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86 魔物狩り演習2日目4

(略しすぎています)

「カオリちゃん!伏せて!」


突然背後から聞こえた声に驚いて体が強張り、変な声を上げてしまった。


「ひゃ!」


 プチパニックを引き起こす脳内をフル稼働して、誰からの声か記憶を辿って照合する。これはサリアだ。なんでサリアが?そんな疑問が頭をよぎる。だが、サリアが発した言葉を反芻すると、自分に危険が差し迫っていて疑問に考えを回す暇がないことが分かる。

 のんびり気分の上に魔物が発生していないとあって近場だけ警戒していた。だから危険を察知できなかった感じだな。まさか、魔物以外から奇襲があるとは思わないじゃん?歩いてたら鳥のフンが肩に落ちるレベルで驚きだぞ。っと、その前に状況確認しなきゃだな。


 すかさず、周囲の状況を把握するために薄く魔力を出して能動探知を行う。すると、自分のすぐ背後にサリアの反応があり、自分の右側10mには自分に向かって飛翔する魔力を含んだ塊があった。魔力を含んでいるあたり、なんらかの魔法が自分に向かって放たれたのだろう。何気に飛翔速度が速いので威力が高いし、このままでは致命傷になりそうな感じだな。そんな感じなので、その飛翔体の存在感はめっちゃある。周囲の警戒を怠っていたとはいえ、気付けなかったなかった事に驚きだ。これなら魔法を発動する前から気付けそうな気もするが...。まあ、それは後に考えるとして今はこの状況を何とかしなきゃだな。


 自分へ向かってくる飛翔体について、自分だけなら自身の能力で姿勢を制御しつつ魔力刀を発動したナイフで弾くことができる。だが、サリアもいるのでそうはいかない。さてどうするか。


 サリアの状況を詳細に確認するため、強張っている体に無理を言いながら体を捻り、背後にいるサリアの方に体を向ける。視界にサリアを映すと、何かを願うような表情を含んだ真剣な表情で自分の元へと飛び込んできている姿を捉えた。

 どうやら自分を押し倒し、何者かの魔法攻撃から回避しようと飛び込んで来たようだ。飛び込んでくるタイミングがよかったのか、自分だけでなくサリアも被害を被ることもない感じだ。これなら、下手に行動を起こして状況を変えるよりも、何もしない方がいいだろう。


 サリアがぶつかって倒されてもいいように体勢を整えると、すぐにサリアは自分とぶつかった。そして自分はサリアに抱きしめられて地面へ押し倒されてゆく。そして自分の頭はサリアの右腕で頭を包み込まれた。地面に倒れた時に直接頭がぶつからないようにとのことだろう。そんな優しさを受けて雑に感動しつつ、何もしないことによって生まれた時間で能動探知を使って広範囲に状況を把握する。


 自分に向かってくる魔法でできた飛翔体との距離はだいぶ近くなってはいるが、サリアが押し倒してくれたおかげでその軌道上に自分はいない。飛翔体と術者との魔力のパスは薄いので、新たな魔力供給で追尾してくるといったこともない。もう危険はないのは確定だな。となれば、次なる問題はこの魔法を放った奴がどこにいるか、そのお仲間さんがどれだけいるかだ。数によってはサリアと2人だけでもなんとかなるだろうけど。さてどうだ?

 返ってきた魔力の反応からは、魔法が飛翔してきた方向の30m先くらい?に人らしい反応が1つだけあった。お仲間さんは居ないようなので安心だな。だが、本当に魔法を扱う人かと疑うほどに反応が微弱だ。ギルドや学園で見てきた人の傾向では、高威力の魔法を放つ術者ほど魔力保有量が大きく、自然放出される魔力が駄々漏れレベルなので反応は強く出る。だが、得られた反応は微弱だ。

 魔法を放つにはエーテルカートリッジで魔力供給するMSDを使うという選択肢もあるが、エーテルカートリッジ自体の反応もない。となると、自身の体から自然に出る魔力を抑えているのだろう。そんなことができるのだとすれば、魔法の扱いも上手く、派手な魔力放出をしなくても高威力の魔法が打てるはずだ。となれば、魔法発動前に気づけなかった理由の一つが解消される。

 それに、自身の体から放出される魔力が相手に気付かれる要因となる重要性に気づいているのだとすれば、魔力の扱いや魔法を用いた戦闘はかなりの手練れだ。そんな相手は面倒になること間違い無い。戦いたくないなぁ。だって、闇の世界で活躍してそうな感が出てるし。


 相手を把握している間に体は倒れていき、程なくして体に衝撃を受けた。どうやら地面と衝突したみたいだ。サリアが頭を保護してくれているのでダメージ0だし全然動けるな。

 そんなことを考えているとあることに気がついた。それは、飛び込んできたサリアの勢い全てを自分の体で受け止めるということだ。それ自体は何の問題もないけど、受け止める状況が問題だ。自分は地面とサリアの間に挟まれる形となっているので、逃げ場や力の逃す場所がない。つまりは飛び込んできた衝撃がそのまま自分にやってくると言うわけだ。ぬあーー。回避できるし、何もしなくてもいっかーって思ってた自分にこの事実を伝えたい。骨が折れることは無いけど、結構な力がかかりそうで地味に気合いが必要だ。なんとかなってよね!自分の体!


