第十六話
店内の造りは同じだと思う。一度見ただけだから確かではないにしてもおおよそは同じだ。テーブルの配置。カウンターまでの導線。
昼間見た光景とあまり変化は無いように思う。
けれど店の雰囲気は全く違う。暗く照明は落とされていてブラックライトに照らされた様々な物がその形を浮かび上がらせている。
例えばカウンターのバーテン越しにある壁一面の棚は昼間は無かった。リザーブされたウイスキーボトルやカクテル用のリキュール、ジン、ウォッカ、ラム、焼酎、日本酒、様々なアルコールが並ぶ。グラスや洒落た陶器の皿なんかもある。
「こっちに来てそこそこになるけど。」
「こんな店あったっけな。」
ぶつぶつ珠美さんが独り言を言っている。
「せっかく炒飯作ったんですよ。」
恨めしそうに伝えてみる。
「いいよ。飲んだ後の締めで食べるから。」
こんな作り甲斐のないことがあるだろうか。
尾けるとか人としてどうかと思います、と続けると
「だってこんな面白いことある?バイトもしてない、サークルは幽霊部員、彼女の一人もいない君が。」
「先約とか。」
きゃはははと笑いながら珠美さんは尚も続ける。
「相当面白い案件だと踏んだわけ。」
にしても、とテーブルの向かいに座った隣人をしげしげと眺める。
「その格好で来ますかね。」
聞こえないようにぼそっと呟く。
そうこうしている内に珠美さんのロックが運ばれてきた。僕はさっき決められなかったので再度オーダーを聞かれる。
「ハイボールにします。」
注文をとっている間も件の彼女の視線が気になった。僕の奥隣の席をちらちらと見る。
そして戻る際に何も無いところを避けてまたつまづいていた。
やっぱり随分おっちょこちょいな人なんだなと向かいの珠美さんに向き直るといつになく険しい表情をしている。
お通しのナッツを忙しなく口に運びながら視線が彼女を追っているのがわかる。
ハイボールが運ばれてきて同じようにお通しが置かれるはずでナッツを食べる口になっていたところ差し出されたのはカラフルなキスチョコを盛ったカクテルグラスだった。
しかもそれは僕の目の前ではなく少しずれて
隣の席寄りに置かれた。
多少違和感はあったけれど彼女は少しおっちょこちょいだから、と薄ら納得しながらグラスを口に運ぶ。
カランと氷が回って滑るように喉に注がれていく炭酸は心地よかった。




