97 道中の戦闘とサリアの状態
(略しすぎています)
サリアと共に魔物が多い森の中を進み、宿舎へと向かっている。感じていた通り、森の中には魔物が大量発生している上に、その魔物の大群は街の方へと向かう流れができていた。サリアと自分はその流れを横切るように進んでいるため、魔物との戦闘が多くて思うように進めていない状況にいる。
サリアを前衛にして目の前の敵に集中させて、自分は横や背後、斜め前方からやってくる大量の魔物に対処すると言う結構無茶な戦術をとり、進行スピードが遅くならないようにしている。その戦術だと、自分の手が空いた時にサリアの手伝いができて進行スピードを上げることができる。しかし、MSDの魔法発動の遅さがネックとなって手が回らず、自分の役割をこなすことに精一杯でめちゃ困ってる。なう。
「サリア、大丈夫そう?」
「まだ、大丈夫!」
そう言うサリアは物理攻撃可能な短剣型MSDに風魔法を付与して斬撃とともに単一指向の風魔法を放ち、自分たちの存在に気づいた魔物を一掃する。魔法の威力が高くて素晴らしいが、斬撃を終えた剣先が止まるのにはいつもよりも時間がかかり、中々ピタッと止まらない。
その攻撃しているサリアの後ろ姿を見た感じからは余力がないような雰囲気が受け取れる。その上、攻撃はいつもの的確なものとは違ってかなりおおざっぱなものになっている。サリアは一度宿舎へ帰る時にパーティーの主戦力を担っていたために、体力や魔力が消耗しているはずだ。さっきはそれで怪我してたし。できれば休憩といきたいところだが、あまりの魔物の多さにどう考えても無理な話だ。魔物さん?旅路を急ぐのは分かりますが、ちょっと休んではいかがでしょう?街は逃げませんよ?
「カオリちゃんも、何かあれば、言ってね」
「もちろん!サリアもね!」
「...そうする」
魔物に対処するためにリング型MSDに魔力を流し込んでアイスニードルを発動しているが、その発動までの間隔が少しずつ伸びているような?その上に、アイスニードルがいつもよりも脆くなっている。さらには魔法発動時に出る魔素が多くなってきた。正直、めちゃめちゃヤバそうな挙動にしか思えない。
リング型MSDが壊れてしまうとメイン火力のアイスニードルを失うことになるので、自分の役割をこなすことが難しくなる。それ即ち、全滅の危機だ。
自分1人なら制限なく自身の能力を使えるから、MSDを介さずに魔法を発動できたり、エネルギー変換を使った物理攻撃で魔物を一掃したりすることができる。でも、その能力はこの世界にとって異質なものであり人前での使用は避けなければいけない。人の口に戸を立てられない以上、例外はない。それが親しい仲であるサリアの前であってもだ。
もし異能な力を持つことが広がれば、最悪、自分は世界と対立する羽目になり、サリアたちと一緒にはいられなくなるだろう。そうなった時にはきっと後悔しているだろうな。
そう思いながら横から接近してきたウルフにアイスニードルをお見舞いする。そして、横から突進してくるワイルドボアに対して魔力刀を発動したナイフと蹴りで対処する。ワイルドボアは攻撃によって怯んだ瞬間に隙が生まれ、ゴブリンなどの魔物による攻撃によって魔石と化した。
魔物さんよ。止めを刺さしてくれるのは有難いけど、そうするくらいなら魔物同士でやり合ってくださいな。
その時、サリアから声がかかった。
「ごめん、カバー」
視線をサリアに向けると短剣を振り上げており、すぐに攻撃することができていない様子。サリアの前方にはめちゃくちゃ素早い動きをしそうな小さなゴブリンがサリアによる攻撃を避けたようだ。何となく状況はわかった。
「任せて!」
自分たちの周りにいる魔物の数は少し落ち着いている。数が落ち着いている?その状況に少し違和感があるが、受動感知による反応に違和感のある反応はない。とりあえず、サリアと立ち位置を一瞬くらい交代するくらいなら大丈夫か。
「スイッチ!」
「はい...!」
