった。

彼女の手が僕の上着の袖をぎゅっと掴み僕は考えた。

今ここでどうすべきか考えた。

けれど答えは出ず彼女に向き直った時にちょうど左隣の部屋に帰宅したと思われる女性が訝しげにこちらを眺める視線とぶつかった。


「あ。えと近々こちらに入居する予定で。」


と会釈をすると金色の長い巻き髪ををギラギラとした色とりどりの爪で掻き上げながら


「やめといたら。」


と一言残し勢いよく扉を閉めた。


そのまま僕らは内見すること無く来た道を引き返し家路に着いた。










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