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95 工作員との会話と疑問

(略しすぎています)

 森の中で隠れて隕石が落ちた現場を見ていると、離れた場所にいる新人衛兵槍装備君が声を発した。


「彼女の最後、とてもきれいでしたね」


 問いかけるような言葉だ。ここに居るのに気付かれてる?いや、新人衛兵君とは視線は合ってないしこちらの気配も感じとっていないはずだ。だが、なぜ分かる?


「そう思いませんか?カオリさん」


 新人衛兵くんはそう言いながら禍々しい魔力を発したかと思うと森中の魔物がゆっくりと新人衛兵君の方に向かって動きだした。魔物たちは自分をここへ再び連れてくるような動きをしている。それじゃ逃げるのも厄介だな。

 それに加えて気づいたことがある。新人衛兵君が放った魔力だ。これは魔物狩り演習2日目の夜に襲われた時に感じたものだ。嫌な予感がしていたが、厄介そうな相手がこんな近くにいたとは。

 加えて魔物を操っていたのは新人衛兵君だったな。魔物を操れるとなれば自分がどこに居るか魔物を使って探すことも可能だ。わざわざ声をかけてきたとなれば、どこへ行こうとも追いかけてくるだろう。素直に返事をして姿を表すとしよう。そのほうが話が早く済みそうだ。


「おや?この反応は...」


 新人衛兵君が小さく呟いている最中に、自分は茂みの中から出ると新人衛兵君の前へと進み出て、自分の存在を告げるように声を出す。


「そうかもしれませんね。それで感動のエンディングの後に何のご用ですか?」

「わざわざ出てきていただいてすみません。探す手間が省けました」


 新人衛兵君は驚きもせず自分の方を向いてにこやかな表情で話し始める。だが、新人衛兵君の表情からはこれといった感情を読み取ることができない。まるでお面を被っているかのように表情が動かないのだ。ゲセスターによる殺人やさっき目の前で人が死んだと言うのに心が動いていない辺り、それに慣れていると言うところだろうか。これまた面倒な相手だ。


「それでは改めて。またお会いしましたねカオリさん。私は...そうですねマニューヴェとでも言っておきましょうか」


 新人衛兵槍装備君はマニューヴェというのか。それがどんな意味を持つ単語なのかよくわからないが、口ぶりからして偽名っぽい感じだ。聞いても答えなさそうだし、とりあえずそう呼ぶとしよう。


「マニューヴェさんと会話するのは2回目になりますね。カオリです。随分と喋り方が変わりましたが、何かありましたか?」

「いえいえこれと言ったことはありませんよ。これが私の普通です。それと、会話するのは3回目ですよ?」


 さて?いつ出会ったかな?初めて出会ったのは、自分の家周辺が魔物の大群に襲われた次の日の朝だ。ザックさんと共にやってきた気がする。あの時は難癖をつけてきたものだが...。今回までに会話はしていないし、2回なのでは?もしかして、以前に会ってる?


「おやおや、お気づきになりませんか?戦闘能力評価演習の時にあったじゃありませんか?」


 その時に会っただと?予想外のヒントだな。

 マニューヴェはゲセスターに関わっていた人物だから、関連したイベントで出会っているはずだ。中でも、戦闘能力評価演習中に記憶に残っている不自然な動きをしていた人物がいたな...。MSDを検査すると言って部屋に入ってきた人は見たことの無い人だったが、理由を聞いて流した記憶がある。とりあえずその人の事を言ってみるとしよう。


「MSDの検査に来た方、ですか?」

「そうです。それが私です。1つのヒントを与えるだけでピンとくるとは。さすが計画の真実に近づいているだけありますね」


 まじか。人相とか全然違っていたから別人かと思っていたぞ。別人かどうかを体外に漏れ出す魔力の違いで気づきそうなものだが、別人であることを気づかせぬほどに体外へ放出する魔力を制御していたのであれば気付くのは困難だろう。昨日、一戦交えたというか回避した時に感じた魔力制御の高さを有していたことを考えると気がつかなかったことに納得できる。変装レベル、戦闘や魔力操作レベルはどれも高い。多分殺めることにも慣れた潜入工作員。この人、字面からしてもやばいな。


