88 魔物狩り演習3日目1
(略しすぎています)
寝巻きに着替えてからと言うものサリアやリナ、シルフィアにめっちゃ可愛がられていた。まるでお気に入りのぬいぐるみを目の前にした時のように抱きついてきたりとか、頬擦りしてきたりしてきた。そんな事されたら超絶恥ずかしいよね。と言うことで顔に出ないように隠していたんだけど、みんな曰く、隠せきれない照れが顔に出ていたようで火に油を注いだ形となったらしい。解せぬ。
その後も、持ってきたお菓子を食べながら色々話していたので寝る時には太陽が登っていた。大爆音で模擬戦をしたり、何者かに襲撃されたり、可愛がられたりと色々あって体力的には疲れていたので素晴らしく寝れそうな感じだった。だけども、脳裏に焼きついたサリアたちの寝巻き姿や抱きつかれた時の感触が離れなくて素晴らしく寝つくのに苦労したのは言うまでもない。フラグを無事に回収したな。ちくしょー。
そう言うこともあり、起きるともう夕方になっていた。昨日はお昼ぐらいに起きたのはいいものの、夕方までやる事なかったから時間的にいい感じだ。活動し始める時間としてはちょうどいいのもあり、部屋で魔物狩りの装備を整えながら今日の魔物狩り演習について話し合う流れとなっていた。
「はい、リリーガーデンのみなさん。今日の活動方針について決めようと思いますがいいですか?」
「「「いいよー」」」
「それじゃ、今日の演習時間から話していくね。今日の演習終了予定時間は明日の朝5時みたい。それまでは森の中で魔物を狩ることになるかな。ここまでで質問ある?」
はい、と挙手したサリアが質問をする。
「魔物狩りをする時間が長いように思うけど、カオリちゃんは何か聞いてる?」
「最後の追い込みと言うのもあるだろうけど、一番は極限状態を体験してもらうってことって聞いてる。余裕持って魔物狩りに臨む大切さを体感するだとか」
「確かにそれは大切だよね。でも、大変そう」
区切りがいいところで次はリナが質問してくる。
「じゃ、疲れたから寝ようってなっても部屋に帰って来れないってこと?」
「そうなるね。宿舎で休めない代わりに、グラウンドで休むことはできるようになってるよ」
「野宿になるのかー」
「森の中で寝るのはありだよ」
「「「それはないかな」」」
「ですよねー」
森の中で寝るのはいいのに...。素晴らしい大自然を感じられるぞ。そう思うのは自分が森の中で暮らした?ことがあるからだろうか。
思考を巡らせているとシルフィアが質問してきた。
「そこまで長時間となると...食事やお手洗いとかはどうするんでしょうか...?」
「食事は学園からの配給があるとのことです。後で一緒に取りに行こう。お手洗いは宿舎にあるものが利用できますが緊急時は...大自然でしょうね」
「宿舎のお手洗いが利用できてよかったです...」
それは、そう。森で暮らした時は文明レベルの低さを実感したなぁ(白目)。初めて便座に座ってお花を摘みまくった時は超絶感動したっけな。っと回想している場合じゃないな。まとめないと。
「とまあ、こんな感じに実際の魔物狩りの環境に近い長時間の魔物狩り演習になリます。その上で活動方針を決めていきたいと思います。サリア、リナ、シルフィアの順にどんな感じでやりたいか言ってみて」
「私は歩いて出会った魔物と戦う感じでいいかな。長時間ってなると集中力が持ちそうにないし、そのくらいの感じがいいと思う」
「私はサリアちゃんと同じかな。体力残さなきゃだし」
「私も...ゆったり目でやるのがいいです。魔力を温存しておきたいです」
「みんなの意見をまとめると、魔物を見つけにいくようなことはせずに、出会った魔物を狩るスタイルで集中力や体力、魔力を温存する方針ね」
「「「そんな感じー」」」
「となると、演習の場所はこれまでのところがいいかな?」
みんなに問いかけるとサリアが答えてくれた。
「そうだね。土地勘ある方が有利に進められそう」
「「異議なーし」」
「なら、これまで通りの方向でいくことにします」
「「「さんせ~い!」」」
活動方針と演習場所が決まったし、さっさと演習予定地の報告しに行くか。
「それじゃ、自分は演習予定地の報告に行ってくるね。ちょっと時間がかかるかもだけどここに戻ってくるからみんなは準備して待ってて」
「「「は~い!」」」
部屋から出て会議室へ向かいながらパーティーのインストラクターである自分の役割を考えてみる。
これまで通りと変わらないが、特に重要になってくるのが周囲の索敵とパーティーメンバーの体力管理だろうか。
森の中は色々と不安要素が多い。だが、みんなよりも索敵能力が高い自分が周囲の状況把握を怠らなければ早期に気づくことができるだろう。となれば定期的に能動探知で広範囲の状況を把握するのが必要そうだ。昨日のように遅れを取らないように気をつけるとしよう。
長時間の魔物狩りとなると体力のペース配分が難しくなる。特に出会うタイミングがランダムである魔物との戦いは、余裕もって動かなければ危険な状態に陥りやすい。早め早めの休憩を取り入れることが得策だろう。休憩ペースはみんなの戦闘時の調子を見ながら判断するとしよう。
まあ、こんな感じか。なんか最終日が一番のんびりできていない気がするな。最初はピクニック気分でのんびりいきましょーって感じだったけど、最終日はめっちゃインストラクターの仕事をすることになりそうだ。自分が真っ先に疲れないように注意しなきゃだな。
そんな感じに考えが纏まったのと同時に会議室の前に着いた。しかし、会議室の扉を開ける前から騒がしいのが伝わってくる。何が起こっているんだ?
