78 魔物狩り演習1日目3
(略しすぎています)
サリアたちと駄弁ってインストラクターが合流する時間まで暇をつぶしていたのだが、お手洗いに行きたくなったのでサリアたちと離れて宿舎へと向かった。
宿舎のロビーに着くと、そこにはインストラクターを任せられたギルドや衛兵、先生方が立ち話をしており、とても賑わっていた。内容はどういう風に演習を進める感じ?という演習に沿ったものから、貴族様の扱いがどーのこーのという話まで様々だった。どんな話題にせよ皆活気があって素晴らしい事で。とりあえずお手洗いに行きたいことしか考えていない自分とは大違いだな。
などと適当な事を考えつつ、賑やかにしている彼らを横目にテテテとお手洗いに向かった。お手洗いは特に混んでなかったので、限界に近づいて危険信号を発していた膀胱をすんなりと解放することができた。これ以上ないすっきり感だ。素晴らしきかな。
思考の余裕を取り戻してロビーに戻ると、ざわめきの中から厄介そうな話が聞こえてきた。気になったので、ロビーの隅で立ち聞きをすることにする。
「そういえば、俺が担当する貴族から金渡されたわ」
「マジで?面倒なことになってんな。そいつは何しろって?」
「魔物が多く居そうなところに連れて行って一緒に魔物を狩れだそうだ。パーティーが手に負えなくなったら全部俺に任せてトンズラするくせによ」
「うわ、ハズレくじ引いたなお前」
「いや、そうでもないんだなこれが。奴らは魔物の生態にそこまで詳しくないから、そこまで魔物が多くない場所に連れて行っても何も気づかない。んで、俺はそこに連れて行ってのんびりやるって寸法よ」
「うわ、ゲスいな~」
うわ、ゲスいな~。と同じ感想を抱いてしまったが、保護対象が多い中で馬鹿正直に魔物が多い場所へと行く冒険者はそういないだろう。命あっての物種だしな。
「だって、いっちょ前の豪華な装備付けてるくせに傷の1つも無いんだぜ?戦えないですって言ってるもんじゃねえか」
「そりゃ戦闘は期待できないわな。俺なら置いていくレベル」
「俺だってそうしたいわ」
なるほどなぁ。貴族としてのメンツのために豪華な装備を用意し、分不相応な戦果を上げでメンツを維持するって感じだろうか。多分貴族が意識しているのは同じ貴族だから、他の貴族よりも豪華にしなきゃって感じでお金を多く使っているはずだ。まあ、なんと大変な世界の事で。平民である自分は低みの見物をさせていただきます。
気になることは大体聞けたので、サリアたちがいるグラウンドの方へと向かうことにする。道中、学園の生徒の装備を横目で見ていると、豪華な装備の生徒とそうでない装備の生徒に分かれていた。豪華な装備の生徒は貴族であることがうかがえるが、ここまでくっきりと分かれていると面白さも感じてくるな。しかも、貴族さんたちが妙にドヤ顔なのがポイント高い。魔物狩りが趣味なら別にいいと思うんだけど、見せびらかす為だけならやめておいた方がいいと思うのは自分だけではないはずだ。だって、森の中に入ると土や植物の葉が擦れたりして結構汚れるのは目に見えているから豪華な装備も汚れに塗れることになる。魔物狩りが好きで勲章として扱うような考え方ならまだしも、豪華な装備を見せびらかすために着ているようでは装備が汚れて発狂するんじゃない?彼らが魔物狩りから帰ってきたらどんな表情をしているんだろうか。少し気になるな。
観察しながらサリアたちの元へと戻っていると生徒のざわめきが増え始めた。何が起こったかと思って生徒たちの視線の先をみると宿舎のロビー付近からインストラクターたちがわらわらと出てきている。どうやらパーティとインストラクターが合流する時間らしい。急いで戻るか。
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サリアたちの元に戻ると、自分がやっと帰ってきたと安堵の雰囲気に包まれた。そんな中、リナが少し緊張を解くような声色で言葉を発する。
「よかったぁ、カオリちゃんが返ってくるのが間に合ったぁ~」
「遅くなってごめんね」
「遅れたらインストラクターのカオリさんがどんな反応するか読めなかったから焦ったよぉ~」
