49 決意を新たに
(略しすぎています)
サリアは自分の胸の中でギャン泣きしていたが、それも落ち着いたようで離れてくれた。
「サリア、落ち着いた?」
「もう大丈夫。ありがとう」
サリアは自分に微笑みかけるが、その表情にはわずかに陰りがあるように感じられた。だが、サリアの微笑みはその理由の追及を許してくれなかった。
だから、自分も踏み込まないことにした。
「それはよかった」
自分もそう言って微笑み返す。
シリアス的なところを感じていたところに、エルバ先生の声が聞こえてきた。
「カオリさーん、やっと見つけました」
声がした方に振り返ると、校舎の方から走ってくるエルバ先生の姿があった。ただ、相当ばてているようで足取りがおぼつかない。
「カオリちゃん、エルバ先生と何かあったの?」
サリアは疑問そうに聞いてくるが、本当のことを言うつもりはない。それはゲセスター絡みの面倒な問題だからだ。単なる生徒間の問題だが、ゲセスターの背後にいる人物が強大であるため、下手に関わると同じ被害者となってしまう。自分ならば力で黙らすことも可能だが、サリアだとそうはいかない。
それに、単純に、この問題には関わることで怒りや蔑みといった負の感情を持つ時間が増えてほしくない。笑顔でいてほしい。
なので、嘘を言わない程度の返答を返す。
「ちょっとね。決勝戦までの待ち時間に付き合ってもらってた」
「そういうことね。なんか込み入った話しそうだし、リナちゃんとシルフィアちゃんと話しているね」
「はいなー」
そう言うとサリアは少し離れた位置で生暖かい視線を送っていたリナとシルフィアの方へと向かっていった。それに代わってエルバ先生が自分の近くにやってきた。
そのエルバ先生は肩で息をしており、汗で髪が張り付いている。どう考えてもバテて大丈夫でない感じがするが、一応聞いておこう。
「エルバ先生、大丈夫ですか?」
「はい、なんとか。でも、息を整える、時間をくれると、助かります。」
やっぱり、大丈夫でなかったようだ。
________________________
「もう大丈夫です」
疲れてはいるが、息は整ったようだ。
「カオリちゃん、魔物と戦ったそうですけど大丈夫でしたか?どこか怪我とかしていませんか?」
「ええ、全然けがしていないです。この通り」
「怪我が無くて本当に安心しました」
そういうエルバ先生は口から息を吐いて、緊張を解いた。
「校舎の方で仕事が入って決勝戦の途中までしか見れてませんでした。仕事が終わってどうなったか同僚に聞いたら、魔物と戦っていると言っていたので、心配で探しましたよぉ~。」
「心配してくれてありがとうございます。一応簡単に言うと、普通に決勝戦をしていると、途中に魔物が発生して、それを倒してた感じです」
「先生が聞いたのと同じですね。まさか、魔物が発生するなんて思いもしなかったので混乱してしまいました。しかも、先生では敵わない程に強い魔物と聞いていましたから、余計に混乱しましたよ」
「どうやら、エリート級のゴブリン?とかいう魔物だったみたいです」
「え、エリートゴブリン!?しかも無傷で?信じられませんが、そうなんですよね...?」
「そうみたいなんですよー」
「どう倒したんですか?怪我が無いということは魔法ですよね?」
「はい、アイスニードルでグサッと」
「アイスニードルですか?水属性の基礎魔法を代表する魔法です、よね?」
「そうですね。それで何とか止めを刺した感じです。」
「魔物を倒したのも驚きましたが、基礎魔法で止めを刺したのは余計に驚きました。強い魔物にはより威力の高い魔法でないと止めを刺せないと聞いていたので。魔物との戦闘に関しては学び直さないといけないですね」
エルバ先生はおもむろにメモ帳を取り出して書き込み始める。随分と勉強熱心だな。
「あ、唐突に思い出しましたけど、決勝戦の結果ってどうなっているんですか?」
エルバ先生はメモ帳にメモをしながら答える。
「すみません、そこは私にも分からないです。他の先生たちも魔物が発生した時の衝撃が大きくて議題にも挙がってないと思います」
「そうですか。了解です」
魔物騒ぎで勝敗着かずで終わってしまったので、気になって聞いてみたが勝敗着かずのままみたいだな。そうなると、再戦の可能性が残っているのか。面倒過ぎるな。神頼みレベルで面倒だ。女神様マジ頼んだ。
一方でエルバ先生は、「よし!」と言いつつメモ帳を仕舞った。そして、ついでと言わんばかりに腕時計を見た途端、焦り出した。
「あわああ!緊急会議の時間に遅れる!?急がないとですね。何はともあれカオリさんが無事なのを確認できたので良かったです。後で試合内容とか色々教えてくださいね!」
そう早口で言うと、目まぐるしくエルバ先生はダッシュで校舎の方向へ向かっていった。
さっきまで、超絶肩で息をしていたのに大丈夫なんだろうか?
