96 女生徒が発動した魔法とサリアとの合流
(略しすぎています)
サリアがやって来るまでの間、女性徒が発動した魔法について考えていた。状況から星を地上に落とす魔法であると考えられ、それをメテオと呼んでいた。そんな魔法を発動したわけだが、次の点からさまざまな疑問点が生まれている。
1、MSDを用いた発動にしては時間がかかっており、何かを延々と呟きながら魔法発動した点。
2、魔法発動までに放出された魔力には属性がなかった点
この点からおそらく詠唱による無属性魔法であると推察している。
魔法の発動にはMSDを用いる他に、呪文詠唱、魔法陣などがある。しかし、呪文詠唱でそれを行なっている人を誰も見たことがない。それは火を起こすためのマッチやライターがあるのに、わざわざ木の摩擦で火を起こそうというレベルの話だからだ。しかも、魔法の効果を発現するためには繊細な魔力操作が伴うので、普通ならば効果を発現させることすら難しい。そのため、学園のカリキュラムでは魔法の歴史関係にカテゴライズされており、呪文詠唱を用いた魔法発動の演習は一切ない。
だが、なぜ女生徒はそれを習得していたのだろうか。仮に習得していなかったとした場合、魔力操作も十分でない女生徒が魔法を発動できたのは、読み上げるだけでOK的な呪文だった可能性が高い。ではそんな完成度の高い呪文はどこで手に入れたのだろうか?闇魔法を扱う集団と接点があったし、それ経由という線は考えられるところだが。
少なくとも、メテオと呼んでいた魔法は学園の図書館にある図書にはなかった。もし、あるとすれば図書館の隠し部屋だろうか。あそこには画期的というか、めっちゃ魔法の叡智が詰まった本だらけだったからな。規格外の耐久性がある我が家の結界もそこからきているわけだし、メテオが載っている本があってもおかしくない。とはいえ、自分が隠し部屋に入った時には誰も侵入した形跡がなかったから、そこから得た知識ではないか。でも、闇魔法や魔力隠蔽魔法など一連の事件を起こした闇魔法を扱う集団が使用していた魔法は、同様の隠し部屋から奪取したものかも?知らんけど。
何にせよ、雨が激しくなってきて上を向いて考えるのが辛くなってきたな。シンプルに雨粒が眼球にダイレクトアタックして痛いぞ。
そう感じて視線を森の中へ移すと、サリアがこちらにやって来ているのが目に映った。サリアは辺りを見回しながらこちらへ向かっておきており、何かを探している様子だ。
サリアの装備に目立った破損や怪我によって血が染みたところもない。察するに、宿舎からここへ来るまでの道中で魔物との戦闘はなかったようだ。マニューヴェがサリアを人質にし、魔物を使ってここまで来るように誘導していた結果なのだが、怪我がなくて結果オーライといった感じだな。
だが、サリアの表情には焦りと不安が見られる。多分だけど、宿舎で自分を待っていた時にメテオによる爆音が聞こえ、自分が巻き添えになっていないか不安になってきた感じなのかもな。メテオは宿舎から見えていただろうし、爆音ともなれば心配するのも無理はない。とりあえず、自分の無事を知らせるために声をかけるか。
「サリア、こっちこっち」
サリアにむかってぶんぶんと手を振りながら声を出す。そうしただけあって、その声に瞬時に反応したサリアはすぐに自分を見つけてくれた。サリアは最初、焦りと不安が混じった表情だったが、安堵した表情となり、最後には泣きながらこちらへ向かってきた。
「カオリちゃああああああああん!」
両手を前に出して飛び込んできたサリアを受け止める。するとサリアはよほど不安だったのか、もう逃がさないぞと言わんばかりに両腕で自分を抱きしめてきた。しかも超強力に。
「グェえええええ、サリア、ギブギブ!死ぬうう」
「よかった、本当に無事で...。本当に...よかった」
