70 月曜日の早朝お茶会
(略しすぎています)
どうも、月曜日なのにめちゃくちゃ早起きをして食堂の出入り口付近で突っ立っている、銀髪ロリエルフになったものです。眠いです。
と言うのも、エルバ先生との待ち合わせをしているからだ。
先日の戦闘演習トーナメントの優勝者特典である食堂のプレミアム席の利用権を得た。ものは試しといきたいところだが、食堂は種族に対する価値観の異なる留学生も多く利用していることから、厄介ごとに巻き込まれる可能性が高い。まして、自分はエルフ族であり、異なる価値観を持つ留学生の被差別対象だ。呑気にふらっと立ち寄った時には面倒事が100増えるだろうな...。と言う感じなので、何かと便利な抑止力である先生を召喚して、面倒ごとに巻き込まれるのを防ごうという魂胆である。
エルバ先生を待っている間に食堂に来る人を観察しているのだが、亜人族も利用していることが判明した。朝が早いと言うこともあり利用者は少ないのだが、利用者の2割を占めると言うところだろうか。問題が発生しやすい環境でもよく利用できるなと、感心してしまった。
ただ、食堂に入っていく人間族を観察していると、亜人族だろうがそうでなかろうが気にしていない様だった。その様子から察するに、亜人族が利用しても構わないとする時間帯があり、今がその時間帯なのだろう。問題が起きないように暗黙のルールがあるのはいいけれど、本来は全人種が利用していいはずなんだけどな?ケモミミ尻尾最高だぞ?あのモフモフの中に顔を埋めて深呼吸してみたら虜になるよ!
そんなことを考えていると、エルバ先生が歩いてくるのが見えたので、手を振ってここに自分がいることを先生にアピールした。先生はそれに気が付いたようで、手を小さく振り返して小走りで近づいてきた。
「カオリちゃん、おはようございます。もう来てたんですね」
「エルバ先生、おはようございます。お待たせするのが気が引けまして少し早めに来ていました」
「気を遣ってくれてありがとうございます。でも、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ〜。それじゃ、早速行きますか」
「いきましょ~」
そんな感じでゆるく雑談を交わしつつ、食堂に入った。食堂を利用している人はそれほど多くなく、空席がかなり目立つ。だが、人族は窓際の一段上がった領域を利用しており、亜人族はそれ以外の場所を利用していた。席が空いているとはいえ、暗黙のルールを忠実に守っているようで一切の例外は無かった。そのルールを破るとよほど面倒なことになるのだろうな。
横目で観察をしつつ歩いていると、エルバ先生が立ち止まった。もう券売機の前まで来たようだ。
「では、購入方法について教えますね。通常の購入方法はもう知っていますか?」
「はい、入学式の時に利用したのでわかります」
「ではその説明を省略しますね。学園の特典を利用する場合は支払い方法が通常の場合と異なります。あ、カオリちゃん学園から配布されたリングタイプのMSDを持ってきていますか?」
「何かと必要になると思って、身につけてきました」
「それなら良かったです。説明を続けますね」
「お願いします」
「その身に付けているMSDを券売機のリーダーにかざすことで支払いができます。使用可能な残高については券売機に表示されるので確認しておいてください」
「わかりました。では、早速試してみることにします」
券売機に一歩踏み出し、売られているものを眺める。朝に適した定食があるだけでなく、朝からお茶会ができるようにスイーツも購入できるようだ。それなら、朝から甘い物というのも悪くないだろう。今日は朝ごはんを食べずに来たからそれなりにお腹が空いているし、フレンチトースト、ベーコンエッグ、紅茶のセットとショートケーキにしておこう。
「先生は何か頼まれますか?今日付き合ってくださったお礼がしたいです。とは言っても身銭からは何も出ませんが...」
「こういう事は気持ちですからね。それではご厚意に甘えさせていただいて...フレンチトースト、スクランブルエッグとソーセージ、紅茶のセットとショートケーキでお願いします」
「わかりました。では注文してみますね」
券売機のボタンを押して買う品を選び、エルバ先生から教えられたとおりに券売機のリーダーにMSDをかざした。すると、券売機から決済完了を知らせる音と利用可能残高が表示された。MSDに魔力を流したりするなどのコツが無ければ決済できないんじゃないかとか思ってたけど、何の問題も起きなかったな。めっちゃ簡単だ。少し拍子抜けしたな。
