90 魔物狩り演習3日目3
(略しすぎています)
魔素濃度が濃く危険な森の中を走り、比較的安全な宿舎へと向かっている。現在は残り500m程度で後4分で宿舎に着くかどうかというところだ。中々に近づいてきているが心中はそこまで近づいてきている実感はない。段々と魔物と出会う数が多くなってきているために、戦闘が頻発して進行スピードが落ちてきたからだ。
そのような状況でも進行スピードを保つために、進行方向の魔物を狩る人員としてリナ、サリアとシルフィアの3人を割り当て、自分は他の方向からやってくる魔物を狩るスタイルで進行している。それでも前方組である3人はやってくる大量の魔物を狩ることに精一杯であり、進行スピードは低下している。それほどに出逢う魔物が多いのだ。
「まだまだいるねっ!」
パーティーの先頭を行くリナが物理攻撃可能MSDで石礫を生成しながら剣を振い、リナの目の前に近接したゴブリン2匹を倒す。しかし、前方方向に新たな魔物が現れる。
「落ちている魔石集めたら、いくらになるんでしょう...!」
リナの後方にいるシルフィアは魔法補助特化型MSDを用いて高火力な光魔法フォトンレイを放つ。それにより進行方向の魔物を一掃する。だが、それも僅かの間しか持たず、一掃した一帯の左右から新たな魔物が押し寄せる。
「10万ゴールドくらいかな!」
シルフィアの後方にいるサリアが魔法補助特化型MSDを使ってウィンドカッターを発動し、新たに出現した魔物を一掃する。
「もっと行くかも!」
そしてパーティーの最後尾にいる自分がパーティーの左右や背後から接近する魔物に対して、指輪型MSDを用いて発動したアイスニードルで対応している。
「「「夢あるね!」」」
パーティーメンバー全員で軽口を言い合っているがそれほど余裕はない。その軽口は、無限のように湧いてくる魔物と対峙する度に精神が消耗しているのを意識しないようにするためだ。みんなはどう思っているのかわからないが、少なくとも自分はそう感じている。
最初の方は魔物数は多くなかったのでみんなの表情に余裕があったが、今はやってくる魔物を狩るのに精一杯であり余裕がない。そんな状況で誰かがミスをすれば大きな障壁が生まれてしまう。それだけに、魔物との戦闘が怒る度に神経がすり減るほどの集中力を持って戦闘が行われている。そりゃ、精神も消耗するわな!こんな状況を一刻も早く抜け出したいね!マジで誰かこの森を焼き野原にしてくれない?そこでピクニックするから!?
っと、この感じ自分が真っ先に精神に来てないか?前方以外の3方の戦闘と周囲の索敵を請け負っているがそれほど激しい戦闘をしていない自分がこのあり様だ。激しい戦闘が絶え間なく起こっている前方組であるサリアやリナ、シルフィアはどうなのだろうか。一度、精神や体力状況は魔法発動時の魔力の動きや体捌きに現れるだろうし、その辺を注目するか。
サリアとシルフィアからは魔法発動時の魔力の揺らぎや体の重心移動には特段違和感を感じないものの、余裕は感じられなくなっている。この感じだと精神や体力的な余裕はあるな。でもここまで来るのにかなり魔法を使っている。残存魔力は半分を切っているくらいだろうか?だが、変な戦い方をしなければ十分持ちそうな感じだ。
リナからはそれとは対照的に僅かな魔力の揺らぎがあり、重心移動はいつもの滑らかさを感じずに少しオーバー気味だ。その感じからして精神はともかく体力的には半分を切っていそうな感じだ。また、魔法の威力が不安定となってきているあたり、残存魔力的に余り余裕がなさそうだ。無理に戦わせることもできるだろうが、撃ち漏らしが増えてパーティーの負担が増えるだろう。
この状況からはリナとサリアを交代させて、リナはシルフィアの後ろで回復してもらうのが一番先決か。リナがいない分、サリアの負担がかなり大きくなってしまうが宿舎までたどり着くだけの余力は十分にあるだろう。
「リナ、サリアと交代!その後リナは回復に専念!」
「「分かった!」」
流れるようにリナとサリアが交代し、パーティーの順番が入れ替わる。入れ替わった後のサリアはすぐさま攻撃パターンの変更で対応し、サリアが近接掃討2回、シルフィアが前方掃討1回の攻撃リズムで対応する。ギルドで磨いてきたサリアの対応力は半端ないな感動ものだぞ。それに、サリアに負担が掛かっているが遭遇する魔物全てに対応し切っている。サリアさん、マジハンパねっす。これなら、宿舎まで大丈夫だな。って、これフラグか!まずい!
その瞬間、新たに強力な魔力反応が生まれたのを感じた。
「あー...これは」
呟くように発した言葉をリナが拾う。
「どうかした?」
「やばいのがやってくるかも...」
感じ取った魔力反応はかなり強大なもので、過去に出会ったオーガに近しいものがある。多分、オーガだろうし、やってくる強大な魔物をそう呼ぶことにしよう。
反応から察するに、オーガが生まれたのはついさっきだ。魔石を食べて進化したか、確率的に偶然生まれたと言った所で天然発送オーガさんだろう。生まれたてのオーガは既にこちらの存在に気づいており、こちらへ猛スピードで接近している。どうやら何があっても産地直送する感じだ。クソ面倒だが、地産地消してやるよ!