「色々あったけど元気だよぉおお“っ。だからね“っ?ちょっと腕を緩めてくれるt」
「だめ...」
「oh...」
「もうちょっとだけ、このままでいたいの」
「ぐぉぉぉ...」
本気で心配している上に泣きながらそんなこと言われると断れないじゃん?そんなの白目剥きながら耐えるしかないじゃん。がんばるんば自分。
そうして、息苦しさを感じつつもサリアに抱きしめられて安堵していると、サリアも落ち着いてきた。抱きしめる腕の力を弱められ、密着しているサリアの体から感じる体の強張りも解けてきている。いい感じだ。
サリアは落ち着いたことにより余裕が出て来たのか、自分の頭に巻かれている布の端について聞いてきた。
「カオリちゃんはどこも怪我してない?頭に布巻いているけど」
「ちょっと瞼を切ったくらいだし、このくらい大丈夫」
本当は開眼を隠すために布を巻いているけど、怪我をしているということにしておこう。そのほうが都合がよさそうだ。
「でも、前みえてる?とても戦えそうに見えないよ...」
「感覚で何とかなってるから問題ないかな。さっきもこの状態で魔物と戦ったし、大丈夫。それよりも、サリアが無事で安心したよ」
「私、本当に心配したんだからね」
「ごめんね」
「うん...」
良いムードが漂ってきた中だが、森の奥の方で闇の魔力が大量に放出されているのを感じた。開眼した目には、その魔力は空中を伝播して広範囲に広がっているように見えた。感じる魔力はマニューヴェのものではなくもっと無機質なもので、多分魔力エーテル駆動のMSDを使った魔力放出によるものだ。おそらく、マニューヴェの属する闇魔法を扱う集団が森の中の魔物に新たな指示を出したのだろうな。
ひと呼吸おいて能動探知を行うと、森の中の魔物が一斉に街の方へ向かって動き出している反応があった。新たな指示を受けたのは間違いないが、一つ分かったことがある。それは街からの救援が絶望的であるということだ。
魔物が街の方に流れているため、救援に向かう人はそれに逆らうように動く必要がある。移動手段として魔動車があるが、大量の魔物の中を突っ切って行けるほど頑丈なものは用意していないはずだ。そのため救援が宿舎まで到達することは困難を極める。
宿舎には大勢のインストラクターや学園の先生方がいるとはいえ、魔物狩り演習で疲れている上に終わりのない魔物の襲来を受けることになる。何らかの緊急事態の措置が取られているだろうが、それもいつまで続けることができるのやら...。
だが、森のど真ん中でサリアとやり過ごすのはさらなる困難が待ち受けるはずだ。さっさと宿舎に戻り、状況を確認してやり過ごす対策を立てるのが一番いいだろう。もう立ってるかもしれないけどね。
サリアは自分の状況がやばいと考えている思考を感じ取ったのか、自分を両腕から解放して、涙を拭いてから質問した。
「カオリちゃん、どうかした?」
「もうちょっとサリアと落ち着いていたいけど、今すぐ宿舎に戻ろう」
「強い魔物が出たの?」
「いや、周囲に強い魔物はいない。でも、魔物の動きが変わったからこの場所も危険になるかも」
「わかった。私がここまで来た道は魔物がいなかったから、その道で戻るのはどう?」
せっかくのサリアからの提案だが、それはマニューヴェがここへやって来させるために仕向けた罠だ。罠は役割を達成した以上、魔物たちはサリアに攻撃しないという命令を破棄して新たな命令に従って移動しまくっていることだろう。よって、その道で戻っても魔物には遭遇することになる。だけど、道順を覚えているなら早く宿舎に戻れそうだ。
「それで行こう。でも、魔物と遭遇することを考えておいて」
「もちろん」
いつも通りとはいかないけれど、調子を取り戻したサリアと共に魔物が蠢く森の中へと入っていった。