60 来訪者
(略しすぎています)
やってきた人を出迎えるべく門扉へと向かうと、質感のいい装備を着込んでいる5人組の集団が何かを話しながら待っていた。
彼らの表情を窺うに表面上はにこやかで温和な感じであり、敵対的な感じは見受けられない。しかし、不測の事態に備える為か、鞘やロッド型のMSDには手が伸びている。下手に声を駆けたら攻撃されそうで怖いな。わざと足音を立てながら近づいて声をかけるとしよう。
「皆さんお待たせしました。この家の主のカオリです」
足音を立てたおかげか、その集団の全員が足音に気づいていたようで声をかけても過剰な反応はなかった。そのことに安堵していると、集団の内の1人がこちらに踏み出して声をかけてきた。
「宮廷魔導士のミシェルと言います。先日発生した魔物災害の調査にやって参りました。その調査の一環として周辺住民に聞き込みを行っています」
宮廷魔導士さんがわざわざ調査に来ているのかと疑問に思ったが、装備は高価なものだろうが着慣れた感じであり、彼らの人相からは下衆さが感じられない。そのことから察するに本当に宮廷魔導士なのだろうな。と言うか宮廷魔導士って何?今度誰かに聞いてみるか。
「それであなたにも質問をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか。
「はい。構いませんよ」
「ご協力ありがとうございます。それではまず初めに、カオリさんはこの屋敷の主であるとのことですが、普段からこの屋敷に住まわれているのですか?」
「そうですね。毎日住んでいます」
「そうですか。では魔物災害の夜もこちらに?」
「ええ、そうです。夜は魔物が大量にやってきたので怖い思いをしました」
「見たところお怪我が無いようで何よりです。当日又は前日に何か変わったことはありませんでしたか?」
「この周辺の森では普段から魔物が発生していましたが、魔物災害が発生する数日前からは魔物の発生がありませんでした。当日も家に戻るときは魔物を見かけませんでしたが、戻ってから数時間後には大量に発生していたというところですね」
ミシェルさんはこの情報を既に聞いていたようで何も驚くことはなく質問を続けた。
「そうですか、当日だけでなく前日も魔物の発生に関して異常が見られたのですね。さらに変わったことはありませんでしたか?例えば...やたらと魔物が集まってくるなどの魔物の行動などはいかがだったでしょうか」
「当日の魔物の行動はおっしゃる通り、普段とは異なっていたように思いますね。当日はやたらと建物や自分に向かってきているように感じました。魔物の数が多すぎるのでそう感じたのかもしれませんが...」
この情報を聞いてもミシェルさんは顔色一つ変えない。これもギルドで同様の情報が出回っていたし、さすがに新たな情報ではない感じだな。
「魔物災害発生当時はかなりの魔物が同時多発的に発生していましたから、そのように感じたのも無理はないかもしれませんね。魔物発生時はずっとこの家の敷地内にいたのですか?」
「基本的にはそうです。ですが、魔物による被害が出ないように敷地に入ってこようとする魔物を倒したりしていました」
その言葉を聞いたとき、ミシェルさんとは別の宮廷魔導士が何やら手元を動かしたのが見えた。その後、その魔導士から魔力の流れを感じることができた。さらに、その他の魔導士たちはいつでも攻撃に移る準備をするかのように各々のMSDを握り直し、わずかだが剣呑とした空気が漂う。
周囲に魔物の存在は感じられないことから、魔物が攻めてきたという訳でもなさそうだ。だが、質問中のタイミングで魔法発動又は発動準備と言った行為をされると、自分が疑われているようでいい気分がしないな。と言うか、疑われているのだろう...。魔物が大量発生していた森の中に家を構えているわけだし、しょうがないような気もする。だけど、何もしていないのに無実の罪を着せられるのだけはごめんだ。
「それは大変でしたね。となりますと、この付近から離れたりはしていないのですね」
「そうですね。森の中にいるよりも家にいた方が安全なので」
「その様でしたら、こちらの写真に見覚えはありませんね」
そう言うとミシェルさん手をポケットに入れて、写真を取り出して見せてきた。その写真には誰かが意図を持って草刈りをしたかのように同心円状に植物が生えていない場所があるが、その周囲には樹木などの植物が生い茂っているような場所が映っていた。
植物の生い茂り加減から察するに、植物が場所は森の中なのだろう。魔物が発生しなくなるまでは家の周辺の森は魔物狩りで駆けずり回っていたが、あからさまに人の手が入ったような場所は無かったはずだ。
「見覚えないですね」
シンプルに返事をすると、魔法を発動していた魔導士が首を振り、魔力の流れが止まった。どうやら魔法の発動を止めたようだ。それに合わせるかのように、周りの魔導士たちはMSDを持つ手を緩めた。どうやら許されたらしい。よかった~無実な罪を着せられなくて。もしそうなっていたら、「幼女に無実な罪を着せる奴ら、天誅!」って言いながら暴れ散らかしていたかも。あ、でも幼女が幼女って言わないよな?考え直すか。
「そうですか、こちらからの質問は以上になります。ありがとうございました。カオリさんの方から何か質問はありませんか?」
「では、1つだけ。見せていただいたものは、何時どこで撮られたものかお教えいただけますか?」
「問題ないですよ。この写真はここから歩いて15分程度の場所で1時間ほど前に撮られたものです。それが何か気になりますか?」
「ええ、この周囲の森は普段から魔物狩りをしていたのですが、そのようなものは見た覚えがないので...」
「すみません、カオリさん!その話を詳しくお願いできますでしょうか?」
ミシェルさん、やけに食いついてきたな。食いついてき過ぎて一歩踏み出してきたぞ?後一歩近づいてきたら防犯ブザー鳴らしますよ?あ、でも、持って無いからパッションで鳴らそうかな?。
「では、少し詳し目に。7日ほど前までは魔物が発生していましたので、家の周囲の魔物を狩っていました。正直範囲は自信がないのですが歩いて20分くらいの範囲のように思います。ですが、その写真に写っているようなものは見当たりませんでした」
「では、7日前から直近については?」
「魔物が居なくなったのもあり、魔物狩りに出ませんでしたので、わかりかねますね」
「となると、この状況が発生したのは6日前以降で確定ですね...。情報ありがとうございました」
「何かお力になれたようで何よりです」
「それでは、私たちはまだ調査が残っていますのでこれで失礼します」
「お気をつけて」
ミシェルさん率いる宮廷魔導士の調査団は踵を返し、門扉から続く道から逸れて森の中へと入っていった。森は広いからこの後もまだまだ調査は終わらないんだろうな。お疲れさまだ。
それはそれとして、ミシェルさんが見せてきた写真がとても気になる。しかもこの写真が知っているかどうか探っているような感じだった。察するに、調査団的には魔物災害と深い関係にある光景と考えているようだ。
「写真に写っていた場所を探してみるか」
そうでもしないと、気になりすぎて今夜は寝れなくなりそうだ。
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