「ちゃんと購入できたようで何よりです。今の時期は特典の利用者更新の関係でエラーが発生するので、購入不可能な場合があるって聞いてましたけど何もなくて安心しましたぁ」
エルバ先生は少し肩をなで下ろしてそんなことを言った。食堂のシステムは割と雑なところがあるらしい。今回はその影響を受けなかったし、運がいいのかもな。
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カウンターで注文したもの受け取ってトーナメントの優勝者のみが利用できる特別席へと向かう。先生を連れているとあって視線を集めてしまうが、それ以上の事は何も起きない。嫌な感じの視線は無いので問題が生じる事はなさそうだ。先生の抑止力が効いているというよりも暗黙の了解によるものだろうな。
特別席は食堂奥のスペースにあった。エルバ先生は見れば分かると言っていたが、確かにその通りだった。特別席は周囲よりも4段ほど高い場所にあり、特別席を囲むように花や植木が植えられている。特別席へ向かうための通路も緑化されて華やかな感じに仕上がっている。だが、その通路には無機質なゲートが強烈に目立っており、選ばれた者のみが通ることができるという雰囲気を醸し出している。とまあ、こんな感じなので一目でわかった。
そんな通路を進み、特典のMSDを使ってゲート通過した後、エルバ先生と自分は特別席に着いた。
「おお、これが特別席ですか。確かにお茶会をしたくなりますね」
「華やかな空間でのお茶会なんて最高ですね!私も聞いてはいたのですが、ここまでとは思っていませんでした」
椅子や重厚なテーブルには装飾がされていたり、座った位置からでも花が咲いているのを見る事が出来たりと手が込んでおり、まるで貴族がお茶会を行っている一室の様だ。また、席のすぐ横側は大きな窓があって見晴らしもいい事もあり、解放感がある。さらに、会話内容が筒抜けにならないように遮音の魔法をかける事ができたり、空間の温度を調節できる魔法も備えているなど快適性も抜群である。どう考えてもここでお茶会をしてくださいと言わんばかりの席だ。
ぽけーっとあたりを見回していたらエルバ先生が何やら微笑ましい視線を送ってきた。
「エルバ先生、何かありましたか?」
「いえ、これといった事は無いのですが、普段はクールなカオリちゃんなのに今は年相応な感じだったので可愛いなーっと」
どうやらエルバ先生の中で自分はクールビューティーカオリちゃん路線だったようだが、自分がぽけーっとあたりを見回しているのを見て脱線したようだ。これでまた一つクールビューティー路線が無くなった。なんてこったい。とは言え、可愛いと言われて嬉しくない人はどこに居ようか。
「そうだったんですね。サリアたちの前ではこんな感じですよ。常に気を張ってたら疲れるのでゆるい感じでいます」
「そうだったんですね。戦闘能力演習の時はすごいピリピリした感じだったので意外でした」
「そういうエルバ先生はいつもと違ってテンション上がってますね」
「それはもう、ここまでお茶会に適した環境は他にありませんからね!カフェ巡りしていてもここまでのものはなかったので!」
とまあ、すばらしい空間に自分だけでなくエルバ先生もテンションが上がって、2人とも上機嫌なお茶会となった。先生のお気に入りのショートケーキについてや、近くのカフェの話などの雑談に花を咲かせたりした。何かと話が弾んだので、エルバ先生との距離感が近くなったように感じたりした。
そんな状況だったので時間が経つのも早く感じ、気が付くとエルバ先生が出勤する時間となっていた。エルバ先生と共に特別席を出ると、食堂には人が多く流れ込んできていた。
その中には嫌な視線を向けてる生徒もいた。先生が居るからか行動に移す者は誰も居ないものの、向けられる視線には棘が含まれていた。なので、暗黙のルールで亜人の利用が認められている時間帯に利用していない事がよくわかった。楽しい気持ちに思いっきり水を差されてめっちゃ不快だ。そんな不快な視線を受けないようにならない限り、サリアたちとお茶会をするのは難しそうだな。
それはそれとして、ごく一部からだがとても好意的?というか熱視線的なものを感じたのだが、何だったのだろうか?そんな視線を送られる何か覚えがあるかというと何もない。視線を送った人の勘違いかと思ったが、熱視線的はずっと自分を追っているような気がするしそういう訳でもないようだ。謎である。