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89 魔物狩り演習3日目2

(略しすぎています)

 部屋で待っているサリア、リナ、シルフィアの3人と合流した自分は3人と共に朝食という名の夕食を摂った後、食料を受け取りすぐに森の中へと向かった。今は目的地である演習区域の最西端に向かって移動しており、出発してから1時間程度で既に往路の半分の位置に来ていた。少し雲が出ている上に、新月のため森の中がとても暗く、足元も悪いため普通の初心者パーティーであればその半分が関の山だろう。それに比べると、自分たちのパーティーはかなりスムーズに進んでいると言えるだろう。その理由として、複数回通った道であることや、シルフィアの光属性の魔法が辺りを照らしているおかげというのもあるがそれだけではない。魔物狩りがスムーズすぎるからだ。


「リナちゃんは正面のゴブリンお願い!シルフィアちゃんは2時方向のウルフお願い!私は9時方向のゴブリンなんとかする!」

「「了解!」」


 リナは持ち前の俊敏さとパワーを生かして近距離の魔物を、シルフィアは持ち前の観察眼と魔法の精密さを生かして遠距離の魔物を軽々屠っている。そしてサリアは持ち前の状況把握力と多彩な戦闘経験を生かして臨機応変にリナとシルフィアに指示を出しながら、対応しきれない魔物を処理している。サリアがリナとシルフィアの強みを引き出した指示を飛ばしているおかげで出会う魔物を流れるように討伐する事ができていた。


「こっちは終わったよ!」

「私も...終わりました」

「よっと。こっちも終わったよ。周囲に魔物は...よし。魔石拾ってOKだよ」

「「はーい」」


 自分はサリアとリナ、シルフィアの戦闘を見ているが、昨日や一昨日と同じく戦闘に口を挟む事なく突っ立っている。インストラクターである自分が戦闘に参加して倒した魔物は戦績としてカウントされない。なので、自分が魔物を倒すとサリアたちが倒す魔物が減ることとなり、単なる妨害でしかなくなるのだ。

 なので、やることといえば魔物狩りの時のアドバイスなんだけど、これといって言う事ないし?ゴブリンとかウルフとかの低級魔物を倒す分には十分すぎる感じだし?強いて言うならサリアの指示を頼りすぎている節があるが、魔物狩り初心者としては上出来な部類だ。現状、何も問題がない。なので、やることがなくて超暇だ。


「カオリちゃん、はい魔石!」

「お願いしますね」

「これお願い」

「うぃー」


 なのでドロップした魔石を運搬する係をしている。要するに荷物持ちだ。


「カオリちゃん重くない?代わろうか?」

「いや、これくらいはしておきたいかな。戦闘に参加出来ないのは申し訳ないし」

「そうだけど...ありがとね」

「気にしなくていいのいいの」


 サリアは申し訳なさそうに言うが、そうでもしておかないと精神衛生上よろしくない。なぜならば、同じパーティーの一員であるからだ。同じパーティーの一員でありながら戦闘に参加せず、インストラクターとして指導もしていない今、マジで森の中を散歩しに来ているだけの一般通過銀髪ロリ幼女でしかなくなる。それは御免すぎる。イメージ的に森の中に住んでいるエルフなので問題はないのだろうが、こんな夜更けに歩くエルフ(幼女)と言うのは怖いものがある。

 何はともあれ、みんなが倒してドロップした魔石を運搬する係をしているのだ。えっへん。いやー、誇れねー。


 だがそれ以外に何もしていないかというとそうでもない。インストラクターとして、パーティーの疲労度の把握と周囲の状況把握を行うことで安全な魔物狩りができるようにしている。はずだ。現状、サリアの判断がマジ優秀すぎるので何の役にも立ってないけどね...。まあ、のんびり歩きながら周囲の状況把握でもするかな。

 そう思っていたところ、サリアが声を掛けてきた。


「それじゃ、そろそろ休憩にしよう」

「「「さんせーい」」」


 まだまだ自分が役に立つ時では無いみたい。休憩中の警戒を買って出ることで貢献することにしよう。というか、ここしかないな!

_________________

 パーティーみんなで話し合った結果、1、2時間くらい休むことに決まった。そう言うこともあり、みんなで薪を集めて地面を整え、しっかりと休める環境を整えた。今はリナとシルフィアが集めた薪で火を起こしている最中で火がつけば休む環境が整う感じになる。


 だが、サリアはまだ休む気がないのか休憩場所から少し離れた位置で周囲を警戒していた。

 サリアは昨日起きた襲撃事件で自分が襲われたことを知っている。なので気が抜けないんだろう。だけど、サリアよ。これ以上自分の仕事取らないで!と言いたいところ。というのは建前なのだけど、サリアも休んでほしいというのがある。状況を常に把握しつつ指示を出し、自身も戦闘をしているのだ。さらに、魔物との戦いも頻繁にあったので休まる時間がなかった。この状況で疲れていないという方が無理があるんじゃない?

