77 魔物狩り演習1日目2
(略しすぎています)
部屋に戻ると、サリア、リナとシルフィアが駄弁りながら待っていた。自分が帰ってきたことに気づいてサリアが声をかけてきた。
「カオリちゃんどこに行ってたの?」
実際はインストラクターの話を聞きに会議室に行っていたのだが、そのままいうのも面白くない。自分がサリア、リナとシルフィアと自分を含めたパーティー「リリーガーデン」のインストラクターを務める事を今も隠している。どうせなら、強制的に分かるその時まで隠し通しておく方がおもしろそう。という訳で、別の回答を答えることにする。
「ごめんごめん、ちょっと知り合いを見かけたから声をかけてきた」
モリスさんとも話しているので嘘は言っていない嘘は。
「そうなんだ。知り合いって、ギルド関係の?」
「そうそう。モリスさんっていう人。ほらリストに載っていたゴールドランクの人」
「あ~、OOですぜって言いそうなおっちゃんかな?」
そういう覚え方してるんだ...。ギルドに所属しているしもうちょい覚えようはあるんじゃない?ほら、なんていうか、こう、ギルドでパーティーを率いる器がありそうな感じとか?モリスさん、ゴールドランクですごい人に分類されるんだけどなぁ。リナの口ぶりから察するにあまりピンとこなかったようである。
そんな風に考えていたところ、サリアがリナの問いに対して回答した。
「リナちゃんが想像してる人で合ってるよ」
「話を聞く限り気さくな方みたいですね」
「実際そうだよ。私もたまに話すんだけど、冗談言ったりするおちゃめな人って感じもあるよ」
確かに冗談を言ってた場面があったな。ついさっきのインストラクターへの説明会で。ん?インストラクターへの説明があるということは、生徒への説明があるのでは?演習の日程表で見たような気もするし?サリアたちに聞いてみるか。
「そういえば、魔物狩り演習の説明って何時からだっけ?」
「もうそろそろなはず...って、あ~!」
「もうこんな時間!」
「急がないと...間に合わないかも...!」
「「「「急げえええ」」」」
マジカヨ。聞いておいてよかった。後でちゃんと日程表を確認しておこう。
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皆で急いで支度をして部屋を出たところ、何とか集合場所であるグラウンドに着いた。大勢の生徒が既に集まっていたが、まだ説明は始まっておらず間に合ったみたいだ。ふぃ~。変な汗かいた。
自分たちと同じように集合時間を忘れてたのか集合場所に走ってきている生徒も少なくないあたり、駄弁って時間を忘れたのは自分達だけではなかったようだ。
「何とか間に合ったね」
「セーフ!」
「間に合ってよかったです」
「カオリちゃんよく覚えてたね!ナイスだよ」
「ありがとう。そういっても、自分もその時まで忘れてたから素直に喜べないよ」
「なら本当に危なかったんだ。私もすっかり忘れて皆と話してたから」
「気を引き締めないとですね...」
「「「そうだね...」」」
皆で反省ムードになった時、集合場所にアナウンスが流れた。
「それでは、時間になりましたのでこれから魔物狩り演習についての説明をしていきます。では、エルバ先生よろしくお願いします」
そのアナウンスと共に喋り声が広がっていた一帯が静かになる。代わりに、これから始まろうとする演習に期待を膨らませているのか熱気が伝わってくる。今かと待ちわびている人が多い証拠だな。
視界の端に演壇へと向かうエルバ先生が映ったので顔色を窺ってみると、少し緊張気味だ。さすがに期待をはらむ熱気が強すぎるからな。自分だったら絶対しないだろうな。
ぎこちない動きで壇上に上がると、一呼吸置いてから説明を始めた。
「説明を担当するエルバです。話が長いと皆さん困ると思うので、手短に説明しますね。まず、演習の目的は魔物狩りの方法を学ぶことです。皆さん、魔物を狩りの経験がそう多くないと思いますので、これを機会に多くを学んでいっていただけたらと思います」
エルバ先生の発する声は固いながらも詰まることなく説明をしている。緊張していながらも滞りなく説明できる辺り、さすが先生というところだろうか。めっちゃ台本読んでるけど。
「今日を含む3日間、昼から夜にかけて森の中を探索していただき、パーティーで魔物の討伐を行っていただきます。基本的に自由に探索することができますが、危険な場合はインストラクターから指示が来ますので、その指示に必ず従ってください」
先ほどのインストラクターへの説明でこの辺の話はすでに聞いたので特に目新しいものはないな。
「最後に、授業の一環ですのでパーティー単位で評価がつけられます。評価は魔物の討伐数を基準に算定しますが、危険な行動や重大な怪我を負った場合は大幅な原点となります。これは、演習の目的が魔物狩りの方法を学ぶことだからです。なので、皆さんは安全に魔物狩りをすることを念頭に置いて演習に臨んでください」
この辺も話は既に聞いた。だが、演習で無茶をしないようにかなり釘を刺している。毎年何かしらの事故があるようなので釘を刺すのは当然と言えば当然か。
「最後に、パーティーを担当するインストラクターの合流ですが、これから10分後にこのグラウンドで合流する流れとなっています。スムーズに合流できるように各パーティーはパーティー名を書いた紙を用意して掲げてください。以上になります」
エルバ先生からの説明が終わり壇上から降りた瞬間、静まり返っていたのが嘘のように喧騒に包まれた。楽しみで仕方のないのだろうな。こちとら、学生でありながらギルドの指令で仕方なくインストラクターをやる羽目になったので、ピクニックができなくなったことに今も気を落としている最中だ。インストラクター命令でピクニックにしてやろうか?
学生としての自由さを奪われていることに気落ちしていると、リナがテンション高く声をかけてきた。
「ねっねっ、カオリちゃんはインストラクターの人ってどんな人だと思う?」
「え?どんな人か~。案外そこら辺に居そうなひとかも?ほら、あの人、モリスさんも言われなければおっちゃんじゃない?」
リナからの急な問いかけに思考が回らず、咄嗟にモリスさんを引き合いに出してしまった。咄嗟とは言え、自分もおっちゃん呼ばわりしているあたり、自分も人のこと言えないなと思ったりした。なんかごめん、モリスさん。
それはさておき、これからインストラクターがパーティーに合流する。その時に、自分がリリーガーデンのインストラクターである事が判明することになる。今も目を輝かせているリナを含めたパーティーからの反応が楽しみだ。