61 写真に写った場所の探索と分かったこと
(略しすぎています)
写真が写っている場所を探すべく、宮廷魔導士の調査団が向かった方向とは逆の方向に向かうことにした。写真が撮られたのは1時間前であり、彼らがやってきた道中で撮られたものである可能性が高いからだ。
ただ、写真に写された場所は分からないのでピクニック感覚で森の中を彷徨うことにした。そんなこんなで20分程度彷徨っていると、草木から禍々しい魔力を感じられることに気が付いた。
「この感じは闇属性の魔力だな...」
草木は魔力の生成と貯蔵ができることに加えて、周囲に漂う魔力を集めて貯め込む性質がある。それに加えて、以前に魔物狩りでこの辺を通りがかった時は闇属性の魔力特有の禍々しさは感じなかった。そのことを考えると、この草木に含まれる闇属性の魔力は前回通りがかった時から今までの間に貯めこまれたことになる。
闇属性の魔力なんて普通の生活では感じたこともないし、少し森の中で生活していた時も感じたことはなかった。なので、自然的に闇属性の魔力が発生することはないはずだ。にもかかわらず、その魔力がこの周囲の草木に貯め込まれている。
「きな臭さを感じる...。それに、この先はさらに草木から感じる魔力が濃くなっている。この先に何があるんだ?」
好奇心に背中を押されつつ草木をかき分けて闇属性の魔力が濃い方向に進んで行くと、程なくして写真で見た光景にたどり着いた。
「あの写真の場所にたどり着いてしまった...」
宮廷魔導士の調査団が見せてきた時点で魔物の異常発生と関係があるとは思っていた。だけど、まさか闇属性の魔力の件にもつながっているとは思っていなかったので正直驚きだ。
「それにしても、写真を一瞬だけ見たときは森の中に何も生えていない場所って感じだったけど全然違うなぁ」
目の前に広がっているのは円形に植物が生えていない空間だ。中心付近には枯れた植物が残っている、中心から10m程度離れたところでは植物の形跡が一切なく、なにかが地面を掘った跡が一面に広がっている。さらに、中心から離れると闇属性の魔力を少し含んだ木の幹に爪痕や歯形がくっきりと残っているものが多数みられた。
「それにしてもナニコレ?珍しい百景に登録されるんじゃね?世界自然遺産レベルの謎な光景だぞ?」
謎な光景に圧倒されて周囲を眺めまくっているが、どう考えても不自然なことが目についてしまう。
「木の幹に残る傷跡がどう考えてもおかしい...。普通の魔物って木とか齧ったりしないよね?ベジタリアンでもないだろうし...」
以前に魔物が大量発生した時に魔物に対して行った実験では、魔物は魔物を倒すことで得られる魔石を食べて成長することを確認した。加えてその時に、魔石が大量に落ちているような状況では魔物は同士討ちをせずに魔石を食べるという傾向もあった。そこから、魔物は活動や成長には魔力が必要であり、常に簡単に魔力を得るための行動をとっていると自分の中で結論付けている。
「そうなると、木の幹の傷跡は魔物が魔力を得るために幹を食べた跡...ということか?」
食べたものを消化できるのかと言う感じの話は置いておくとして、以前にミカさんから聞いた話では、魔物が野菜を食べることもあると言っていた。自分が住む地域で採れる野菜には比較的豊富な魔力が含まれているから、魔物がそれを狙うという話だったような気がする。魔物が植物を食べるのだから、木の幹を食べていてもおかしくはない。
「そう思い始めると、食べた跡としか思えなくなってきたな」
木の幹の傷跡はそうだとして、中心から少し離れた植物が一切生えていない場所については、魔物が植物を食べ尽くして根まで食べたのだろうと考えている。異様な場所の中心に近づくにつれて植物に含まれる闇属性の魔力が多くなっているのと、植物に含まれている魔力量の違いで食べられ方が違ってくるという推測からだ。超当てずっぽうだけど、そういう解釈がしっくりくる。
「中心から少し離れた領域までは納得がいったけど、中心付近の枯れている草木はどういうこと?単純に食べれられてないし」
この流れで来ると、中心の草木も食べ尽くされていてもおかしくないのだが、枯れた草木が今もそのまま残っている。魔物が植物を食べる話の流れからすると、魔物たちが食べる価値が無いと判断していたことになる。逆に、食べていないということは、枯れた植物に魔力が無かったからと言うことになる。
「つまり、枯れた植物は魔物が食べる頃に魔力がなく、魔物が現れる前から枯れていた?」
じゃあ、何で植物が枯れたのかと言う話になる。
転生前の知識では植物が枯れる要素と言うと水の管理が甘いとか栄養分が少ないとか日光不足とかだろう。しかし、そういった枯れる要素が森の中のピンポイントで発生することは考えられない。そのため、前世の知識に含まれていない枯れる原因があるのだろう。
前世の知識とは異なると言えば、植物も魔力を貯め込んでいる事だ。植物は生命活動に関しては無駄が無いように最適化されている。理科の問題で謎に出てきた葉からの蒸散とかいう一見無駄そうな機能も地面からの養分補給に一役買っているほどに無駄がないのだ(?)。その無駄のなさから察するに植物は生命活動に魔力が必要なのだろう。つまり、植物は魔力が無くなってしまうと生命活動が維持できずに枯れてしまうはずだ。
「わざわざ除草剤を撒く理由もないし、魔力の枯渇で枯れたっぽい?じゃあ、何で魔力が無くなった?」
