54 家が魔物に襲撃されている件3
(略しすぎています)
魔物の襲撃からかれこれ2時間が経過している。今は再び自室で休憩中だ。
魔物狩りと魔力タンクへ魔力エーテルの補充を1サイクルとして繰り返すことによってその場を凌いできた。だが、その策も限界が見えてきた。主に眠気的な問題で。
「ふぁぁ...慣れてきたら途端に眠気が...」
眠気は集中力を奪い、判断力だけでなく魔法や能力の行使が即座にできなくなるなどの影響を与える。だからか、1サイクル当たりの魔物討伐数がだんだんと減ってきている。最初は1サイクル200体くらい倒していたが、眠気に襲われている今となっては120体くらいだ。決してドロップする魔石を拾うのが面倒とかいうことではない。ないです。
一方で結界周辺の魔物数には変化が見られず、大量の魔物が周囲に存在している。これは魔物の数を減らして結界の負荷を軽減し、結界の魔力消費量を減らすという目的が達成されない事を示している。
そんな失敗とも言える作戦を行い続けているのには理由がある。
それは魔力タンクへの魔力エーテル供給を怠らないためだ。万一怠ってしまうと結界が維持できなくなるため、この家は魔物たちによって更地へと変えられてしまう。
そのような状況に陥らせる最大の敵は眠気だ。強烈な眠気は諸々の思考を停止させてどうでもよくさせる。その眠気に負けて眠ってしまうと、当然魔力タンクへ魔力エーテルの供給ができなくなるので家は更地となるだろう。
その眠気に負けないように魔物討伐で眠気覚ましを行っていたのである。紅茶を飲んで覚醒作用のあるカフェインを摂取していたけど、本当に眠い時って効かないんだよなぁ...。
「何か対策を考えないと...」
そもそもの話で考えるならば、結界自体には余力が十分にあるので魔力が供給され続けるならば完全放置でもなんとかなる。ただ、魔力エーテルをバカ食いするので魔力タンクに逐一供給しなければいけないという話だ。小さい魔力タンクだしすぐになくなるんだよなぁ。
「ん?魔力タンクを増設すれば済む感じじゃん」
そうじゃん、巨大な魔力タンクを増設したら問題解決じゃん?そうすれば寝れるじゃん!面倒な魔石拾いからも解放されるじゃん!じゃん、じゃじゃんじゃん!
魔力タンクの構造はシンプルだし、素材は魔力タンクの蓋を分解して解析したら何とかなる。だが、問題はどうやって結界起動中のMSDに増設するかだ。
普通に考えると魔力タンクからMSDに伸びるパイプをぶった切って新たに接続すれば何とかなる気がするが、魔力エーテルの供給が途切れるとMSDは止まり再起動を余儀なくされる。そうなると結界が無い時間帯ができるので100%面倒くさい場面になる。
「むむむ...今の魔力タンクの蓋の場所からホースか何かで別タンクと接続するのは...」
MSDの魔力消費によってメインの魔力タンクが負圧となり、その力でホースに繋がっている別タンクから魔力エーテルをメインの魔力タンクへ移すという作戦だ。これなら理想的には大丈夫そうだがメインの魔力タンクの気密性が十分でないとうまくいかない。
そもそもの話、一般的な製品は想定された用途でしか使えない。だから、魔力タンクの物理的な強度は通常の動作上で問題ない範囲しかないため、負圧をかけてるとかいう通常ではない動作は無理じゃない?そう思うとなんか、メインの魔力タンクの物理的特性に信頼がおけなくなってきたな。
いっその事、新しいMSDと巨大な魔力タンクでメインの魔力タンクへ魔力エーテルを自動供給する装置を作ったほうが楽なのでは?