 そのように覚悟した直後、サリアと地面に挟まれた。予想通りに衝撃を逃すことができず、体が押しつぶされた。骨が折れるとか怪我を負うことはなかったが、サリアと地面にプレスされたために肺の空気を出さざるを得なかった。


「うぇっ!」


 もっと綺麗な空気の出し方あったのでは?と感じると思う。けどね、押しつぶされたら自然と出るじゃん?どうしようもないの。諦めて。少なくとも自分は諦めた。


 地面の上からそんな声を上げている中、上空を魔法でできた飛翔体が通過するのが見えた。

 これは...風魔法か。細長く先端が鋭利なところから察するにウィンドニードルだろう。それに、この飛翔体から感じる魔力に含まれた個人特有の情報はどこかで感じたことのあるものだが...。しかも割と直近に感じた。だが、思い出せない。自分に敵意を向けてくる奴とは大体戦闘を行なっているので何となく覚えているが、思い出せないとなると敵意を向けていなかった人からということになる。魔法の戦闘が上手い上にその人が誰か検討がついていないので不利な戦闘を強いられそうだ。


 だが、そんな想像とは裏腹に、ウィンドニードルを放った人物は魔法が自分に当たらなかったことを確認すると、すぐさま宿舎から遠ざかる方向へと走り始めた。2vs1の戦力差を考えたのか、はたまた正体がバレることを恐れたのかは不明だが、見逃してくれるらしい。面倒くさそうな相手だけにありがたい限りだね。もう来ないでね。

 

 襲撃者が逃走したことを確認すると一気に緊張がほぐれて、まだ肺に残る息を吐いて呼吸を整える。サリアは更なる攻撃から自分を守るためか、体を硬くして頑なに自分を抱きしめ続けている。攻撃が過ぎ去ったことを伝えるべく、サリアの背中に手を回してポンポンと叩く。


「サリア、もう大丈夫。ありがとう」


 すると、攻撃が続いていないことがわかったのか体の緊張を解いて、一度自分を抱きしめる腕を緩めた。だけど、腕が解かれることはなかった。


「サリア?」


 代わりに、溜め込んだ息を吐きながら呟くような言葉が返ってきた。


「よかった...」


 表情を見ずともその言葉を吐くに至った経緯はわかる。サリアは目の前で大切な人を失った過去がある。自分で言うのもあれだが、サリアと親しい自分が攻撃されたことで過去の状況と重なった結果、大きな不安を抱いたのだろう。だが、サリアは過去とは違って守るための行動を起こし、攻撃を回避して守ってみせた。不安感を感じていた分、安堵が一気に押し寄せたのだろう。多分こんな感じだ。


 抱きついたまま離してくれないサリアの背中をポンポンと叩きながら、少しばかり地面に倒れたままの状態で空を眺めていた。森の中から見える空はひどく曇っていて、星空はもちろん月の存在さえ感じることができなかった。これから起こりそうなことを暗示するかのような空に不安を覚えた。

________________

 しばらくすると通常モードに戻ったサリアがつぶやいた。


「ねぇ、カオリちゃん」

「なに?」

「飛び込んだ時に「うぇ」っていってたけど、どう言うこと?それにどうして森の中に?」


 サリアさん。そこを突っ込まれますか。できれば突っ込まないでいただきたいのですが 。どうでしょうか?聞かなかったことにはなりませんかね?緊急回避で仕方ないとはいえ、「衝撃が強すぎて出た声です」なんて言ったら、やだ、私の体重すぎ??なんて体重話になりそうだ。それはタブーの話の一つだ。

 それに、森の中へやってきた本当の理由を話すわけにもいかない。話すとサリアは協力してくれるだろうが、かなりの危険が伴う以上言うわけにはいかない。


 2人の距離はゼロでしっかりホールドもされている。物理的にも精神的にも逃げることは許されない。となれば、2つのことについて、いい感じの理由をでっち上げる他ないな !!頑張れ自分、ここは諦めるんじゃないぞ!!


 こうして、虎の尾を踏まないゲームとアリバイ作成ゲームが始まるのであった。サリアは結構鋭いところがあるから、自分が上手くやれるのか不安だ。あれ?もしかして、空見て覚えた不安ってこれだったりする?

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