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91 魔物狩り演習3日目4

(略しすぎています)

「え?結界?」


 リナが結界が展開されたことに気づき、周囲を見渡しながらそんな言葉を発する。突如の結界に驚いたのだろう。MSDを見せながら自分が発動した事を伝えるとして、落ち着きを取り戻してもらうために集中できる役割を与えてみるのも一つの手か。


「自分がこのMSDで結界を発動してる。サリアを治療するからリナはこのMSDを持って周りを警戒して!」

「カオリちゃん、了解!」


 リナに結界を張っているエーテルカートリッジ駆動のMSDと予備のカートリッジを手渡す。自分の説明に納得したのか落ち着きを取り戻し、リナの表情からは混乱している様子は受け取れない。まだ精神的に余裕がありそうで安心だ。

 リナから視線を切り、捻挫をした足の状態を確認しているサリアの方に視線を移す。パッと見た感じ足首に異常は見当たらないが、状態を確認しているサリアの表情には少しの焦りが感じられる。おそらく、動かすと痛むのだろう。そんな足では満足に戦えないだろう。これは立ち止まってでも結界を発動して正解だったな。

 そんなサリアの隣ではシルフィアが周囲の状況を確認しつつ、サリアの状態が大丈夫そうか確認を取っている。シルフィアにはこのままサリアを看病してもらうのも手だが、少し慌てている感じもする。落ち着いてもらうためにもリナと一緒に周囲の警戒をしてもらおう。


「シルフィア、サリアの治療は自分がする。結界を張っているけど、念の為リナと一緒に周囲の警戒をお願いできる?」

「わかりました...!サリアちゃんをお願いします...!」

「任せて!」

「カオリちゃん、私はこのくらい大丈夫だから」


 サリアはサリア自身が戦わなければ戦線が崩壊することをわかっていた。それはついさっきリナと位置を交代した後の攻撃リズムからも察することができる。それだけに、怪我の具合が思うよりも悪くて戦えそうにないことに焦りと不安を感じているのだろう。だからこそそんな言葉が出たのかもしれない。

 ギルドで活動する冒険者たる者、自身の戦力は正確に伝えるのが仲間の生存を上げることは分かっているはずだ。でも、そんな言葉が出ているところから察するあたり、焦りと不安でまともな思考ができていないのかも。パーティーの司令塔であるサリアの冷静さを取り戻してもらう為にも、まずは怪我の回復しないとだな。


「大丈夫な人は焦った表情しないよ。はいこれ、回復ポーション。足首見せてね」


 少し焦っているサリアにポケットから取り出した回復ポーションをサリアに押し付けて飲むように求める。手順が強引だけど、とりあえず飲んでくれるだろう。問題は足首の怪我だ。とりあえず、しゃがみ込んで足首の状態の確認をしていくか。

 外観的には赤く腫れあがっているとか、怪我で血が垂れているということは何もない。足を捻った直後だから当たり前か。だけど、足首に触れるとほのかに熱を持っている。炎症が起こっていることは間違いないので捻挫以上の怪我は確定だろう。問題は怪我がどの程度のものかだな。程度によっては回復ポーションによる回復が結界持続時間に間に合わないかもしれないからな。口から摂取するもので即座に回復とか現実的に無理っしょ?実際、知らんけど!

 自身の能力の再構築を使って左手から磁場を照射して右手で受け止めることで簡易MRI検査的なことをしてみる。磁場は目に見えないし感じないので能力を使ったとしても気づかれることはないので問題ない。それに、例によってイメージングは能力が何とかしてくれるので問題ない。こう言う時はこの能力を与えてくれた女神様に感謝だな。あざっす!ご都合主義万歳!

 磁場を左手から照射して、脳内で画像を構築していく。その結果、単なる捻挫ではないことが確認された。どうやら、靭帯とくっついている骨の一部にヒビがある。剥離骨折といったところか。捻挫ではないので思ったよりも重症だが、骨のヒビ程度なら回復ポーションですぐに治るだろう。これなら、展開している結界が切れたと同時に戦闘ができるな。


 サリアの状態を確認し終わったので立ち上がり、回復ポーションを飲み終わったサリアを視界にとらえる。素直に飲んでくれていたようでサリアの手には空き瓶が握られている。また、サリアの表情に焦りは見当たらないことから、怪我の痛みが引いたようだ。回復ポーションがここまで早く効くとは感動的だな。どんな原理なんだろうか?いや、考えるのは今じゃなくて暇な時にするとしよう。


