第三話
ぱたぱたと店の奥に見えなくなると
手にぎゅっと何かを握りしめて戻ってきた。
「これくらいしかなくて。」
申し訳無さそうに広げた両手に薄くひらひらと三枚程のハンカチがたなびいた。
「でも無いよりいいわ。ちょっと失礼します。」
言いながらその手は顔、胸、腕と勢い良く叩き始める。一枚は頭の上に軽く乗せられている。途中、頭の布も強く押し付けられた。あまり吸収力は期待できなかったが、かといって厚意を無下にすることもできず、されるがままにされていると男性が奥の方から出て来てとても嬉しそうな困ったような顔をした。
「とまちゃん。それだとちょっと限界が早いと思うよ。ほらこれを使って。」
そういうと小脇に抱えていたふかふかのタオルをその女性の方に差し出した。
背の高い人で白髪混じりの髪は短くきっちり整えられていて穏やかそうな印象だった。
ベージュのスタンドカラーシャツに腰から下はくすんだグリーンの前掛けをしている。
彫りが深くて少し日本人離れしている。縁無しの眼鏡の奥は優しく目尻が下がっていて何だかとても心が落ち着いた。
手のひらのハンカチを少しの間見つめて
「ふむ。」と深く頷くと彼女はタオルを求めてまたぱたぱたと戻る。
僕もゆっくりカウンター席に歩を進めた。