「そんなあなたに対する質問がいくつか浮かびました。その返答次第ではあなたにお願いがありましてね。まずは質問から済ませるとしましょう」


 マニューヴェはそう区切ると、指を3本立てた。


「1つ目の質問です。あなたはどうしてこの街に居るのですか?」


 すごい漠然とした質問だけに何を意図した質問か分かりかねるな。だが、マニューヴェは鋭い視線を向けているので真剣な質問のようだ。


「国立第一魔法学園で魔法を学ぶためです。知らないことが多いので」

「なるほど勤勉なのですね。では、2つ目の質問です。あなたはこの世界のことをどう感じていますか?」


 あまりにも突飛な質問だ。前の質問と関連がないように思える。マニューヴェは世界についての自分の認識を知って何を知りたいんだ?とりあえず、自分の認識を話すとしよう。


「どう、と聞かれても困りますね。ですが、歪んでいる。と思います」


 自分も初めは綺麗な世界だと感じたが、この世界で生活するにつれて色んな事を見て感じた。その中で良いものもあったが、勿論そうでない側面もあった。権力者が起こした事件の揉み消しの横行、MSD技術をめぐる国家間の動き、そして世界規模での闇魔法の隠蔽。あげるとキリがないが、これらの動きは表面化してこなかったが、歪みが増した結果表に出てきているように感じるのだ。ゲセスターの件がいい例だろう。


「歪んでいる、ですか。ふふふ、なかなかいい表現ですね」


 マニューヴェは自分の回答がお気に召したようだ。お面を被ったような表情の裏側に愉快そうなものが見え隠れしてるし、上機嫌になったみたいだな。


「最後の質問です。あなたは異世界から転移されましたか?」


 おっと?一般人にするには突飛すぎる質問だし、これが本命の質問か?だが、これを聞く意図が読めない。異世界から転移したから何だと言うのだ。


「それは、どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味ですよ。そうですね...言い方を変えましょうか。オーガを倒した時に感じた桁違いの魔力制御、そして幾千にも及ぶ魔物を駆り続けられる魔力保有量。異世界からの転移者でなければ到底考えられません」

「異世界から“転移“した者は強大な力を持つのですか。ですが、自分は違いますね」


 異世界からやってきたことは事実だが、肉体は銀髪ロリエルフになっているため転生になるはずだ。なので嘘は言っていない嘘は。1番親しいとも言えるサリアにも隠しているような自身の情報を与えるのはどうかと思うし、こんな回答でいいだろう。


「そうですか。残念です。...確かに考えてみれば、2ヶ月程度の間で強大な力を自分の物とし、意のままに操るのは無理がありますか。我ながら愚問でした」


 しかし、なぜマニューヴェは転移者を気にするのだろうか?転移者は強いようだし、単なる戦力目的だろうか?でもそれなら転移者なんて括りで聞かないだろう。あなたの戦績は?などと聞けばいいはずだ。うーん、謎だ。


「私からの質問は以上です。そして、私からカオリさんへの用は無くなりました。“正直“に答えていただいたサービスとして、3つの質問についてお答えしましょう。勿論答えられる範囲で、ですが。どうされますか?」


 マジか。嘘を喋ってたら完全な敵対関係になっていそうだ。くわばらくわばら。

 今回の計画の目的が1番気になるが、そんなクリティカルな質問には答えてくれないだろう。とりあえず、せっかくの機会なのでマニューヴェが属する集団について聞いてみることにしよう。自分が思っている疑問を全て明らかにすることはできないが、疑問の方向性を聞き出す感じなら問題なく答えてくれるだろう。知らんけど。