「カオリちゃん、ありがとう。痛みが引いてきたし、これなら全力で戦えそう」

「それはよかった。怪我の程度もひどくないようだし、すぐ戦えそうだね」

「ほんと?よかったぁ」


 サリアはとても安心したような表情となる。これなら思考が空回りすることもないだろう。それに怪我も完全とは言えないだろうが、治ってきている。これなら自分以外の3人でこの場から脱出することの成功率は格段に上がってgooodだ。

 3人の状態に問題がなくなったところで、魔物が大量にいるこの場からどう逃げるか簡単に説明して納得してもらうとしよう。だが、結界を張っているMSDが魔力エーテル駆動なだけに、結界を張れる残り時間が気になる所だ。リナとシルフィアにサリアの状況を知らせるついでに聞いてみるか。


「リナ、シルフィア、サリアはもう大丈夫!」

「よかったです...!」

「そっちはどんな感じ?MSDについてるメモリとか!」

「えーっと、結界を張っているMSDのメモリは半分くらいでまだ大丈夫!でも周りにいる魔物の数が結構多いね!」

「ですよね!」


 結界を発動して40秒が経過している頃だ。魔物は多いが攻撃はそれほどキツくはない。幸い、オーガはこの場にやって来ていないし、カートリッジの残量的に残り30秒くらいは確実に結界が展開できるはずだ。だが、懇切丁寧に説明している時間はないな。


「みんな聞いて!もう結界が持たないからこの場からの脱出方法を手短に言うね。シルフィアのフォトンレイで突破口を開いたあと、自分が援護して突破口を維持する。その間にサリア、リナ、シルフィアの3人はそのまま宿舎へ向かって!」

「「...わかった」」

「でも、カオリちゃんはどうするの?一緒だよね?」


 サリアは心配そうな表情を浮かべながらそう言った。サリアの疑問は当然なものだ。でも申し訳ないが、自身の秘密を隠しながらだと自分の戦力が不足してオーガと戦えない。増してや、リナやシルフィアを守りながらだと言うのは無理がある。そこが何とかなったとしても、どう考えても魔物が多すぎる。サリアの提案を受け入れるとパーティーの安全が保障されなくなる。だから、単騎でオーガを相手することを伝える。


「オーガを引きつけて倒したら宿舎へ向かうよ」

「嫌、ダメだよ!カオリちゃんも一緒でないと!」

「オーガは強い。みんなの体力や体力が残り少ない今では歯が立たない。それに、魔物が多い状況では...無理だよ」

「だからってカオリちゃんはどうするの!?この状況でどうにかなるの?ねぇ、リナちゃん、シルフィアちゃんも何か言ってよ!」


 サリアの暗い過去を知っているだけに悲痛な思いが伝わってくる。強大な魔物と無数の魔物と1人で相手をするという、ある意味無謀すぎる策に自分の死を連想したのだろう。それに、暗い森の中という大切な人を失った状況と重なりそんな言葉が出てきたのかもしれない。どちらにせよ、すごく気持ちはすごくわかるが...すまない。

 

「カオリちゃんがそこまで言う相手だし、私は戦力にならない...。せめてカオリちゃんの邪魔にならないように宿舎へ撤退しておくのがいいと思う」

「私も...同じ意見です。カオリちゃんを...信じましょう」


 話を振られたリナやシルフィアは視線を地面の方へと向け、表情に悔しさを滲ませている。どう足掻いても足を引っ張る状況にもっと強かったらと思っているのだろう。


「みんなは!... 」


 リナやシルフィアの顔を見たサリアはその全てを察したのか、リナやシルフィアを追求するようなことはしなかった。そして、サリアもどうしようもない悔しさを滲ませる。

 

「だからサリア、リナとシルフィアで宿舎へ行って!」


 そう言った時、視界の端にオーガが走っているのが映った。とうとうオーガがやって来てしまったか。見たところ、筋骨隆々で逞しい体つきに角が生えているのでオーガで確定だ。あーやだやだ。しかも前に戦った時とは体に纏っているオーラが違う。エリート級のオーガだろうか?めっちゃ強そうだ。これは、みんなでは歯が立たないな。