______________________________
サリア、リナとシルフィアの3人と共に、祝勝会を兼ねて防音設備が素晴らしいカフェに来た。
せっかくカフェに来たというのに、いまだにお茶や、ケーキに手を付けることができていない。というのも、準決勝や決勝戦での戦闘についてとか、魔物が出てきたときの事の経緯とか色々根掘り葉掘り聞かれたからだ。傍から見ていたからか気になる部分も多かったのだろう。おかげで、祝勝会という名の尋問会だと勘違いしそうになった。
3人にはこの問題に関わってほしくはないから、できるだけゲセスターの問題に関わる魔法発動妨害魔法や魔物発生原理などには触れずに、あくまで戦闘面だけを話した。
トーナメントの話についてはひとしきり話し終えたので、今の話題はギャン泣きしていたサリアについてだ。もちろん表面的な話である。
「サリアってなんかカオリちゃんの妹みたいだね」
「それとても分かります...普段はしっかりしているのでお姉ちゃんって感じですが、カオリちゃんにあやされているサリアちゃんは完全に妹ですね」
以前、工房シュトーでサリアが抱き着いてきてギャン泣きしたりしたっけ?その時の情景を思い出しても妹って感じがしたので同意することにする。
「確かに、サリアは妹って感じするなぁ」
「もう、みんなしてからかってる?確かにカオリちゃんに胸を貸してもらった時は、そう思うかもしれないけど...。一応、聞いておくけどみんなと同い年だよね?16歳、だよね?」
え、この学園って高校生相当なの?初めて知ったというか気にしたというか...。少し幼い感じの中学2,3年生?かと思っていたが、確かに、言われてみればリナとかシルフィア、サリアの顔つきが高校生っぽく見えなくもないな。
「私、16歳!」
「私も16歳です」
「自分は12歳です」
「「「え?」」」
「え?」
「え、カオリちゃん12歳なの!?」
「カオリちゃん、本当ですか...?」
「本当に??」
え、どうしたのみんな?ここはサリアが妹みたいって弄るところじゃないの?急に反旗翻すじゃん。手のひら燕返しじゃん。
とは言え、ギルド証の手続きの時に自分は12歳と記入したのでそれで押し通すしかないのだ。
「そうだよ。12歳?くらい」
「「「えええええ!!!」」」
なんでそう驚くよ。
シルフィア、リナ、サリアが順に言葉を発する。
「サリアちゃんは落ち着いていますし...!」
「物知りだし!」
「とても強い!」
らしいです。傍から見ると。
「「「だから年齢詐称した16歳だと思ってました!ごめんなさい!!」」」
「詐称ってどういうこと!?って感じだけど、許します!」
「ぷっ」
「「「「あっはあははは」」」」
自分、サリア、リナとシルフィアの4人で集まる空間に笑いが木霊する。
この空間がずっと続けばいいと思うし、守っても行きたい。だから、影を落とすような問題を共有したくはない。そう決意を新たにした。