以前オーガと戦った時は俊敏でパワーと知能を兼ね備えていた。そのため、戦いに少し手こずった記憶がある。生まれたばかりのオーガで経験が浅いとはいえ、なかなかの脅威だ。自分1人ならそのオーガと対峙することも可能だが、サリア、リナ、シルフィアのメンバーを含んだ戦闘となると話は違う。おそらく、リナとシルフィアは戦闘についていけないため、自分とサリアが守りながらの戦闘となり、思うように反撃に出ることができない可能性が大きい。それに加えて今は大量の魔物への対応も迫られている。パーティー全員での戦闘は適切ではないだろう。
となれば、自分はオーガに専念して、そのほかの魔物を対処する感じにするか?いや、それだとパーティー全体の足を止めてしまう。それに、サリアたちは一方面だけの戦闘でも余裕がないため、全方面となれば結果は目に見えている。魔物に囲まれて戦線崩壊からの詰みだ。
なら、サリアとシルフィアに全力を出してもらいリナを含めて宿舎へ向かい、自分はオーガとその他の魔物を対応する感じはどうだろうか。まだ、そっちの方が希望はあるように感じる。メイン戦力となる2人の魔力や体力はまだ残っているし、宿舎までの残り4分間の戦闘くらいはできるだろう。自分だけで決めたが、この方針でしか道はない。
「みんな!オーガ接近につき、隊を割ります!自分はオーガの対処と魔物の掃討をする。みんなはこれまで通り宿舎へ進むこと!」
その言葉を聞いた途端、サリアの手が一瞬止まる。おそらく自分が言った言葉が予想外であり思考が止まったのだろう。それによりサリアに隙が生まれた。
サリアの足元にやってきたゴブリンがサリアの隙を見逃さずにサリアの足を襲おうとするのが見えた。それを見た自分は反射的にMSDに魔力を流してアイスニードルの発動を試みる。
サリアさんよそのタイミングで隙を作るのはまずいって!しかもちょい待て?素早い系のゴブリンじゃん!MSDに魔力を流し込んでも発動が間に合わないじゃん!?でも、タイミング的にMSDを使わない魔法発動ならまだ大丈夫そう。
だが、無属性魔力保持者であり魔法が十分に扱えない自分がそんなことしてもいいのか?サリアたちが気づかないかもしれないが、それが気づかれた時には自由に魔法使える可能性が外部に流出してしまう。しかも、MSDを介さずに発動するのだ。それらは、この世界の常識と照らし合わせると異常な存在であり、ひっそり自由に生きたい自分からすると問題となる。
でも、魔法発動をしなければサリアが攻撃を受けることとなり、主戦力のサリアが一瞬でも戦線を離れると戦線は崩壊する。その後に自分が戦線を保てば何とかなるが、その場合は周囲の魔物を掃討する火力を維持するために開眼をする事になる。そうなるともっとやばい!
一方は確率的に将来がマイナス、もう一方は確実的に将来がマイナス!その選択じゃ、MSDを使わずに発動するしかないね!産地直送オーガくんはなんて状況を生み出してくれたもんだ!カスタマーセンターに問い合わせしたいんだけどどこですか???物申したいんですけど!?
これまでMSDに流していた魔力を止め、その魔力を自身の前方の空間へと集める。集めた魔力に非常に硬い氷柱のイメージを付加して、魔力を変質させる。そして、素早く飛翔して貫くイメージを付加して変質させた氷柱を動かす。
やっぱりMSDを使うよりも桁違いに発動が早い上に飛翔速度も速いな。これなら間違いなくゴブリンがサリアの足を攻撃する前に間に合う。
空中を飛翔するアイスニードルはリナ、シルフィアの間をすり抜け、サリアの足を狙うゴブリンを貫いた。一瞬で貫かれたゴブリンは貫かれたことに気づかず少し進むが、すぐに魔石と化した。
これでひと段落か。MSDを使っていない魔法もみんなも何のことやらって感じで気づいていないし、大丈夫だな。一息つけそうだと思ってたけど、サリアは足元に横たわる木の根に気づいていない!何なら、足を取られて体が倒れていってる!この状況は不味い!
「きゃっ」
「サリアちゃん!」
その状況にシルフィアは反応することができたのか、サリアの腕を掴みにかかった。それにより、咄嗟のシルフィアの行動によってサリアが倒れるのを防くことに成功した。
「大丈夫ですか...?」
「シルフィアちゃん大丈夫、ありがとう。ッ〜」
だが、状況は良い方向へと向かないな。パーティーが前進が止まったことから、魔物たちによって囲まれた。それにサリアは顔を僅かに顰めている。捻挫したのだろう。メイン火力が出せるサリアが負傷した状況でこのまま進行するのは無理だ。やってきているオーガが気になるが、一度立て直すしかない。
あ、こんな時こそ用意しておいた緊急用MSDとポーションの出番では?。工房シュトーで買ったけど実際に使うことになるなんてな。あの時は何も起こることはないだろうけど、何かあった時の自己防衛には最適っしょ的な感覚で買った。だが今、最高にいい買い物になった!過去の自分gooooooood jobだ!
軍服ワンピースのポケットから慌てて緊急用MSDを取り出して起動し、パーティーを守る結界を発動した。