 ということで、周囲を警戒しているサリアの所へ向かった。


「あれ?カオリちゃん何かあった?」

「サリアが全然休憩する様子ないから心配になって。自分が周囲を警戒しておくからサリアも休んで」

「いいの?カオリちゃんも疲れてない?」

「戦いに参加してないから全然疲れてない。むしろ元気いっぱいなくらい。だからほら、休んで。ね」


 そういって、サリアをリナとシルフィアがいる方向へ押す。だが、サリアはまだまだ警戒の役をするつもりのようだ。これは少し困ったな。

 これからどう休んでもらうか考えようとした時にリナとシルフィアの困った声が聞こえて来た。どうやらまだ火がつかないようだ。


「えー、付かないよー」

「木から取った枝ですし、湿気ってるんじゃ...」

「こうなったら魔法で!」

「待って...!消し炭になっちゃいます...!ってリナちゃん火属性使えましたっけ...?」

「...使えないね。でも土属性だしなんとかなる!」


 ちょい待てい!無限の可能性を見出してるところだけど、物理的に考えて土だと逆に消火されるんじゃ!この状況、放置しておくとめっちゃカオスになりそうだな...。いいタイミングだし、この状況を利用させてもらうか。


「ほら、リナとシルフィアが困ってるから助けにいってあげて」


 サリアはリナとシルフィアのやり取りでカオス状況を察したのか、自分の求めに応じてくれた。


「わかった。リナちゃんとシルフィアちゃんのところに行ってくるね。休んだらまた来るね」

「いいよいいよ、先は長いんだし休んでおいて」

 

 ということで無事にサリアを休ませることに成功した!やったぞ!これで散歩に来た幼女(荷物持ち)の役割から晴れておさらばだ!

 謎にテンション上がった事だし、自分の役割である周囲の警戒に入るとするか。


「さて、どんなものかな。まずは広範囲に状況把握するか」


 能動探知の解像度を高めるために瞳を瞑り集中する。そして、弱い魔力を体から瞬間的に放出する。放出した魔力は素早く周囲に拡散していき、周囲に馴染んでいく。そして、魔力の跳ね返りを肌で感じて脳内でその反応を可視化していく。

 この感じ、自分たちの野営地から周囲100mは何も反応がないな。さらに遠くでは魔物が点在しているけど強い気配はないし、こちらの存在に気づいている様子でもない。周囲の魔物や敵意のある人に関しては問題なさそうだな。それに、反応が返ってこない場所や反応に違和感はない。


「問題なし、と。とりあえずは安心できそう」


 能動探知を受動探知に切り替え、周囲を警戒しながら今日の魔物の発生について考えていく。


 今日はものの1時間と少しで30を超える魔物と出会った。初日では5時間で50体の魔物を討伐したことから魔物の発生数は初日よりも多いと言うことができるだろう。でも、魔物の発生に関わる魔素濃度も特段問題ない濃度で、むしろ普通に戻ったような感覚さえある。

 森の中で生活していたり、魔物狩りに通っていたりした自分からすると今の状況が普通だ。そこを基準に考えると初日は魔物の発生が少なかったし、2日目は全く発生していなかった事には違和感を覚えていた。何なら2日目は魔素を収集する装置が置かれていたであろう痕跡見つけたし、襲撃もされた。違和感続きだっただけに、喜ばしいはずの「普通」の状況が嵐の前の静けさであると思えてしまう。


「何も起こらないでよ。ほんと」


 祈るように呟いた言葉は、木々の隙間から見える曇天の空に消えていくのであった。

_____________________

 サリアとリナ、シルフィアの喋り声や、木の葉が風で擦れる音を聞きながら1時間ほど警戒を続けていた。その間は特に状況に変化がなく、こちらへ向かってくる魔物や不審な人物もいなかった。何もなさすぎて気が緩みそうになった時、サリアがやってきた。


「カオリちゃん、疲れてない?そろそろ交代するよ」


 バカな、タイミングが良すぎる。サリアはステータスでも見れるのか?少しサリアの観察眼が怖いよ。そう思いつつ、言葉を返す。


「休憩はもういいの?」

「カオリちゃんのおかげで大丈夫結構休めたから」

「そう?けど先は長いし無理は禁物だよ?」

「わかってるって。それに、カオリちゃんもだよ?戦闘中にも周囲を警戒してくれているの知ってるんだから」


 だからカオリちゃんこそ休んでなくて疲れているだろうと言っている。これはサリアに一本取られたな。超暇しているが休んではいないので、サリアの言う通りだ。自分としてはサリアにまだまだ休んでほしいところだが、休むとしよう。


