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第七話

眼鏡の男性はオーナーだと言った。


古くからの知人に店を譲り受けたのだという。


高齢で体調が優れなくなり東北の海沿いの街に移り住むことになったのだそうだ。


知り合いもいないし不安も多いが毎日海を見て過ごせるのはいい。美味しいものも沢山食べられると半ば自分自身に言い聞かせるかのようだったと懐かしげに話してくれた。


思い出話を聞きながら時折口に含むとろりとした琥珀の液体は喉を伝い体の核に落とし込まれそのまま末端を目指し流動した。


神経が朧になる感覚は嫌いでは無かった。


冷えた体を縦貫する酔いに任せ僕は狭い店内を繊細に眺めていたと思う。


件の彼女はその間、三度つまづき一度転び


二度ほど客からの注文を間違えた。


これはなかなかなのではないかと思ったが


オーナーは然程、意に介する様子も無く


「あちらは今はいいよ。沖釣りがね。」


などと北の地に思いを馳せていたので


「いいですね。一度行ってみたいです。人があったかい気がしますね。」


などと相槌を打っていた。


そうこうしているうちに三組ほどいた客が会計を始め


「あぁ。まだ止まないね。」


とオーナーが言った。


雨の勢いは変わらず気は滅入ったが顔に出ないように、はいと小さく答えた。


「間もなく閉店なんだ。」


時計の針は17時を指そうとしていた。


「ですか。走るかな。」


だいぶ早いなとは思った。


他の店のスタンダードはわからないが感覚的に。


「夜の部があってね。」


僕の心を読んだかのようにそう言うと


「傘もってって。返すのはいつでもいいから。昼でも。夜でも。」


少し楽しそうに言うとグリーンのチェック柄の傘を渡してくれた。


お代はいいからと言われていたけど


グラスの下に小さく畳んだ千円札を挟んで店を出た。


視界の端にぱたぱたと忙しそうな彼女の白い腕が映った。







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