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第十一話

二度目に遭遇した時は面食らった。


出会った、ではない。遭遇、だ。


不意を突かれ衝撃を受けるという意味合いをより強く付与するとするならば僕の日常への襲来とも言える。


それはまだどこをどう巡って今この場所に至るのか、はたまたどうやって目的地へ向かうのか探り探り歩を進める入学間もない学内でのことだった。




「飛澤くんじゃない?」


廊下ですれ違いざまに声を掛けられた。


振り返り視線は声の主を辿るも全く見覚えが無い。


およそ僕の人生に全くと言っていいほど縁が無いと思われる華やかな容姿の女性が目の前で僕の名字を口にしている。


薄いグレーのパンツスーツに金色のしゃらしゃらとした金具の揺れる白のピンヒール。


漆黒の艶やかな長いストレートの黒髪は片方を耳にかけパールのピアスが覗く。


目鼻立ちがくっきりしていてはっと息を飲む美しさだ。その逃れ難い力強い視線と意思の強そうなきりりとした唇から発せられる自身の名前に動揺していると


「やっぱりそう。飛澤 響介くん。」


つかつかと目の前に歩み寄ると


「こちらでも宜しくね。わからないことがあったら何でも聞いて。」


必死に頭の中の記憶の断片を総動員させるがわからないものはわからない。知らない人は知らないのだ。




「あの。失礼ですが。」


どなたかとお間違えではないでしょうか、と


言いそうになり、いや名前を知っているといいうことはこちらが覚えていないだけなのだと絶望的な気持ちになる。


こんな美女を覚えていないわけなどないのだからこれは新手の詐欺か何かではないかとふと思いつく。


そうだ。きっとそうに違いない。


こちらもきりりとした態度で対処せねば。


そんな風に様々に思考を巡らせていると




「いやだ。ちょっと隣よ隣。隣の中河原珠美。」


思考が停止する音が聞こえた気がした。


「助教なの。ここの。」


よろしくねーと肩をばしばしと叩かれながら


確かにこれはこれで新手の詐欺と言えなくもないよな、と恐る恐る再稼働を始めた思考の中で僕はこの先の学生生活を深く憂いたのだ。







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