「なら30分くらい休もうかな」

「短くない?私に気を遣ってくれたのなら、もっと長く休憩してても大丈夫だよ?」

「大丈夫問題ないって。あ、でも最後にちょっと待って」


 最後に能動探知を使って休憩場所付近だけでなく、演習領域全体にわたる広域の状況把握を試みる。全体の傾向を掴んで魔物の動きを予測する事ができたら、サリアに負担がかからないような交代時間が分かるからな。


 瞳を閉じて集中し、少し強めの魔力を放出して能動探知を行う。


 えーっと、魔物の数から見てどこの方面も同じような魔物発生数だな。そのためか、パーティーはほぼ均等に散らばっている。魔物狩りの効率的には超絶理想的な感じだな。ただ、自分たちのいる方面には全然パーティーがいない。おそらく、昨日全く魔物が発生していないのが理由だろうが、もうちょい来ててもいいよね?と思わなくもない。ただ、それは良いことだ。魔物を狩る人が多いということはそれだけ魔物が少ないという事で、魔物は魔物が少ない方へと流れていく。なので自分たちの方向へやってくる魔物は少なくなるということだ。これなら、サリアから自分に交代するタイミングは30分後でも問題ないだろう。サリアも警戒を厳にしなくていいので、疲れの度合いは低くなる。交代するタイミングとしては今がgooodだな!

 でもちょっと待てよ?魔物と人の反応に注目したけど、それ以外の反応もあるな。それに注目してみると、演習区域の外側、西方向にここから2km以上遠くだが魔力反応がない点が10箇所以上ある。いや、それだけではない。演習区域の外側全体にそれらの点が点在している。この反応は魔素収集並びに放出装置であることが分かっている。であれば、マジやばすぎるのでは?もしここで装置が発動したら、演習区域一帯が魔物の群れで埋め尽くされるぞ!それだけじゃない、もっと広域にも反応があるし、街の周囲が魔物に埋め尽くされることになる!

 人為的な大災害が引き起こされようとしていることが分かり、思わず顔から血の気が引いてくのが分かる。だが、そんなことを気にしている余裕はない。今はできるだけサリアたちを安全な場所に届けるかが問題だ。森の中は魔物が大量にいる状況になるので留まるのは危険すぎる。となれば、食料や戦闘できる人が見込める宿舎が最も安全か。


「カオリちゃん、大丈夫?顔青いよ?」

「魔物の数がやばい事になるかも...。今すぐ宿舎に帰る準備をして!」

「リナちゃん、シルフィアちゃん!緊急事態!宿舎に帰る準備して!」

「「ラジャ!」」


 サリア、リナとシルフィアで休憩中に広げていた荷物を回収して宿舎へ帰る準備を行う。自分は引き続き周囲の警戒に専念する。少しでも安全なルートを通れるように。

 現状、かなり魔素濃度が普通なので魔物が直ちに大量発生する事はない。それに、魔物の数も多くはない。装置が起動して魔素が大量にばら撒かれる前に、森の中を抜けて一直線に宿舎へ向かうことが一番の安全ルートだ。これならなんとかなるか。


「カオリちゃん、終わったよ!」

「なるべく早く宿舎に移動するよ!」

「「「ラジャ!!!」」」


 その掛け声を聞いた後、周囲の魔素濃度が急上昇した。思わず身震いするほどだ。リナやシルフィア、サリアも急な魔素濃度の上昇を感じたようで、言葉に出る。


「何、これ?」

「嫌な感じです...」

「こんなの初めて。それに嫌な感じ」


 急激な魔素上昇にサリアたちの表情には戸惑いと少しの怯えが混ざり始めた。この状況じゃ、魔物狩り初心者であるリナとシルフィアにこれまでの戦闘は期待できない。サリアと自分がメインで戦うしかないな。

 それに、装置が発動して高くなった魔素濃度だと安全と思われたルートも魔物が大量発生して危険地帯となるのも時間の問題だ。如何に短時間で宿舎に帰れるかが決め手となる。となれば、走りながら魔物を倒して魔石を拾わず突っ切って帰るのが一番だな。


「大丈夫、自分がみんなを守るから。まずは深呼吸して」


 みんなに冷静さを取り戻してもらっている最中に自分は非常事態を知らせるため、学園から配られたMSDを取り出した。そして、そのMSDを使って今にも雨が降りそうな空へと赤の信号弾を打ち上げた。

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