99 能力を解放した魔法
(略しすぎています)
自分は宿舎へと向かうべく、眠っているサリアを背負って立ち上がる。
周囲を見渡してみると、結界の外側には自分とサリアを狙って集まった魔物が大量に集まっている。魔物たちは互いに争うことはせず、目の前にいる大量の魔力を有したヒトをいち早く喰らおうと結界に攻撃を加えまくっている。さらに、その群れの背後にも魔物たちが待ち構えている様子。ここから出るには高火力な魔法が必要だ。早速だが、能力を解放するとしよう。
イメージするのは目にも止まらぬ速さで飛翔して、魔物に向かって豪雨のように降り注ぐ氷柱。小指程度の大きさの氷柱は硬いが靭性があり、鋭く尖った先端であらゆるものを容易く貫通する。そんなイメージ。
再構築によってイメージを魔法発動できる形へ変換し、情報を乗せた魔力を周囲へと解き放つ。
「名付けて、アイシクルストーム」
名前を言いながら魔法を発動する機会が無いのでとりあえず言ってみた。特に深い意味はないよ?決してその方が決まりがいいとか思ってないんだからね。
解き放った魔力は空中で無数の氷柱に変質すると、目にも止まらぬ速さで視線の方向へ飛翔する。結界を破壊して飛翔していく無数の氷柱は魔物を容易く貫通し、草木を粉砕する。あらゆるものを粉砕した無数の氷柱はやがて光の粒となって消え去った。
氷柱が飛翔した跡は障害物が一切なく、一直線に凍りついている様は、レッドカーペットのようで魔法を発動した者をもてなしているかのようだ。さらに、氷柱が消え去る時の無数の光の粒が凍りついた道を彩っている。あまりの光景に今が緊急事態であることを忘れさせる。
「ほぇー...」
とは言え、気軽に人に使った時には肉塊と血で染め上げられたレッドカーペッドができそうだ。使い所は気をつけないとな。っと考えている場合じゃなかった。宿舎へ向かわなきゃ。
そんな魔法を使いつつ宿舎へと駆け抜ける。目の前にいる無数の魔物たちを気にする必要がなくなり、障害物もない整地された地面を猛スピードで突き進む。途中、野良オーガやその他の強そうな魔物が一瞬視界に映ったが、次の瞬間には無に帰っていた。マジ火力がパネェ。オーガたちと戦った時の苦労は何だったんだ?この魔法を無限に使っていたいわ。
というものの、アイスニードルと比べると魔力の消費がかなり激しい。自分の魔力保有量からすると連続で1分程度の発動が限度だろう。自分の魔力保有量は多いらしいから、普通の人は20秒とかそこら辺くらいだろうか?すぐガス欠になること間違いなしの魔力消費だ。
だが、氷柱1つがアイスニードルを超えた威力がある上に、発動中は生まれ続けている無数の氷柱が尋常じゃないスピードで飛んでいっていることを考えると妥当な魔力消費量のような気もする。
「発動中の強大な魔力放出で魔物か何かと勘違いされそうな...」
そんな気がするけど、仕方ないよね。
魔力欠乏にならないように、時々着地した地面を分解して得たエネルギーを魔力へと変換しながら突き進むこと3分、宿舎付近へとやってきた。このまま突き進むと宿舎付近にいる人たちに誤射してしまいそうなので、単発のアイスニードルに切り替える。
能動探知で魔物の位置を特定し、それに向かってアイスニードルを連射していく。連射スピードはMSDで発動するアイスニードルの比ではなく、まるで短機関銃のようにも思えてくる。もしかするとそれ以上かもしれない。飛翔する氷柱1つの威力も高いし、MSDでアイスニードルを発動することのメリットが無いように思えてくるな...。
そうこうしていると、宿舎が見える位置へとやってきた。走りながらその様子を伺うと、宿舎を囲むように結界が張られていて結界の周囲で魔物との攻防を繰り広げている感じだ。結界内では治療を受けている人だけでなく、休憩しているギルドメンバーらしき人たちが見える。そこから察するに、魔物を間引いて適度に結界への負荷を減らしつつ籠城戦で乗り切るつもりのようだ。休憩している人がいるあたりまだまだ余力があるな。
結界内で走り回っているリナとシルフィアの姿が見える。結界の外で戦う人たちへの物資補給をしているのだろう。無事に宿舎へ帰れたようで何よりだ。結界の外にはモリスさんも見えるが...なんかこっち向いてない?しかもちゃっかり武器を構えちゃってるし、自分を魔物かなんかと勘違いしてない?予想通りすぎるな?