「その通りでは?」
魔力エーテルの自動供給には供給するか否かの判定と供給するための力が必要になるが、その両方に適した魔法に見当がついている。
魔力タンクへ供給する力は、無属性の移動魔法を魔力エーテルに駆けることで何とかなる。
魔力供給するか否かの判定には弱い光属性の魔法をタンクの中で照射させるシステムで何とかなるだろう。具体的には光の屈折を利用したものを想定している。
魔法の光源を使用して互いに照らすように光源の向きを調整する。その時に水面がない場合は、互いの光線は相手を照らし、魔法に干渉することになる。魔法なので発動しているMSDには軽い負荷がかかる。一方で、光源の間に水面がある場合は、光りが屈折して光線が折れ曲がることで、互いが相手を照らすことは無くなる。そうなると魔法が発動しているMSDには負荷がかからなくなる。
このMSDにかかる負荷の違いで魔力エーテル面を検知するということだ。魔力エーテルは透明な液体だし、実体がある時点で屈折が発生するのは間違いない。
「問題なく形になりそうだ。それじゃ、制作にとりかかろう。目指せ、睡眠への道!」
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自動供給の要となるMSDと魔力エーテル面検知用MSDにはインターホンに使ったMSDもどきを流用することにした。
さらに自動供給システムに必要な魔法陣は図書館の隠し部屋?にあった結界の書に乗っていた魔法陣をを利用した。結界に関する書物とは言え、マジで汎用性が高すぎるな。感動レベルだ。
そんなこんなで魔法陣を脳内で構築して、MSDの核に組み込み、生成を行った。生成された検知用MSDはメインの魔力タンクのガラス面に取り付け、巨大なMSDは結界用MSDが置いている地下1階の下に耐魔力壁を使った部屋を用意してそこに設置した。さらに、その部屋には生成された巨大な魔力タンクも設置した。
わざわざ耐魔力壁を用意したのは魔力エーテルが関連した事故が起きても家が吹き飛ばないようにするためと、外部から魔力エーテルが大量にあるのを感知されないようにするためだ。危ない物は隠しておくに限る。
各種MSDとタンクを耐魔力物質でできたホースで接続して前準備は万端だ。後は、巨大な魔力タンクに魔力エーテルを満たして起動するだけだ。うまくいきそうな予感がしてワクワクしてきたぞ。
そんな中、魔力エーテルの不足を知らせるアラームが鳴り響く。
「うるしぇーーーー自分は早く寝たいんだ!」
メインの魔力タンクに魔力エーテルを供給してから、魔物をポコしつつ戦闘跡の整地を兼ねて魔石や木々など分解してエネルギーへと変えていく。魔石を拾うのが面倒だからとか決してそういうことではない。ないです。
3分程度ポコすのと整地を行ったのち、地下2階に移動してサブの巨大な魔力タンクに自信の能力で生成した魔力エーテルを満たし、準備万端となった。
そして今、巨大なMSDの目の前にいる。
目の前のMSDにある、起動開始のボタンを押すと魔力エーテルの自動供給が開始される。突貫工事で作ったものだけど、何とか動いてほしい。と言うか動いてほしい!
「頼むから動いてよ~~...ではないか。この場合は...よろしくお願いしまああああああ」
と、夏の戦争という映画にありそうな文言を言いつつ、祈るように巨大なMSDを起動させるスイッチを押した。
MSDは何事もなく起動したことを示すランプを灯した。それに伴い、魔力エーテルはホースを伝ってメインの魔力タンクの方へ移動していくのが見えた。
「魔力エーテルの移動、ヨシ!」
少し待つと魔力エーテルが移動しなくなったので、魔力エーテル面検知は機能しているようだ。
念のため地下1階のメインの魔力タンクを確認すると、魔力タンクから魔力エーテルがあれているということもなく、設定したレベルに魔力エーテルが存在していた。少し待っていると魔力エーテルが魔力タンクに供給される場面も確認できた。
「魔力エーテル面の調整、ヨシ!問題なし!よろしくできましたあああああ!!我、道の終着点に至り!自分は寝る!」
魔力エーテルの自動供給装置がうまく動作したことに感極まって結界用MSDの前でガッツポーズを決めた後、ダッシュで自室に駆け込んだ。そして、目にもとまらぬスピードでいつもの軍服ワンピースから寝間着に着替え、ふかふかなベッドにダイブインした。
ふかふかなベッドによって体が溶かされるように沈んでゆく。さらに、布団の僅かな重みが体とベッドの境界を曖昧にさせ、意識の輪郭をにじませてゆく。
「これはぐっすり眠れることができr...」
今日一日の出来事が多すぎて疲れていたのもあり、すぐに深い眠りへと誘われた。
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