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94 オーガとの決着とゲセスターの最後

(略しすぎています)

 オーガはすぐさま腰を低くして攻撃体勢へと移る。体勢からして自分の方へと突っ込んでくるのだろう。オーガの全身には魔力が駆け巡っており自己強化魔法が掛かったままで、特に魔力が集中しているところはない。おそらく魔法を伴う攻撃ではなく純粋な打撃を行うつもりなのだろう。ゲセスターの命令を守り、オーガ本来の力は出さないと言うことだ。そいつはありがたいな。

 だが、オーガとの戦闘を長引かせることはいい結果をもたらさない。先ほど、オーガの戦闘に関連する制限が解かれたように、ゲセスターの思った結果とならない場合は徐々に自分が死なない程度という制限が解かれることになる。やがて、戦闘に制限がないオーガと戦う事になる。そうなれば今よりも面倒というわけだ。ならば、一瞬で決着をつけるのがいい。


 だが、どう結着をつける?奴らにバレないように至近距離でMSDでの限界火力のアイスニードルを叩き込むか?それもありだが、オーガの反応スピードよりもMSDのアイスニードル発動時間が遅くて避けられる可能性が高い。となると、反応できないほど魔法発動または攻撃が素早い必要があるな。

 自身の能力を隠している以上、MSDを介さない魔法発動や自身の能力を使った強力な物理攻撃を叩き込むことはできない。となると、残る条件からMSDを介した攻撃が基軸となる。表立って使用可能な唯一の魔法攻撃であるアイスニードルが封印されているとなれば、残るは物理攻撃可能なナイフ型MSDによる攻撃だ。現在発動している魔力刀しか使うことができない代物だが、どう使うよ?


 魔力刀は純粋な魔力を刀身表面に展開して強固な膜を作ることで切れ味を向上させる魔法だ。通常、接触面の魔力密度が高いほどその効果が上がる。つまり魔力を流し込みまくればめっちゃ切れる刀身が出来上がるというわけだ。ぶっちゃけ刀身がなくとも魔力のみでめっちゃキレる刃を作ることが可能だ。

 これを応用して、ナイフ型MSDの間合いを伸ばすことが可能だ。現在MSDに書き込まれている魔力刀はナイフ表面に刃をつけるナイフ型と、魔力で生成した刃を日本刀レベルまで伸ばした日本刀型がある。

 日本刀型となればかなりの魔力を消費するが、開眼している以上気にすることもない。間合い的にもリーチが取れる分戦いやすくもなるだろう。とりあえず、魔力をたっぷり使った、日本刀型の魔力刀を使うとするか。これなら自己強化魔法がかかったオーガだろうがなんだろうが一刀両断できるなガハハ。


「ん?」


 ちょい待てよ?魔力刀は純粋な魔力でできている。基本的に異なる魔力は反発する。目の前にいるオーガは大量の魔力を保持しており、今もなお身体中を駆け巡っている。その中に、高密度の異なる魔力を入れたらどうなるよ?やばいんじゃね?爆散しそう。よしこれだ!これで行こう!なんか面白そうだし!爆散した時に生じる土煙でワンチャン逃げ隠れることもできそうだ!激うま作戦だ!


「やるか」


 今にも飛び込んできそうなオーガを視認しながら、片手で持つナイフ型MSDを両手で持ち直し、刃先がオーガの反対側となるように構え直す。さらに、右足を1歩引いて半身で構えてオーガがやって来るのを待つ。

 そして、ナイフ型MSDに大量の魔力を送り込み魔力刀を形成していく。核によって魔力刀の情報が付加された魔力はナイフの刀身から染み出し、継続して流れ込まれていく大量の魔力により強固な刀身が形成されていく。

 オーガは急に体勢が変化している自分に反応して警戒を強めるが、こちらへ突っ込んでくる事を変えることはないようだ。好都合だ。

 そんな時、雷が落ちて爆音が鳴った。それがタイミンングとなったようでオーガは地面を割るように踏みしめると、まるで砲弾かのように自分の方へと突っ込んできた。先ほど戦ったオーガとは桁違いなほどに速いスピードで接近してきているが、その姿勢は制御されており飛び込んできた時の攻撃を見据えて蹴りの準備をしてきている。見た感じはかなり余裕がありそうな攻撃だ。とはいえ、モロに当たると一瞬で死ぬだろうから実際は寸止めして弱体化させた攻撃を当てるつもりなのだろう。ゲセスターの命令を守っているのならばの話だが。

 

 オーガが自身の3歩ほどまで接近した時、体を反時計回りに捻り右脚を使って地面から上へと蹴り上げる攻撃を繰り出してきた。オーガの体は空中に浮いており攻撃を寸止めすることは不可能だ。攻撃に警戒していたので驚きはないが、ゲセスターの殺さない程度の攻撃という命令に反しているので疑問だ。だが、自分のやることは変わらない。その疑問はとりあえず思考の隅にでも置いておこう。今は目の前に集中だ。


