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74 サリアの事3

(略しすぎています)

「そして、私は1人でも魔物を討伐することができるくらいには強くなったの。うんん、強くなったと思ったの」

「サリアはとても強いと思うよ。学年のトーナメントに出場するくらいだし、魔物の討伐も余裕ある感じだよ」

「そう言ってくれると強くなったかなって自信になるよ。でもね、肝心なところでは駄目だって気づいたの」


 サリアはそう言うと、上を見上げて木々の隙間から見える星を眺める。


「カオリちゃんと初めて行った時の魔物狩りの時、演習場でカオリちゃんが結界に捕らわれた時、そして...ついさっき。肝心な時に私は何もできなかったの」


 サリアの言った時の状況を思い出してみる。魔物狩りの時は魔物からの攻撃を受けた後は尻餅をついて動けない時間があった。演習場の時は自分を助けるために自分を捉えている結界を破ろうとしていたけれど破れなかった。さっきは攻撃に気づかなかった上に、一時的に行動不能となった。確かに、そのシーンだけ見れば事態の打開に関して寄与する行動はとれていなかったように思う。サリアの言う通りだ。

 でもそうじゃない、サリアは強いと言葉をかけてあげたいけれど、うまく言葉が見つからなくてもどかしさを感じる。サリアはそれを感じ取ったのか言葉をかけてくれる。


「カオリちゃん、ありがとね。でも、肝心な時に発揮できない力なんて、力が無いのと一緒だから。そうでないと私は本当の意味で強くなれないし、過去を乗り越えられない気がするの」


 つらい過去を思い出し、その時に決めた自身の目標を再確認して前に進もうと決意している。その事実だけでサリアの心の強さが現れている。だからと言っても、その心には衝撃的な過去が刻み込まれて不安定がある。さっき起きた出来事がそうだ。その過去がある限り、単に強くなっただけでは乗り越える事は難しいように思う。過去を本当の意味で乗り越えるには同じ状況または似た状況で仲間を守れた時なんじゃないだろうか。


 では、そのようなサリアの状況に自分はどんなことができるだろうか。サリアが持つ過去が問題となっているので、それを乗り越えるために自分が直接的にできる事はない。だが、その過去を乗り越える手助けはできるだろう。

 サリアが過去を思い出して不安定になる状況にならないようにする?それは過去から遠ざけることにつながるのでダメだろう。

 過去に似た状況を作りだしてサリアがそれを打開するように仕向ける?いや、それはダメか。過去に類似した場面で錯乱状態に陥ったし、過去を思い出して力が十分に発揮できないかもしれない。それに、自分がそんな危険な状況を作り出したと知れば、サリアは激おこぷんぷん丸ムカチャッカインフェルノどころの騒ぎでは済まなくなるか。

 そうなると、サリアの地力を伸ばす取り組みしかないか。なんかそれが一番堅実な気がしてきた。サリアは強いがまだまだ改善できるところは多くて伸びしろが十分に残っている。十分な強さがあるならばそれが自信となって、過去に似た事態に遭遇したとしても対処できるだろうし、本人が望む形と一致している。


「でも、ダメだなぁ私...。まだまだだ」

「サリアはそう思うかもしれないけど、入学してすぐの時よりもサリアはずっと強くなったよ」

「本当に?」

「本当だよ。魔法の使い方がよくったし、状況に合わせて決断する力も上がった。ほんの1カ月としてはすごい進歩だよ。それに、まだまだだって思えるなら今からもっと強くなれるってことだよ。強くなる方法を一緒に考えよう」

「いいの?」

「もちろん!サリアがいいならだけどね」

「もちろんいいよ。むしろ、私からお願いしたいくらい」

「それじゃ、決まりだね」


 それを聞いたサリアはすごくうれしそうに頷いた。


 それから手をつないだままのサリアと森の中を歩く。魔物に遭遇することもなく、サリアとの雑談に花を咲かせてゆったりとした時間を過ごしていた。そんな時にサリアは一呼吸おいて自分を呼んだ。


「カオリちゃん」

「なに?」

「私を受け止めてくれて、ありがとね」


 感謝を述べたサリアの表情にはもう弱弱しいものは残っておらず、いつも通りの柔らかな表情に戻っていた。それがサリアの助けになっている証拠だと感じて少し嬉しくなった。


「どういたしまして」

 

 サリアの抱える過去はとても残酷なものだった。それは平和な世界で暮らしていた自分とは大違いだ。正直、サリアと自分が置き換わったとしたらサリアと同じ行動をとれた気がしない。それに、この過去は今のサリアに繋がっているとても重要な過去だ。半端な気持ちで助けていると碌でもないことになるだろう。

 それでも、サリアの話を聞いた後でも力になりたいという気持ちは変わらなかった。それは、目の前の困っている人を助けるという気持ちもあるが、自分の中でサリアの存在がとても大きくなっているからだとも感じた。

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