「では、お言葉に甘えることにします。まず、1つ目です。マニューヴェさんたちの集団はアステラ王国以外の国と組んでいますね?」

「そうですね。組んでいますよ。この国が弱ってくれると助かる国はたくさんありますからね」

「2つ目です。マニューヴェさんたちの計画では、魔物異常発生を人為的に生じさせた事は手段ですね?」

「答えはyesです」

「3つ目です。マニューヴェさんたちの集団は計画を実行することで何を成そうとしていますか?これは具体的でなくとも構いません」

「これはいい質問ですね。私が答えられる範囲ならば...世界の変革でしょうか」


 3つ目の質問はだいぶ際どかったが、無事答えてくれて感謝だな。おかげで次の3つの事がわかった。

1、マニューヴェが所属する闇魔法を扱う集団は、今自分がいるアステラ王国以外の国と協力関係にあり、アステラ王国の弱体化という利害関係が一致している。

2、マニューヴェが所属する闇魔法を扱う集団は世界の変革をもたらすため活動をしている。

3、一連の魔物異常発生は闇魔法を扱う集団の目的を達成するための手段である。


 その集団がなぜ一連の魔物異常発生を引き起こしたのか明らかにならなかったが、集団として明確な目的があることから単なる破壊主義者に目覚めた集団ではないことが分かっただけでもありがたい。目的がふんわりわかったことから、予測もしやすくなるだろう。

 だが、それでも世界の変革と一連の魔物異常発生の間には埋めることのできない論理の溝がありすぎる。何のためにそれを引き起こすのかが一層気になってくるところだ。クリティカルな質問が許されるのであれば全力で聞いたのにな。めっちゃ気になる...。


 そんな集団に属するマニューヴェが自分に向かって質問してきた。中でも“転移者“というキーワードが気になってくるところだ。それを軸に質問を読み解いていくことにする。


1、この街にいる目的。無目的、連れてこられたからなどの場合なら転移者または転生者の可能性あり。

2、世界の認識。転移者または転生者の場合は世界に触れた時間が短いため、表面しか見えない。つまりは、転生者や転移者は肯定的な言葉が出てくることになる。

3、転移者かどうか。直接的すぎる質問だが、わざわざこんな質問をしたあたり集団にとって転移者は重要な人物であるようだ。転生者は必要でないのかな?


 1、2、3すべてにおいて上のような回答だと異世界からやってきた転移者であるとわかる。そうでない場合は、転生者を除いてこの世界の人間であることがわかるのだが、1と2の質問で大まかな思想や所属を推察して敵対する人物かそうでないかがわかるというわけか?多分そんなところだろう?わけわかめ。


 だが、なぜマニューヴェたちの闇魔法を扱う集団が転移者を気にかけるのかが見えてこない。質問フェーズが終わったのでここからは迷宮入りだ。なので、闇魔法の扱いに長けている転移者を探しているとでも考えておこう。多分そう。


「さて、お互いに用は済んだことですし、ここで私は失礼します。まだやる事が残っていますので」

「待て、と言いたいところですが、そうもいかないのでしょう?」


 マニューヴェを放置しておくとまた面倒なことになりそうなので懲らしめておきたいところなのだが、問題はマニューヴェの計画性の高さだ。この場から逃走するための何かしらの策があるのだろう。とりあえず、警戒のために太ももに付けているナイフホルダーに手を伸ばしておくか。


「察しがいいですね。カオリさんのご友人がこちらにきております。勿論私の案内で」


 oh...。とりあえず、能動探知をして...みるとサリアが自分の方に向かってきている。自分がここへ来るよう魔物に案内されたように、サリアも同じく案内されている感じだ。その状況下でマニューヴェが指示すれば、サリアの周囲から無数の魔物を向かわせることができる。ハッタリかもしれないが、襲われる可能性がある以上サリアの無事が優先だ。ここはマニューヴェを見逃すとしよう。


「いつでもヤレるぞ、というわけですか。わかりました。行ってください」

「ふふふ、物分かりがいい人は嫌いじゃありませんよ。それでは」


そう言うと、マニューヴェは槍を持つと自分に背中を向けて森の奥深くへと消えていった。残された自分は森の中の開けた場所で1人となった。自分は再び雨が降ってきた空を眺めながら、すぐそこまで来ているサリアを待つことにした。

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