でも、ちょうどいいタイミングだ。モリスさんに接近して声をかけて、サリアを託すことにするとしよう。サリアのことが気になるが、開眼状態のまま宿舎へと戻るのも気が乗らない。怪我してるの?治療しなきゃ!的な感じで紅く光る目を隠している包帯を取られたらかなり都合が悪くなるからな。
結界の外で魔物を間引いてます!とか言って適当な理由をつけて森の中で時間を潰して、開眼状態が解けてから戻ることにするか。まあ、包帯を見ているモリスさんからすると疑問しかなさそうだが...疑問を持つ人が多くならないならいいだろう。
「強大な魔力を持つ奴がこっちに向かってきていた...。反応は消えたが、まだいるかもしんねぇ。来るなら来やがれってもんだ」
「どうも、カオリです」
武器を構えているモリスさんがよそ見をした瞬間に森の中からひょっこり飛び出して自己紹介してみた。
「うわぁ!ってカオリちゃんじゃねぇか!」
「うわぁ!って随分なご挨拶ですね。サリアを連れて戻ってきました」
「おお、連れて帰ってきてくれたのか。血相変えて森の中に入っていったからどうしたもんかと思ったが、無事に帰ってきたようで何よりだ」
「それが無事ともいえなくて、かなりひどい魔力欠乏状態です」
モリスさんは背負う青白いサリアの顔を見ると、表情が固いものに変わる。
「こいつはひでぇな。幸い、宿舎の備蓄に魔力欠乏を緩和させるポーションがある。救護室行ってそいつを早く飲ませてやりな」
モリスさんがそう言って行動を促した。
その時、自分の背後の森の中からウルフが飛び出してきた。ウルフは、自分とサリアを前足を使って襲うつもりのようで空中に飛び出ている。だが、気付いているぞ、ウルフくん。今の自分に死角はない。
モリスさんはそれに気づいて慌てて武器を構え直している。モリスさんは自分の背後からやってきたウルフの攻撃をなんとかしたいようだ。だが、自分やウルフとの距離が詰められていない。そのため、モリスさんが攻撃の間合いに入るよりも先に自分とサリアは攻撃を受けるだろう。この状況では自分が攻撃することが1番だな。魔物の位置は把握しているし、アイスニードルで始末するか。
MSDを介さずにアイスニードルを発動して空中に氷柱を作り、背後から攻撃を仕掛けてくるウルフの頭部に目掛けて発射する。飛翔する氷柱は何なくウルフを貫くとオーバーすぎる威力で頭部を吹き飛ばした。ちょっと...殺意高すぎたな?
その光景を見たモリスさんは唖然とする。まあ...そうなるわな。
「おいおい。攻撃した瞬間が見えねぇ...それにゴールドランクってのは魔物を見ずとも倒せるのか...?」
「いや、多分違うと思いますよ...?」
自分が特殊なだけです。すみません。
「それはそうとカオリちゃんよ、その包帯、目を怪我してんのか?カオリちゃんも早く治療しねぇと」
「そうですけど、現状これで問題ないので大丈夫です」
サリアをどう託そうかと考えながら言葉を返していると、リナとシルフィアが自分とサリアの姿を見つけたのか大急ぎでこちらへ向かってきているのに気がついた。
ちょうどいい。リナとシルフィアにサリアを託すとしよう。だが、自分へ接近してきても近づくスピードが衰えることはなく、全速力で突っ込んできているようにも感じる。全力全開だいしゅきホールド(タックル)してきそうだし、背負っているサリア諸共吹っ飛んでいきそうだ。回避できるよう注意しときゃなきゃ...。
「「カオリちゃん!!」」
「どうも、カオリちゃんです。っとストップ!ストーップ!」
2人は急ブレーキをかけて自分の前で静止する。モリスさんは「若い衆の感動の再会ってのはこんな感じなのか?」と若干引いてるような気がするが、きっと気のせいだろう。多分そう。
「無事で何よりだよ!」
「よかったです...。サリアちゃんは...!?」
「ここだよ」
リナとシルフィアに背負っているサリアを見せる。サリアの姿があることに一瞬安心するも、サリアの血色の悪さに驚く。
「サリアちゃん眠っているけど、顔色がすごく悪いね」
「...魔力欠乏でしょうか」
「シルフィアちゃんの言うとおり、魔力欠乏だと思う。救護室でサリアを見てあげて」
そう言いながらサリアを背中から降ろす体勢へと移行した。リナは承知と言わんばかりに自分の背中の上で眠るサリアを引き取ると、背中にサリアを背負った。阿吽の呼吸でサリアを託すことを分かってくれて助かる。まじ感謝だ。
サリアを託す間にリナとシルフィアは少し落ち着く余裕ができたのか、自分の姿を見て心配そうな表情をした。これ絶対包帯のこと聞いてきそう...。
「カオリちゃんも大丈夫!?」
「目をやられたんですか...!?」
ですよね。でも、正直に答えるわけにはいかないので、適当に返すとする。心配してくれているのにごめんな。
「そう。でも、まだゆっくりするわけにはいかない。回復ポーションとか貰えたら嬉しいかな」
そう返すと、シルフィアは慌てた様子で回復ポーションを数本渡してくれた。それを受け取って軍服ワンピースの内ポケットに仕舞う。折角貰っても怪我してないので意味ないんだけど...スマン。ポーションを欲している人、そして渡してくれたシルフィア。
「ありがとう。それじゃ、2人ともサリアをお願い」
「「任せて」」
「それと、2人とも無理しないように!」
「「カオリちゃんもね!」」
リナとシルフィア、それと見守るモリスさんに手を振って再び森の中へと入っていく。手を振り返してくれる3人であったが、ほんのわずかに首を傾げていた。自分が森の中へ消えていく理由を話さないまま、嵐のように森の中へ帰っていったことに、単純な疑問が湧いているのだろう。だが、それもほんの少しで何かが負に落ちたようにモリスさんが呟いた。
「ゴールドランクってのはこうもストイックでないとやっていけねぇのか?自分の怪我よりも人助けだなんてよ」
「でも、カオリちゃんだもんね」
「そうですよね...」
モリスさんに続いてリナとシルフィアの呟きが聞こえたが、みんなよ。全くそんなことはないです。ただ、都合が悪いので森の中に消えているだけです。ものすごーく申し訳ない!