 そんなオーガを見たサリア、リナ、シルフィアは怯えた表情となる。相手にしたことが無いものの、纏っているオーラが強大なだけに強いことがわかるのだろう。そして状況を理解したのか、段々と絶望の表情が混じり始める。相手をするのは無理だ。そんな言葉が聞こえてくる。その反応は正しいよ。

 でもそのオーラに呑まれているのか、みんなの視線はオーガに向いたまま動こうとする様子がない。みんなを正気に戻すためにも、声を張り上げてどう乗り切るかを指示するか。


「シルフィア!とびっきりのフォトンレイだよ!リナはサリアを強引にでも連れて行って!それぞれのタイミングは言うからそれに合わせて!」

「わ、わかりました...!カオリちゃん、宿舎で待っています!」

「そうする!カオリちゃん、無事でね!」

「みんな?そんな!」


 オーガが結界まで近づき、拳を大きく引いて溜めを作った。おそらくその攻撃で結界が破られる。この攻撃を受けた時が結界の最後だ。作戦の詳細が説明できていないが、みんなやることは分かっているだろう。なんせめっちゃ模擬戦やってきたしパーティーの連携もやってきた。今はその経験を信じるしかない。


「シルフィア!今!」

「はい!」


 シルフィアは手に持った魔法補助特化型MSDに膨大な魔力を集めてフォトンレイを発動する。強力な光の光線は射線上にいる魔物を溶かしながら前に進んで行く。そんな高火力なフォトンレイのおかげで木や下草が灰へと帰り、道が大きく開けていく。演習中に散々な事を言ったが、この時ばかりはシルフィアの高威力な魔法が頼もしいな!最高!


 その直後、オーガの振りかざされた拳が結界とぶつかり、大きな衝撃音と共に結界が破れ、光の粒となって霧散する。

 とうとう破れたか。早速サリアたちがこの場から離脱するサポートをしたいけど、オーガが接近し過ぎている状況では満足なサポートできない。どうにかして時間を...。そういや、前に見た魔物が魔石を食べることを思い出したぞ。魔物にとって魔石は美味な食料だ。それに今は大量に魔石が入ったバッグを持っている。これを投げれば、僅かな間でも気が引けるだろう。リリーガーデンとしての演習での戦績がなくなってしまう事になってすまないが、今は緊急事態故に許してくれな!


 即断即決で、背負っていた魔石の詰まったカバンをオーガの背後へ投げる。弧を描きながらオーガの背後へと向かうカバンに反応したオーガは、そのカバンの元へ向かうべく己の体を反転させた。

 目論見通りにオーガの気を引けている。バッチリだ。この隙を使うとしよう。


「みんな、今だ!」

「「ッ!」」


 リナはここに残ろうとするサリアを抱えて、シルフィアは次のフォトンレイに備えながら走り始めた。皆まで言わずとも作戦が分かっているな。それでいい。オーガは大量の魔石を頬張ることに夢中だ。これならみんなが宿舎に進むための補助を存分にできる。


「カオリちゃん!そんな、嫌!リナちゃんおろして!」


 サリアのそんな声が聞こえてくるが、リナ、シルフィア止まるんじゃねぇぞ...。今は振り返らずに前に進むんだ。


 リナとシルフィアが宿舎へ走る姿を視界に捉えつつ、リング型MSDでアイスニードルを発動する。生まれた氷柱は木々と魔物の間を縫うように飛翔し、サリアたちの進路上の魔物を正確に撃ち抜いていく。サリアが戦わずとも走り続けられるように。

 そうしていると、自然とサリアたちと自分の間は新たにやってくる魔物たちによって分断されていく。一般的には分断されるのは悪い状況だが、今に限ってはかなり好都合だ。その状況を見れば今のサリアであっても、自分の所へ戻ってくることはできないことを分かってくれるからだ。それが分かれば宿舎へ戻る手助けをしてくれるだろう。切り替えてうまくやってくれよ、サリア。


 サリアたちの走る姿が視認できなくなり補助ができなくなったその時、オーガが動き始めた。どうやら魔石を食べ尽くしたようだ。どうだ?産地直送の魔石だぞ?うまかろう?っていうか、君さっきよりも体に纏うオーラが強くなってない?産地直送オーガ君がさらに成長したということは...。これがオーガニック農法ってな!オーガだけに。ってうるさいよ!


 さらに強くなったオーガは自分を視界に捉えると大きな咆哮を上げ、次は自分の番であることを告げた。

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