「でも、カオリちゃんは間に合いましたし...カオリさんが来るのを皆で待てますね」
「そうだね。それならリリーガーデンの全員が揃ったし、パーティー名カードを掲げておく?」
「賛成!」
サリアの呼びかけにリナが元気よく返すと、リナは持っていたパーティー名が書かれた紙を両手で掲げた。それと共に、サリア、リナ、シルフィアの表情が少し硬くなった。そこから察するに緊張しているようだ。自分も知らない人ならそういう風に緊張していたんだろうな。
周りにいたパーティーもパーティー名が書かれたカードを掲げ、宿舎からやってきたインストラクターたちはそれを見てだんだんとパーティーに合流していく。しかし、自分たちのパーティーに合流しようとする人影は見られず、時間が過ぎていく。時間の経過と共に、サリアたちの顔に浮かんでいた緊張は引っ込み疑問の表情が浮かぶようになってきた。
リナは自分たちのパーティーだけ合流できていないことの疑問が大きくなったのか、パーティーに向かって質問を投げかけた。それに対して、サリアやシルフィアが反応する。
「ねえ、カオリさんって来てるのかな?」
「来てないってことはないんじゃない?そこのところはギルドはしっかりしているし、代役が用意されてそうだけど」
「来ていませんね...」
「それらしい人はいそう?」
「いないですね...」
「いないね」
サリアたちは周辺を見回して、インストラクターらしき人物を探した。しかし、あたりにはまだ合流できていないインストラクターの姿はない。そのことに、サリアたちは一体どうなっているのかと頭上に疑問符を浮かべた。
このまま行動を観察するのもいいけど、これ以上長引かせるとエルバ先生の元へどうなっているんだと殴り込みに行きかねないな。自分がパーティーのインストラクターであることを明かすのはそろそろ頃合いだろう。
「みんな、聞いて」
「カオリちゃんどうしたの急に」
「もしかして」
「何か知ってたりします...?」
少しでも情報を欲しているサリアたちは食い気味に自分に反応してこちらを向いた。
「リリーガーデンのインストラクターなんだけど、実は話は聞いてて」
「「「聞いてて?」」」
「自分なの」
「「「?????」」」
サリアたちはあまりの突拍子の無さに脳の処理が追い付いていないのか、さらに頭上の疑問符を増やした。少しの時間が経つと3人とも同じ結論に至ったのか、互いに顔を合わせたて頷いた後、自分の方を向いて同じ言葉を発した。
「「「さすがに冗談だよね???」」」
「同じ学生だし」
「同じクラスですし...」
「同じパーティーだよね」
「「「そうじゃないよね???」」」
それに対して首を振って否定の意を示す。
「あっ、もしかしてカオリちゃんがお花摘みに行ったとき、カオリさんに何か頼まれた?」
「リナちゃんそれかも!」
「それなら分かりますね...!」
サリアたちは自分がこのような発言をしてるのはインストラクターからの指示だと思っているらしい。これもまた首を振って否定する。
サリアたちは自分が頑なに否定する行動も指示なのかと思っているのか、自分をそっちのけで顔を突き合わせた。
「そういえば、カオリちゃんが宿舎から戻ってきてから会話に乗らなかったよね」
「それにカオリさんの話題には無反応でした...!」
「カオリさんを探す素振りもなかったのも怪しい」
なんかこのままだと、自分がリリーガーデンを担当するインストラクターであることを永遠に信じてもらえそうにないな...。もうギルド証見せるか。その方が確実だろう。そう思って軍服ワンピースから金色のギルド証を取り出し、それをサリアたちに見せた。
「ならば、これが目に入らぬか~」
会話していたサリアたちはこちらを向き、金色のギルド証に視線を集中させた。
「「「....??????...偽カードを渡された!!!」」」
「そう来たか~」
思わずそんな言葉が出てきてしまった。
ギルド証は本人確認書類だし、めっちゃ驚く姿を想像してたんだけどな?どうしてこうなった?ここまで来たら自分を証明する手段は自分以外の存在に託すほかないだろう(白目)。モリスさんあたりに頼むか...。
再び頭を突き合わせて考え始めるサリアたちの傍らで、頭を抱えるのであった。