扉を開けて会議室の中へと入ると、30人程度のインストラクターがいた。魔石を保管するロッカーの前で演説するかのような人が1名、それを見て頷いている人が数名、離れて事態を見守っている人がその他の人という内訳だ。中にいる全員が喋りまくっているというわけでもなく、周りにいる人たちは騒ぎ立てている1人とそれに共感する数人を見て「なんだコイツ?」的な感じの冷ややかなしゃべり口をしている。ナニコレ?
会議室の入り口付近で突っ立って首を傾げていると、自分に気がついたエルバ先生とモリスさんがこちらにやってきた。せっかくなので何が起こっているのか聞くとしよう。
「カオリちゃん、いいところに来ましたね」
「何が起こったんですか?どこかのパーティーのロッカーでも荒らされました?」
「それがその通りでな。どうやらカオリちゃんのロッカーみたいだぜ」
「What?」
「「え?」」
「いえ、なんでもありません。続けてください」
まさかとは思っていたけど、魔石を保管しているロッカーを荒らす奴が出てくるとは驚きだ。魔石を強奪して自分の戦績にしようとしても、魔石鑑定装置に鑑定ログが残っているので盛った戦績であるということが直ぐにわかるのにな。
「ロッカーの扉は破壊されて中身の魔石が何処かへ持ち去られています」
「そんで破壊された扉は見当たらねぇ。魔力の痕跡から犯人が誰か追跡もできねぇのよ」
「自分たちのロッカーが荒らされ、扉と魔石が持ち去られたのはわかりました。それで、ロッカーの前にいる人は何で騒いでいるんですか?」
「私はさっき来たところなので詳細は分かりませんが、カオリちゃんのパーティーの戦績についてのようです。モリスさんは何かわかりますか?」
「俺も途中から来たから詳しくはわかんねぇが、保管された魔石がない以上、一昨日と昨日の戦績は認められねぇとかなんとか言ってるな」
はぁ、そう来たかー。戦績を盛るために他のパーティーから魔石を奪うのではなく、他のパーティーの魔石を隠して戦績を0にするというのはなかなか賢いな。そうすれば、相対的にパーティーの評価は上がるってものだ。しかも、魔石を隠されたパーティーは戦績が0に戻るのでかなりの痛手となる。順位が高いほどにその影響は大きい。最高レベルの嫌がらせだ。
それに、魔法でこじ開けたであろう扉は持ち去られており証拠が出ない。犯人を立証することができないために、被害を受けた側は泣き寝入りしかできない。人目に付かない様にすれば完全犯罪になる。なんとまぁ悪知恵が働くことで。その働きに免じてこの状況をひっくり返してやろうか?
そのための策があるが、その策が有効かどうか確認するとしよう。
「エルバ先生、魔物狩り演習の戦績は何をもとに評価されるのか教えていただいても構いませんか?」
「あ、はい大丈夫ですよ。基本は戦績をまとめた表からになります。何らかの不備が見つかれば、戦績を証明できるものを確認する形となっています。例えば魔石の数やそれを記した鑑定書からですね」
「まぁーそこら辺があるなら一発で分かるな。魔石がないとなれば鑑定書になるが、そんなの出力してんのか?この演習でしてるやつを見た事がねぇ」
「私も見たことありませんね」
だからどうしようも無いよねと気が沈んでいるエルバ先生とモリスさんなのだが、自分は鑑定書を出力して持っているのでどうということはない。この鑑定書こそが状況をひっくり返す策だ。ロッカーの中に入れておいたのもあるが、もう一部は念のためにと自分が持っておいたのだ。正直、これが役に立つとは正直思ってなくてお守りくらいになったらいいなと思っていたのだけど、これを使う時が来るとは...。やっておいて良かった、悪意のある者への自己防衛。
とはいえ、ここで鑑定書あります!なので戦績は0ではありません!貶めたやつざまぁwwwってことを言うと、自分たちを貶めようとする連中は今晩あたりに厄介事を起こすだろう。それはそれで面倒なのでこの場では何もしないことにする。戦績が確定する明日の戦績報告の時になんとかするとしよう。
「鑑定書があれば大丈夫のようなので、なんとかなりそうです。鑑定書を持っているので明日の報告の時になんとかします」
「そいつはどうにかなりそうじゃねぇか。良かったぜ」
「良かったです。通りで冷静だったわけですね」
「気を揉んだようですみませんね」
「謝らなくていいってもんよ」
「そうですよカオリちゃん」
「エルバ先生、モリスさん、ありがとうございます」
いい感じにまとまったのもあるし、サリアたちを部屋で待たせているので演習予定地を報告してさっさと出るとしよう。
エルバ先生とモリスさんに別れを告げて、演習予定地を報告するため部屋の中央に置かれているテーブルへと移動した。テーブルには地図が広げられていたので、ピンを刺して演習予定地を示した。そして全体のピンが刺さっている状況を見てみる。
どうやら自分たちの向かう西側に行こうとするパーティーは少ないようだ。昨日は魔物が発生しなかったのもあって場所を変えているのかもしれない。この状況を見るにどこかのパーティーがチョッカイをかけてくることもないだろう。最もそういうパーティーはピンを刺さないのだろうが...。まあ、競争相手と厄介者が周囲に居ないのはいいことだ。
確認し終えた後に、ロッカーの方を振り返ってみた。すると、騒ぎ立てている人が見え、新人衛兵槍装備君であることがわかった。彼は確か、ゲセスターのパーティーのインストラクターであるはずだし、それを指名したのがゲセスターだったはずだ。あー、はいはい。今回もゲセスター関連ですよ。もう、飽き飽きである。
そう思いながらまだ演説をしている新人衛兵槍装備君を横目に会議室の部屋を出た。