 オーガの蹴りが視界の左下からやってくるが気にせず、オーガが自分まであと1歩となるまで待つ。オーガの蹴りの軌道も読み通りだ。これなら問題ないな。

 オーガが十分に接近した時、自分は身体強化魔法で筋力をブーストして魔力刀を右下から左上へと振り上げる。オーガはナイフ型MSDの間合いの外だと思ったのか気にする様子がなかったが、左上へと振り上げられるに従ってオーガの体表には魔力が集まっていく。自己強化魔法で防御でも固めるつもりだろうが、魔力が集まっているなら都合がいい。過去最高量の魔力を詰め込んだ魔力刀だ。オーガの防御を突破できる切れ味はあるだろう。


 振り上げた魔力刀はオーガの左脇腹の皮膚を捉えると、期待通りにオーガの腹部を豆腐を切るかのように切り裂いていく。そのままでは魔力刀がオーガの体に残らないのでMSDに送る魔力にナイフと魔力刀の境界が折れるイメージを付加する。その途端、日本刀型になっていた魔力刀の刃が折れて根本のナイフ型MSDと魔力のみの刃に分離した。結果、魔力のみで構成された刃はオーガの腹部に残る形となった。そして、左側からやって来る蹴りを受け止めるために、左上へと振り上げたナイフ型MSDの慣性を使って蹴りに構える。

 オーガの蹴りは程なくしてナイフ型MSDと衝突して強力な衝撃が生まれた。その衝撃によって周囲の土が巻き上げられていく。それほどまでに強力な蹴りは自分の体を吹き飛ばすのに十分な威力で、自分の体は森の中の開けた場所から森の中へと吹き飛ばされる。だが、これは自分の居場所を隠すには好都合だ。幸い周囲に魔物はいないので捕捉されることもない。ラッキーだ。


 オーガがどうなるか吹き飛ばされながら観察していると、轟音と閃光と共にオーガの体が弾け飛んだ。その衝撃と共に周囲にオーガの魔力が拡散していく。どうやら成功したようだ。魔力刀になっていた自分の魔力は魔素になることはなくそのまま消滅してくれた。とてもgreatな結末じゃない?


 オーガが爆散した衝撃を体で感じながら、ゲセスターたちがいる場所が見える所に着地した。うーん。80点くらい?もっとエレガントに着地できたらよかったかな?でも、体を隠せそうな草木が生い茂っているところに着地できたのは大きい。オーガからのドロップ品がどうなってるか気になるし、ここから観察させてもらおう。めっちゃ大きい魔石が落ちてそうだ。これを買取に出して得たお金でサリアたちと一緒にお疲れ様会でも開きたい気分だ。ボスラッシュに粘着ストーカーでやってられないよホント。


 森の中の開けた場所に静寂が戻り土煙によって隠されていたものが顕になっていく。自分がオーガとやり合った場所は地面が抉れており、爆発したような後となっていた。だが、それだけでドロップした魔石はどこにも見当たらない。開眼しているから魔石が落ちているのも見えるはずなんだけどな?もしかして爆散と共に魔力が散っていったからそのせいだったりする?なんかそんな感じがしてきた。ああ、悲しいかな。でも、さっきオーガを倒した時にドロップした魔石が...手元にない!そういやさっき、自分が地面に落としたな。さっき自分がいた場所には...転がっている!でもでも、ここで取りに向かったら隠れた意味がないし、うん。悲しいかな。owaridesu...!


 そんな光景を見たゲセスターと女性徒、新人衛兵槍装備君は言葉を失って棒立ちしていた。目の前でやり合ったと思っていたら跡形なく消し飛んだのだから現実が飲み込めないのだろうな。ざまぁと言って差し上げますわよ?

 

「おい...どうなってんだぁ?出てこい、エリートオーガ!くそっ、反応もねぇ」


 正気を取り戻したゲセスターは混乱した様子で声を上げたのが聞こえて来るけど、あれってエリートオーガだったの?マジで?そりゃさっきのオーガと違ってめっちゃ強いはずだ。あの覇気といい魔力量といい納得だ。


「ん?雨?」


 頬に雨粒が落ちてきたのを感じてそう呟いた。それを境に大雨が降り始めた。雨粒は木の葉に衝突して音を立てて地面へと落ち、静寂な森が雨音に包まれる。

 結構な土砂降りだ。ずぶ濡れになるのは勘弁願いたいけど、隠れているこの状況じゃアクションを起こすことは無理そうだ。我慢するしかないな。


 そう思った瞬間、驚くべきことが起きた。ゲセスターと共にいた女生徒が発動した風魔法がゲセスターの腹部を貫通した。

 あの女生徒はいずれ何かやりそうな感じがしていたけど、それが今とは思いもしなかったぞ。だが、よくよく考えてみれば1番都合がいいタイミングだ。使役している魔物がいなくなった上に、気は相手に逸れている。実にいいタイミングだ。ゲセスターの腹部を貫通した穴は直ぐにポーションで治療すれば治るレベルだが、放置していると出血死するぞ。いや、もしやこれを狙っているのか。


