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第五話

どれくらいそうしていただろうか。


店には古い歌謡曲が流れていた。


ジャズとかクラシックとか洒落た感じではなく、それらは日本語で柔らかく幼い頃の優しい世界を描いた。


きっちりふわふわと自分が属している時間を


確かめられるような気がした。


「どうぞ。」


顔をあげると先程の男性がかちゃりとグラスを置いた。立て続けにもうひとつ。


「どちらでも。」


目の前には持ち手のついた二つのグラス。


受け皿にはシナモンスティックが乗っている。


どちらも湯気がたっていて甘い香りが立ち上っている。


何が違うのだろうと顔を近づける。


あぁと思い「こっちで。」


先に置かれた左のグラスの持ち手を掴む。


眼鏡の男性は微笑みながら


「そうか。大丈夫ならよかった。」


ともうひとつのグラスを手に取り下げる。


「そっちの方が温まるからね。」


彼の細やかな気遣いが冷えた体にゆっくりと


熱を戻していく。


春に誕生日を迎えていた。


いくつかアルコールの種類は経験している。


「でも。何ですかね。これ。初めてです。」


焼きたてのパンケーキのようなバタートーストのような。甘く濃い匂いはアルコールの揮発と相まって直接的に頭の中心を刺激する。


「ホット・バター・ド・ラム」


彼は添えられていたシナモンを手に取り浸すとくるくると回し始めた。


「温まるから。」


その手が旋回を終え離れるまでグラスをじっと見続けた。


中央のバターは角が崩れ丸く軟らかくその姿を変えていく。


クリーム色の裾野を広げながら次第に液体と一体化し呑み込まれる。


「琥珀…。」


彼女の瞳とそれは重なり


あぁ。きっと明日も自分はこの店を訪れるのだろうとぼんやりと思う。


雨はまだ激しく道路を打ちつけている。















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