傍から見ていたも何もわかりそうにないので、耕したかのようにふかふかになっている土を踏みしめつつ、異様な場所の中心地へと歩みを進める。魔物の足跡が点在する中で、人の集団が歩いた後の様な足跡があるのを見つけた。恐らく宮廷魔導士の調査団の足跡なのだろう。ここは彼らによって調査済みのようだ。
問題の中心に着くと、そこには枯れた植物に囲まれながら漬物石でも置いていたかのようにぽっかりと凹んでいる場所が目に入った。重量物を置かなければ地面が凹むことはないので、実際にここに何かがあったのだろう。そして、それはこの周囲に異変をもたらしたものである可能性が非常に高い。だが、その周囲には枯れた植物があるくらいで特にこれと言った形跡は見当たらない。
「ぱっと見では植物の魔力枯渇の原因についてわかりそうなものはなさそう。魔力の方では何か分かるかな」
静かに瞼を閉じて目に魔力を集中させて強制的に開眼(?)させた。普段の青い目が紅く光る目に変わり、魔力が見えるようになる便利で特殊な能力だけど、世間的に紅く光る目は魔族の象徴となっており誰も居ない時にしか使えないのが残念すぎるよなぁ。
「古より封印されし我が魔眼がとうとう解き放たれる時が来てしまった...」
何も考えていない突っ込みどころ満載なセリフをつぶやきつつ、静かに目を開けて瞳に世界を映す。うん。ロリエルフでなければ様になっていたのになぁ。
「っと、気を取り直して周囲を観察、観察~」
何かが置いてあった跡がある中心には魔力が無い感じだ。さらに、立ち枯れている木や草を見ても魔力は無い。何かあるかなと思っていたけど、空振りである。9回裏2アウトで三振くらいの残念さだ。
「なにもないかぁ~~~」
間延びする声とともに行先を失った期待を吐きながら、視線を足元へと下げる。すると、枯れた下草に隠れながら地面に転がっている小さな欠片が目に入った。さらに、その欠片からは魔力があるのが見えた。
「~~~ぁ。あった。スゥゥウウウウ」
吐き出した期待を吸い込んで、一呼吸おいてからその欠片を拾い上げる。
見た目は米粒程度に小さて何かかから欠けたように鋭く形状をしており、鉱物みたいに硬く、すりガラスのように曇った紫色をしている。パット見た感じではかなり低級の魔石みたいな感じである。だけど、欠片に含まれている魔力量は魔石と比べるとかなり低い。
「手掛かりになりそうなのを見つけたはいいけど、何なのかさっぱりわからない」
その欠片のさらなる情報を引き出すために能力の1つの分解使って、欠片の形状や構成物質を調べてみた。
「うーん?」
分解したときに脳裏に浮かんでくる欠片の形状から、直径30cm程度の円柱上の何かから欠けた感じである。円柱は高さが分からないけど、高さ30cmとしたら40kg程度の重さになるかな?
欠片を構成するものは、分解した事のない化合物と僅かな闇の魔力と無属性の魔力、欠片の大きさからすると大量の魔素もあるな?ん、魔素?
「魔素?」
大事な事なので3回も言ってしまった。でも、何で魔素が物質の中にあるんだ?そもそも、これまで何を分解しても魔素は感じなかったから、物質の中に魔素が含まれていること自体が驚きだ。
何もかもが謎なため、試しに欠片と同じサイズの鉄を生成して、魔素や魔力が溶け込むのか実験したところ全く溶け込まなかった。代わりに、拾った欠片を生成して実験してみるとすんなりと魔力と魔素が吸収された。さらに、欠片に闇属性の魔力を注いでみると反発するかのように吸収していた魔力や魔素が放出された。
「吸収だけじゃなく放出もできるなんてあまりに機能的すぎる。そんなものがあったとして何ができる?」
この物質で構成されたものが、何かが置かれていたであろう場所に存在して、物質の機能を発揮したとして考えてみよう。
1.魔力や魔素の吸収をする。
これによって周囲の魔力や魔素が吸い尽くされる。結果、魔素が無くなることから魔物の発生が無くなり、周囲の魔力が吸い取られることから植物が枯れる。特に、中心に近いほどその傾向は強く植物が魔力を作るスピードよりも吸収するスピードが早くなるだろうな。
2.闇属性の魔力を使って放出する。
吸収していた魔力や魔素を放出した結果、周囲の魔素濃度が急上昇する。結果魔物は大量発生するし、魔力濃度も上昇して植物が吸収する魔力量が多くなる。
「...これは...やばい。魔物の異常発生の前後、全ての状況に説明がつく」
ここまで矛盾なく説明がつくということは事実として捉えていいだろう。そうすると、何者かがこの物質を配置して意図的に魔物の異常発生を引き起こしたということになる。そして、闇の魔力を使うところから、ゲセスター含む謎のヤバい集団が絡んでいることは間違いないだろう。
「これはきな臭いどころの話じゃないな...」
謎が繋がったことで魔物の異常発生の真相に近づいてきているように感じる。それ自体は喜ばしい事だ。誰かに共有しなければという思いにも駆られる。だが、自身の能力を使って判明した事が多すぎるために話す事ができない。そこから来るもどかしさを猛烈に感じる。
宮廷魔導士の調査団は魔物の異常発生が人為的であることに気が付いているのだろうか。もしそうでないなら、ヤバい集団について対策できずに後手に回る事となるだろう。
次にヤバい集団は何をするのだろうか。そのことを考えるとピクニック感覚は吹き飛び、少し怖さを感じて周囲の空気が冷たくなったかのように感じた。そして、風で木の葉が擦れる音でさえ大きく感じられた。
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