「痛ってぇ!クソ奴隷がっ、おいポーションよこせ!何をモタモタしている!」


 ゲセスターはまさか近くにいる女生徒が放ったものとは想像がつかずにそう言い放ち、女生徒の方を振り向いた。その女生徒の顔は満ち足りた表情となっており更に顔を歪ませる。


「ポーションですか?あなたに使うものはありませんよ?あはは」


 愉快そうな女生徒は痛そうに腹部の傷口を抑えるゲセスターの腹部を殴った。その力は弱いものだが、今のゲセスターにとってはかなり痛かったようだ。


「グッ、ア」

「どうですか?楽しいですか?私は楽しいですよ?あはははは」


 なかなかにキマっている様子の女生徒。正直この場から離脱したいところだが、動くと音が立つので動けない悲しみ。かといって、何か行動するのも違う。これ以上、関わりたくないし見て見ぬふりをするとしよう。


「クソがッ!おいッ、ポーションよこせ」


 ゲセスターは新人衛兵槍装備君に向かってそう言うが、先ほどから全く動じない新人衛兵君は表情を変えずに言い放った。


「何かありましたか?ゲセスター“様“?」

「テメェら格下の分際で嵌めやがったな!」


 そう言うゲセスターに向かって女生徒が返答をした。


「そうですよ?だからあなたはここで死んでもらいます」

「はぁ?俺様を殺すだと?」

「思い当たる節がないようですね?まさに死に相応しい。私は今気分がいいので、冥土の土産に答えてあげます」


 ゲセスターは出血が多くなってきたために体の力が抜けたのか地面に膝をついた。それを楽しげに見る女生徒は言葉を続けた。


「あなたは私を辱めただけでは飽き足らず、両親に言いがかりの罪状を被せて私の目の前で処刑しました。あなたを殺す理由として十分ですよね?」

「あ?何言ってんだ!俺様が死ねばお前は死ぬんだぞ?わかってんのか?」

「ええ。そうです私は死ぬでしょう。ですが、この生き地獄から抜け出せるのなら十分過ぎる対価ですね。あはは」

「くそッ、何見てやがる助けやがれッ」


 女生徒に見切りを切ったのか、ゲセスターは新人衛兵君に助けを求めた。その新人衛兵君は肩をすくめながら言った。


「嫌ですね。私も上から処分を依頼されていまして、助けると自分の身分が危うくなるんです」

「上だと?」

「ええ、あなたの父親です」

「ああ?親父が、だと?」

「自己中心的すぎる思考、節度のない節操に加えて、目に余る問題行動。何をとっても共和国に害をなす存在だ。だから消えてもらう。だそうです」

「クソが、親父までもかッ!タダで済むと思うなよ!オラッ、魔物共!こいつらを蹴散らせ!」


 そう叫びながら最後の力を振り絞ったのか闇の魔法を発動して禍々しい魔力を周囲に拡散させる。雨音が包む森に溶け込むように声が消えていくが、その声や魔力に反応した魔物はなかった。


「どうしてだ!」

「ああ、魔物ですか?元々あなたは魔物を操ってなんかいませんでしたよ?私が操っていたんです。気づきませんでしたか?」

「ぁあああああああ!」

「では、私の用は済んだので後はお二人でご自由に」

「わかりました。今までありがとうございました」

「いえいえ、これくらいは」

「何言ってんだテメェら!」


 反抗するゲセスターを他所目に槍装備君は十数歩後ろに下がった。それを見た女性徒はゲセスターの方を向いて何かを呟き始めた。その言葉はゲセスターの声で聞こえてこないが、女生徒の体から大量の魔力が放出されていく。おそらく魔法を発動したのだろう。その魔力には属性魔法発動時のような強い属性は無く、あくまで彼女本来の魔力が注がれている。何を発動する気だ?


「メテオ」


 そう強く言葉を発すると女生徒の体から魔力の放出がなくなった。それと同時に女性徒は上空を見上げた。その先には雨雲のさらに上空に光る物体が生まれ、落下してきている。どうやら隕石のようだ。

 落下する隕石によって周囲の雨雲は霧散し、曇天の雲の中に満点の星空を覗ける空間が生まれた。その空間から見た星々と隕石を見た時、静寂が訪れた気がした。

 その星空を見たのか、光る隕石を言っていったのかわからないが、女生徒の呟く声が聞こえた。


「きれい」


 その声がやけに鮮明に聞こえたかと思うと、隕石はゲセスターへと落ちて閃光に包まれた。地面が揺れ、周囲には轟音が響き渡り、衝突時に地面を砕いてできた石が飛散する。その飛散した石と衝突時に発生した爆風によって木々が薙ぎ倒された。

 わずかな時が経過して再び静寂を取り戻した森には再び雨が降ってきた。目の前には大きなクレーターが生じており、赤熱した地面を覗かせていた。そこにゲセスターや女生徒の姿はなく、転がっていた魔石すらも消えて無に帰っていた。

 そんなものすごい光景に言葉が出ず、ただ手を合わせた。

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