自分の掛け声に反応したサリアの応答を聞きながらサリアの左横からサリアを追い抜いて、こちらへ向かって来るゴブリンと対峙する。
ゴブリンは地面をぬるりと素早く動いて自分に接近すると、小さな棍棒を振り上げて自分を攻撃しようと振りかざす。それに対して、自分は右手に持つ純白のナイフをゴブリン目掛けて突き出す。突き出したナイフはゴブリンの腹部に突き刺さり、ゴブリンは耳障りな悲鳴とともに持っていた小さな棍棒を手放した。そして、ゴブリンは瞬時に魔石となって地面に落ちる。
これでサリアが撃ち漏らしたゴブリンは何とかなったが...。変な悲鳴も聞いたし、色々何か変だ。
そう考えた時、周囲の離れた場所で魔力反応が3つ大きくなったのを感じる。それは自分たちを囲むような位置にある。反応から察するに何らかの魔法を使うつもりだろうが、攻撃対象が自分なのかサリアなのか読めないな。
距離から察して単一放射系魔法で一直線に伸びるタイプの魔法を使うしか攻撃方法はない。多分これなら伏せることで回避できるが、立ち止まることとなり回避後には大量の魔物に囲まれることになる。うーん?それ以外だと、どこに回避する?回避場所無いよね?
となると、攻撃前に倒すか?でも、魔力反応がある場所にアイスニードルを放つにも複数の魔法を発動することが必要だ。このリング型MSDにはそんな機能はない。
結界で何とかするか?結界を展開する緊急用のMSDをリナに預けていたが、サリアと森の中で合流したため手元にある。だが、結界を展開する前に魔法が発動されることは間違いない。この状況...すべて満足の行く策は無いな。だが、緊急用MSDを使う手が1番時間が作れるので次につながるはずだ。魔物には囲まれることになるが、何とかなるだろう。とりあえず、攻撃を受ける可能性を踏まえて緊急用MSDを発動するとしよう。何とかな~れ!
左手で緊急用MSDのボタンを押して結界を展開し始めた時、魔法が発射された。まじどうするか決まってない中で攻撃されるとか困るんですけど!あー、もう!とりあえず、結界を信じて伏せるか!
自分の背後にいるサリアを自分の体を反転させて受け止めると、サリアを抱きしめて一緒に倒れる。地面からの衝撃を受けるのは自分なので、サリアは自分がクッションとなり怪我をすることはないだろう。ただ、サリアは状況を掴めていない様子なので、肺の空気が一気に出て変な声が出るかもしれないけど、こればかりは仕方がないな。サリアからすれば乙女の危機かもしれないが...許してね?
体が地面へ倒れていく間に5cm程度の鋭い石礫が体の上空を猛スピードで通過する。土魔法系の類か。これ、魔物狩り演習前にサリアと行った森の中で出会った奴と同じ魔法だ。同一の個体ではないが、同系統の魔物と言えるだろう。
その魔物の魔法能力だけで言えばかなりある。そのため他の魔物を屠って魔石を食べることができるが、わざわざ自分たちを狙ってきた。それは、簡単に手に入る食べ物には手を伸ばさず、食べるのが困難なものに手を伸ばしているのと変わらない。普通に考えて自然の摂理に従っていない。
となると、魔物を操るマニューヴェたちの集団による差金と見るべきだろうか。今は確定と言えないが、そうだとするとマジで用意周到すぎる。かなりの策士だ。
自分の背中が地面と接触した衝撃を受けた時、結界の展開が完了した。幸い、魔物は結界内に侵入してきておらず、安全区域が確保された。ふう、これで少し考える時間ができるな。それに、土魔法で石礫を飛ばしてきた魔物からの追撃はない。とりあえず何とかなったようだ。
サリアの背中に回している手をポンポンと叩いた後に、抱き抱えていた腕を解いた。サリアはゆっくりと上体を起こして自分の体の上から退いた。自分もそれに続いて上体を起こす。
とりあえず、変な所を打っていないか確認するために、サリアの方を向くか。
そうして座り直してサリアの方を向いた。サリアは女の子座りをしていたが、全身の血の気が引いて白くなっている上に、体には力が全く入っていない様子だった。